続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第三章 ダンス練習は初手から緊迫

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 事務所シャカシャカの広々とした会議室にて、来年度のアーティストの売り出し方についての戦略会議が開かれる。が、まだ開始時間までには余裕があるため、社長や幹部はまだ姿を現わしていない。ジャニ西のマネージャー磁路と納多は末端の隣り合った席でぼそぼそと話し合っている。

「牛家族の調子はいかようだ?」

「春にアルバムをリリース予定だからな。今は楽曲製作がメインだ」

 どちらも美しい男だが、磁路はまるで千尋の山岳のような雄大さ、納多は草原を吹く風のような颯爽さにおいて各々勝っている。そんな二人が並んでいれば眼福も眼福であり、周囲の社員たちは色めき立っている。が、本人たちはまったく気にも留めていない。

「それでも新春の歌番組の特番にも呼ばれておったではないか」

 磁路は腕組みをして唸りながら言った。この男、ジャニ西の面々(特に悟空と八戒)に影響されたものか、少々態度が野卑になりつつあるようだ。一方の納多は優雅に涼しい顔で頷いた。

「ああ、しばらく露出が少なくなるだろうからねじこませた。春先の特番出演も決定済みだ」

「まさか枕営業ではなかろうな」

 磁路は顎を突き出して威嚇するように言った。

「プロデューサーの弱みを握って脅しただけの事」

「お主……。やりおるな。まさかその手を使って紅白も?」

 磁路はごくりと唾を飲んだ。楽曲の再生回数、ダウンロード数等を比較すればJouney to the Westよりも牛家族の方が格段に上回っている。デビュー時期は同じはずであるのに、と珍しく磁路は焦りを隠せないでいる。

「紅白はプロデューサー一人を脅してもあまり効果がない。選抜会議で名前を挙げてもらえるよう、長期的計画に基づいて根気強く地道な根回しが必要である。最終的に出演こそ断ったものの、候補に挙がったというだけで箔が付く効果はやはり旨味がある故、それだけの価値はあるものと判断した」

 納多の若々しい容姿や仕草とは不似合いなやさぐれた笑みがその頬に張りついている。この男も語らぬだけで人間
の欲望渦巻く芸能界で相当揉まれたらしいと磁路は察する。と同時に、納多ほど必死にジャニ西を売り込まなかったのは自分の仕事が至らなかったせいではないかと後悔が先立つ。

「そうかっ。この芸能界、やはり綺麗ごとだけでは生き抜いていけぬということであろう。……ぬおう。やはりジャニ西が紅白の候補に挙がらなかったのはマネージャーである私の手腕と努力が足りておらぬせいであったというべきであろうの」

 これまでの後悔とこれからの決心を持って今すぐ駆け出していきそう磁路の袖を引っ張りつつ、納多は笑った。相変わらず納多が笑うと薫風が吹き抜けるような爽やかさである。

「しかし、磁路殿の長所はそのまっすぐな性根と思うがな。私のように裏でこそこそやらずに、正面から仕事をもらって知名度を上げていくという方法もまた正攻法。ミュージックの頂点を獲るための方法は一つではないと私は考えるが」

「……むむ、そうだと言えるやもしれぬが。いや、納多殿。これからもいろいろご教示くだされよ」

「もちろん。互いに情報交換を行い、切磋琢磨励みましょうぞ」
 部屋の暖房が音を立てて唸っている。磁路は知らず体温が上がっている。

 ジャニ西にはまだまだ飛躍の余地がある。それはマネージャーの働きにかかっているのだ。
 
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