続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第三章 ダンス練習は初手から緊迫

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 さてロックバンド牛家族はアルバムを制作するため、作曲家の玉竜と話し合いを重ねている。デビュー後、初めてのアルバム製作とあって、既存の曲と新曲の数のバランスや全体のコンセプトイメージなど決めるべき点は多くあり、メンバーの他もちろんマネージャーの納多とプロデューサー太上も同席している。
 
 玉竜は「コンセプトイメージ:発火 出発点 情熱」と大きく書かれた企画書をペンで叩きながら口火を切った。

「あのさ、一曲くらいはしっとりしたバラードも入れたいんだよね、僕としては」

 プロデューサー太上は神妙な顔で眉を寄せた。

「アルバムのコンセプトイメージにはそぐわない可能性があるのぅ」

 そもそもこの冴えないコンセプトイメージから見直す必要があるんじゃないの、とプロデューサー太上の作った企画書をひらひらさせながら玉竜は小さな声で悪態をつく。

 ベース担当の羅刹女はコーラを飲みきってから言った。

「バラードは盛り上がらないだろう?アタシはあまり賛成できないね」

「ライブでも盛り上がるよ。聞かせる価値のある歌ならさ。紅害嗣に迫力のあるバラード歌わせてみたいんだよね、絶対映えるって。新たな魅力をうち出せるよ」

 めげない玉竜の意見に、納多は頷いた。

「玉竜の意見は的を射たものと思うが、しかしバラードを発表するタイミングは見極めねばならんな、果たして今が適当であるのか」

「初めてのアルバムなんだし、牛家族のこれからの可能性を見せていくために楽曲の幅は広い方がいいと思うなあ。ねえ、紅害嗣はどう?バラード歌ってみる気ある?」

 玉竜は身を乗り出して尋ねたが、紅害嗣は思ったほど食いつかなかった。

「バラードは今まであんまり歌ったことねえし、……わからねえな」

 沈黙してしまった部屋で、太上は泰然と座ったままの大男に水を向けた。

「牛魔王はどうかの?」

 煙草を吸おうとして「ここは禁煙だよ」と隣の羅刹女に取り上げられた牛魔王は、ため息をついてから答えた。ドラムを叩くことには熱意を燃やしているが、彼はあまり楽曲製作には興味がないのだ。

「……わしと同意見だ」

 鬼の首をとったように羅刹女が話を引き継いだ。

「ってことは、今回はバラードはなしってことじゃない?同じロックでもハードもあるし、この前やったジャズっぽいやつとか、ポップス系もあるしそれで幅見せてけばいいんじゃないの?うちの和男に感傷的なバラード歌わせる意味がわかんねえわ」

「俺にはもっと激しい歌が似合うってことかよ?」

 息子の紅害嗣が疑問を呈すると、羅刹女は肩をすくめた。

「そもそも若いうちから組で若頭だなんだとちやほやされて、そのまんま芸能界デビューまでしちまった坊やには、人を感動させるようなバラードなんて歌えやしないのさ。まずは人生経験が足りてないんだよ」

 紅害嗣は拳を握った。

「……このクソババアが、殴られてえのかよ」

「私に手を出したら、父ちゃんが黙っちゃおかねえぞ、わかってんのかドラ息子」

 いがみ合う紅害嗣と羅刹女の間を遮るように、太上がまあまあととりなす。太上は罪のなさそうな恵比須顔で一同を見回しながら宣言した。

「バラードの件はとりあえず棚上げにしておく、ということで良いであろうな?」

(そんな調子だから話が全然進まないんですけど……)と玉竜はふくれ面をしている。

一同を見回しつつ、納多は顎をさすりながら(紅害嗣に新たな挑戦をさせるためには何か起爆剤が必要かもしれない)と冷静に考えている。
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