続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第三章 ダンス練習は初手から緊迫

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 ダンスと共に披露するはずのジャニ西の新曲は、玉竜がまだ構想を練っている段階である。まずはダンスの基礎的な動きを身につけるための練習曲として選ばれたのはジャニ西の代表曲とも言うべき「Beyond the Road」であった。曲に合わせて、金狩と銀狩がオリジナルに考えてくれた振付を習っていく。本日磁路は席を外しており、ジャニ西四人と金狩と銀狩の二人で練習している。

 次々に悟空と八戒チームは振付を覚えていくのに対し、玄奘と悟浄チームはいつまで経っても首のアイソレーションから先に進めないでいる。部屋には悟空と八戒が振りを踊るための音源が流れ、玄奘と悟浄はいつまでも音楽に合わせることができないまま、首を前後左右に動かすことを続けている。

 金狩チームが雑談を挟みながら和気あいあいと練習を進めていくのに対し、銀狩の指示は端的で、どちらかというと「見て学べ」というタイプだ。彼が規則正しくとるカウントで玄奘と悟浄は首を動かしていく。

「玄奘さん、肩を上げたらあかんって」

 銀狩には何度も同じことを注意されている。頭ではわかっているのだが身体が思い通りに動かないのだ。首だけを動かそうとしても、つい肩に力が入り一緒に動いてしまう。鏡にはみっともない動きをしかできない自分が映っている。目を逸らしたいくらいだ。隣の悟浄はぎこちないながらもある程度になった動きはできている。玄奘はぐっと奥歯をかみしめて頭を振った瞬間、少しふらついた。

「玄奘も大分疲れているようでござる。一度休憩をとってよろしいか」

 見かねた悟浄が庇ってくれるが、銀狩は呆れたようにため息をついた。

「ほんまに過保護にされてんねんな。やる気のない奴はいくらでも休憩したらええわ」

「やる気はあります……」

 ふうふうと息をつきながらも玄奘はタオルで汗を拭いながら言い、再び練習に戻ろうとするが、「そのように足元がふらついていては危険でござる。怪我をしては元も子もない。休むこともまた戦略である」と悟浄に止められる。

 少し距離を置いた場所で踊る悟空の姿は、自分の恋人であるという事実を差し引いても格好良かった。まだダンスを始めて数日しか経っていないということが信じられない。

「空ちゃん、ウェーブ綺麗。八ちゃんもそのインの時の表情良いね。」

 金狩は自分も踊りながら、二人のダンスを注意深く観察し、それぞれの長所を引き立てるような指導を即座に行っている。すごい集中力だ。

「いいよいいよ、ここは完全に身体を止めて。指先まで意識」

 悟空と八戒はさすがにまだ振付を踊るのが精一杯で、動きは軽やかだがまだ目を引く華やかさには欠けている。それでも金狩の指導が入る度にまるで魔法のステッキがふれたみたいにその部分に煌めきが宿っていくのが見ていてわかる。

 玄奘は一つ息をつく。ペットボトルの蓋を開けた際、自分の手がわずかに震えていることに気が付いた。水分を摂る。少し脱水ぎみなのかもしれない。玄奘は頭からタオルを被り、少し俯いたまま座っておく。

 気落ちした身体と心はマイナス思考に寄りすぎるから、今はあまり考えない方がいい。ただ自分の呼吸に集中する。
 
 ダンスで身体を動かしつつも悟空は悟空で、玄奘が座り込んだままでいるのをじっと見ている。磁路からは、悟空と玄奘が交際していることを世間にも秘匿している以上、金狩銀狩にも悟られてはならないときつく戒められている。

 実は悟空は踊りながら悟浄を睨みつけ、『もっと玄奘に優しく接しろとあいつに言えよ』と先程から熱心にアイコンタクトを送っているのだが、悟浄は気付いているものか判然としない。玄奘の隣を離れないのは良いとして、銀狩に文句を言うでもなく黙ったままでいる。 

「空ちゃん、ここはもっと膝を落とした方が見栄えがするよ」

 先頭で踊る金狩に声をかけられたが、玄奘の様子に気を取られている悟空は反応しない。

「兄貴、もっと膝を落とせってさ」

 隣の八戒からぼそっと声を掛けられ、「お、おう」と悟空はダンスに意識を戻す。

 これ以上少しでも水を注げばこぼれ出てしまうグラスのように不穏な空気が練習室に満ち満ちていた。

 
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