続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第三章 ダンス練習は初手から緊迫

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「まぁた、あいつらと話してたんですか」

 タオルで頭を拭きながらスエット姿の悟空がリビングに現れた。

「声が大きかったかな。うるさかった?」

 悟空は玄奘の隣に腰を下ろしながら言った。

「だいじょうぶですよ。でも、よくそんなに話すことがありますね」

「う、うん。……妬いた?」

「妬きませんよ」

 本当は妬いているのは自分の方だ。悟空があの金狩のことをどう思っているのか聞きたい。しかし悟空に面倒がられて幻滅されるのは避けたい。玄奘は唇をぐっと噛んで堪え、その代わりに八戒からの提案を思い起こす。「思いつく限りえっちなこと」をして、恋人としての仲を深めたら良いのだ、きっとこの不安も消えるに違いない。

(アイスの件然り、私の感覚は通常の基準とは異なっているのかもしれない。ということは、私が考えるえっちなことは他の人にとってはそうでもない可能性もある。悟空が喜びそうな、えっちなこととは……)

 虚空を見上げながらぐるぐると考え込んでいる玄奘を悟空は口元を緩めて見つめた。玄奘にとっての重要事を考えているらしい、と悟空は見てとり、邪魔をしないでおこうと無言で立ち上がる。このところ玄奘は思い悩んでいる様子なのに自分から線を引こうとしているように見えるせいだ。

「悟空……待って」

 玄奘が悟空のスエットの裾を掴んで引き止めた。

「何です?」

 微妙に頬を赤らめた玄奘は悟空の口元を見ながら言った。恥ずかしくて目を合わせられないのだ。

「その……私にやってほしいことはあるだろうか。何か……えっと、なんでも」

「やってほしいこと?」

 玄奘はこくこくと頷いた。悟空はふと笑って優しい声で言った。

「じゃあ、前みたいに頭を乾かしてほしいですね」

「そ、そうか……」

 玄奘は少し落胆したが、頷いた。少し斜めに腰かけた悟空の後ろから玄奘はドライヤーで髪を乾かしてやる。少し俯いた悟空の顔は見えないが、力の抜けた肩のラインでリラックスしていることがわかる。

 よく見れば悟空の首の付け根には小さな黒子が三つ並んでいる。まるでお守りのように等間隔にきちんと並んだそれを玄奘は微笑ましく見つめてから、そっと息をつく。悟空の髪を乾かすのは、自分にだけは無防備な背中を預けてくれるようで玄奘にとっても嬉しい、のだが。

(……そういう意味ではなかったのだけど)
 それでも「もっとえっちなことだよ」と訂正する気力も残っておらず、玄奘は黙ってドライヤーを動かした。
 
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