25 / 95
第三章 ダンス練習は初手から緊迫
2
しおりを挟む
さてロックバンド牛家族はアルバムを制作するため、作曲家の玉竜と話し合いを重ねている。デビュー後、初めてのアルバム製作とあって、既存の曲と新曲の数のバランスや全体のコンセプトイメージなど決めるべき点は多くあり、メンバーの他もちろんマネージャーの納多とプロデューサー太上も同席している。
玉竜は「コンセプトイメージ:発火 出発点 情熱」と大きく書かれた企画書をペンで叩きながら口火を切った。
「あのさ、一曲くらいはしっとりしたバラードも入れたいんだよね、僕としては」
プロデューサー太上は神妙な顔で眉を寄せた。
「アルバムのコンセプトイメージにはそぐわない可能性があるのぅ」
そもそもこの冴えないコンセプトイメージから見直す必要があるんじゃないの、とプロデューサー太上の作った企画書をひらひらさせながら玉竜は小さな声で悪態をつく。
ベース担当の羅刹女はコーラを飲みきってから言った。
「バラードは盛り上がらないだろう?アタシはあまり賛成できないね」
「ライブでも盛り上がるよ。聞かせる価値のある歌ならさ。紅害嗣に迫力のあるバラード歌わせてみたいんだよね、絶対映えるって。新たな魅力をうち出せるよ」
めげない玉竜の意見に、納多は頷いた。
「玉竜の意見は的を射たものと思うが、しかしバラードを発表するタイミングは見極めねばならんな、果たして今が適当であるのか」
「初めてのアルバムなんだし、牛家族のこれからの可能性を見せていくために楽曲の幅は広い方がいいと思うなあ。ねえ、紅害嗣はどう?バラード歌ってみる気ある?」
玉竜は身を乗り出して尋ねたが、紅害嗣は思ったほど食いつかなかった。
「バラードは今まであんまり歌ったことねえし、……わからねえな」
沈黙してしまった部屋で、太上は泰然と座ったままの大男に水を向けた。
「牛魔王はどうかの?」
煙草を吸おうとして「ここは禁煙だよ」と隣の羅刹女に取り上げられた牛魔王は、ため息をついてから答えた。ドラムを叩くことには熱意を燃やしているが、彼はあまり楽曲製作には興味がないのだ。
「……儂はかみさんと同意見だ」
鬼の首をとったように羅刹女が話を引き継いだ。
「ってことは、今回はバラードはなしってことじゃない?同じロックでもハードもあるし、この前やったジャズっぽいやつとか、ポップス系もあるしそれで幅見せてけばいいんじゃないの?うちの和男に感傷的なバラード歌わせる意味がわかんねえわ」
「俺にはもっと激しい歌が似合うってことかよ?」
息子の紅害嗣が疑問を呈すると、羅刹女は肩をすくめた。
「そもそも若いうちから組で若頭だなんだとちやほやされて、そのまんま芸能界デビューまでしちまった坊やには、人を感動させるようなバラードなんて歌えやしないのさ。まずは人生経験が足りてないんだよ」
紅害嗣は拳を握った。
「……このクソババアが、殴られてえのかよ」
「私に手を出したら、父ちゃんが黙っちゃおかねえぞ、わかってんのかドラ息子」
いがみ合う紅害嗣と羅刹女の間を遮るように、太上がまあまあととりなす。太上は罪のなさそうな恵比須顔で一同を見回しながら宣言した。
「バラードの件はとりあえず棚上げにしておく、ということで良いであろうな?」
(そんな調子だから話が全然進まないんですけど……)と玉竜はふくれ面をしている。
一同を見回しつつ、納多は顎をさすりながら(紅害嗣に新たな挑戦をさせるためには何か起爆剤が必要かもしれない)と冷静に考えている。
玉竜は「コンセプトイメージ:発火 出発点 情熱」と大きく書かれた企画書をペンで叩きながら口火を切った。
「あのさ、一曲くらいはしっとりしたバラードも入れたいんだよね、僕としては」
プロデューサー太上は神妙な顔で眉を寄せた。
「アルバムのコンセプトイメージにはそぐわない可能性があるのぅ」
そもそもこの冴えないコンセプトイメージから見直す必要があるんじゃないの、とプロデューサー太上の作った企画書をひらひらさせながら玉竜は小さな声で悪態をつく。
ベース担当の羅刹女はコーラを飲みきってから言った。
「バラードは盛り上がらないだろう?アタシはあまり賛成できないね」
「ライブでも盛り上がるよ。聞かせる価値のある歌ならさ。紅害嗣に迫力のあるバラード歌わせてみたいんだよね、絶対映えるって。新たな魅力をうち出せるよ」
めげない玉竜の意見に、納多は頷いた。
「玉竜の意見は的を射たものと思うが、しかしバラードを発表するタイミングは見極めねばならんな、果たして今が適当であるのか」
「初めてのアルバムなんだし、牛家族のこれからの可能性を見せていくために楽曲の幅は広い方がいいと思うなあ。ねえ、紅害嗣はどう?バラード歌ってみる気ある?」
玉竜は身を乗り出して尋ねたが、紅害嗣は思ったほど食いつかなかった。
「バラードは今まであんまり歌ったことねえし、……わからねえな」
沈黙してしまった部屋で、太上は泰然と座ったままの大男に水を向けた。
「牛魔王はどうかの?」
煙草を吸おうとして「ここは禁煙だよ」と隣の羅刹女に取り上げられた牛魔王は、ため息をついてから答えた。ドラムを叩くことには熱意を燃やしているが、彼はあまり楽曲製作には興味がないのだ。
「……儂はかみさんと同意見だ」
鬼の首をとったように羅刹女が話を引き継いだ。
「ってことは、今回はバラードはなしってことじゃない?同じロックでもハードもあるし、この前やったジャズっぽいやつとか、ポップス系もあるしそれで幅見せてけばいいんじゃないの?うちの和男に感傷的なバラード歌わせる意味がわかんねえわ」
「俺にはもっと激しい歌が似合うってことかよ?」
息子の紅害嗣が疑問を呈すると、羅刹女は肩をすくめた。
「そもそも若いうちから組で若頭だなんだとちやほやされて、そのまんま芸能界デビューまでしちまった坊やには、人を感動させるようなバラードなんて歌えやしないのさ。まずは人生経験が足りてないんだよ」
紅害嗣は拳を握った。
「……このクソババアが、殴られてえのかよ」
「私に手を出したら、父ちゃんが黙っちゃおかねえぞ、わかってんのかドラ息子」
いがみ合う紅害嗣と羅刹女の間を遮るように、太上がまあまあととりなす。太上は罪のなさそうな恵比須顔で一同を見回しながら宣言した。
「バラードの件はとりあえず棚上げにしておく、ということで良いであろうな?」
(そんな調子だから話が全然進まないんですけど……)と玉竜はふくれ面をしている。
一同を見回しつつ、納多は顎をさすりながら(紅害嗣に新たな挑戦をさせるためには何か起爆剤が必要かもしれない)と冷静に考えている。
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる