続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第四章 旧正月の意外な誘い

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 玉竜作の新曲『砂漠』の仮譜を関係者で集まって聞くこととなった。プロデューサー太上と磁路が事前にいくつかの候補曲の内から選定したものである。
 
 ベースの印象的なイントロで始まるこの曲はバウンシーなビートが特徴的だ。全体的にチルで緩い雰囲気だが、サビでは自然に身体が動くようなキャッチーさもある。流れるようなメロディに載せて流転輪廻から逃れられない苦しみをもがきながらも軽やかに歌い上げる。

「いいじゃん。夜のドライブで聴きたい感じじゃん。脱力系のダンスで歌ったらモテそうだよ」

 八戒はすぐに気に入ったようだ。

「ラストの『止めないでそのまま』という繰り返す歌詞は解釈が分かれそうで、良い感じだ」

 玄奘が頷きながら言うと、一緒に仏教談議した成果だよね、と玉竜は、にこっと笑い返す。

「解脱に至れたのかどうか……。タイトルの『砂漠』がまた意味深であるな」

 悟浄は無駄に深遠な表情で頷きながら言った。隣の悟空も既にやる気のようで現実的な懸案を持ち出す。

「このちょっともたれたようなビートとグルーヴ感を出すためには、悟浄とおれでの練習が結構必要になりそうだな」

 玉竜は我が意を得たりと、手を叩いた。

「その通り。この曲のキーパーソンは悟浄だよ。ベースが転ぶと途端にカッコよくなくなっちゃうから、悟浄には猛特訓してもらわないと。悟空のパーカスともばっちり合わせないといけないしね」

 玉竜の言葉に悟浄は深く頷いた。これはわかりにくいが気合が入っているのだと、メンバーには伝わる。

 磁路は黙って参加している金狩と銀狩に水を向けた。

「angle Kさんとangle Gさんもダンスの振付を考えるにあたり、何かアドバイスや意見等あれば遠慮なく言ってもらいたい」

 金狩は名前を呼ばれた仔犬のように無邪気に笑って腕と肩を巧みに動かした。

「イントロのところカッコいいし、こんな動き入れたらどうやろ」

 銀狩が眼鏡をずり上げながら言った。銀狩はダンスをしないときは眼鏡をかけるのがデフォらしい。

「それは落ちこぼれが無理やろ。まだ首だけのアイソレーションもできひんのやし」

「銀狩がそれまでに二人を鍛えあげたらいいやんか」

「お前、簡単に言うけどな……」
 けんかが始まりそうな二人に、玉竜は真剣な顔で問うた。

「僕の曲で本格的にダンスをつけてもらったことが今までないんだけど、今の感じで踊れる?何か気を付けた方がいいことってあるかな?」

 金狩は打てば響くように即座に応える。

「お兄さんが今回はベースがポイントって言ってたやん。それはほんまダンスにも言える話で、グルーヴ感のためにベースはすごく重要やと思う。この曲ならBPM120で四つ打ちやし、疾走感あるから踊りやすいんちゃうかな。あとはベースの出来次第や」

 銀狩が付け足した。

「本番はアカペラで歌いながら踊るんやろ?ベースのリズムが取りやすいような振りを考えるし、心配いらんわ。あとは落ちこぼれ二人がどこまで踊れるようになるかやけど」

 暗にプレッシャーをかけられた悟浄と玄奘はごくりと息を呑む。磁路は、と気合を入れて会議を締めくくった。

「『砂漠』は多重録音した前回と異なり、すべて生音で歌いながら、かつダンスをしながらのパフォーマンスとなる。持久力や肺活量も鍛えておく必要があるからな。各自さぼらずに身体づくりに励むように」

 話し合いを終えたあとも、なかなか興奮冷めやらずメンバーは部屋に残っている。金狩がいつの間にか悟空の傍にいて話しかけていることに玉竜は気付く。

「僕ら、東京来る前にジャニ西の曲聴きまくってきたんやけどな。空ちゃんがメインボーカルとった『Bite the Peach』、攻めたサウンドがめちゃくちゃカッコ良かったし、新曲もあんなんがええなあと思ってたんやけど……そうかあ、今回はやっぱり玄奘さんがメイン歌うんやな」

 ため息をつく金狩の発言を気にした様子もなく、悟空はさらりと受け流す。

「あくまでもおれ達のメインは玄奘だしな」

「空ちゃんの声やって素敵やったよぉ」

「そうかよ」

 ジャニ西の他の三人は話をしているふりをしながら、それとなく耳を澄まして二人のやりとりを聞いている。金狩はしゃべり続ける。

「ああ、でも、空ちゃんはボイパ担当やもんな。歌うのより難しんやろ?ジャニ西は空ちゃん以外にボイパできる人おらんの?だから空ちゃんが一番大変な役割やねんな。カッコいいわ」

 饒舌な金狩に、リュックを背負った銀狩が声を掛ける。

「もう僕帰るし、置いてくで」
 金狩は悟空の腕を掴んで手を振った。

「ええよ。僕は空ちゃんと飯食ってから帰る」 

「勝手に決めんな」
 金狩に腕を掴まれた悟空が振り払った瞬間、玉竜は大きな声で言った。

「これからジャニ西四人は僕とボイトレだから。ごめんねー、関係者以外はお帰り下さい」

 玉竜は玄奘の耳元で付け足す。
「僕あいつ、嫌いだよ。玄奘のことを軽く見てる感じもすごい腹立つ」

 まあまあ、と玉竜をとりなしながら、玄奘は(傍から見てわかるほど私は侮られているのだろうか)と危ぶむ。


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