続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第四章 旧正月の意外な誘い

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 ジャニ西メンバーは取材やテレビ出演等もこなしつつ、玉竜との個々のボイトレも始まり、ダンスと歌の練習に当てる時間がかなり長くなってきている。磁路からも空いた時間は体力づくりをするよう言い渡されており、息をつく暇もない。
 
 玄奘は遅れているダンス練習に励み、悟空は悟浄と楽曲のベース練習に取り組んでいる。玄奘と悟空の二人は同じ部屋に住んでいるとはいえ、帰宅時間もばらばらでなかなか恋人としてのゆったりした時間はとれないままだ。玄奘は自分の不甲斐なさに悟空を巻き込むことを恐れてダンスの話題は避けており、悟空も玄奘の気持ちを察してか、距離を詰めることには慎重になっているようだった。
 



 磁路が言っていた通り、旧正月、すなわち春節は毎年事務所シャカシャカ全体で祝っているらしく今年はジャニ西メンバーも準備に駆り出された。料理の得意な悟浄と羅刹女はスタッフに混じっててきぱきと動いている。

 初めは面倒がっていた悟空と紅害嗣も一度手を動かしてしまえば、二人ともまめな気質なので料理に精を出している。事務所の給湯室ではスペースが足りず、廊下にもカセットコンロを出して陣取り、まるで出店か炊き出し場のようにせわしない雰囲気である。

 よく気の回る磁路や納多は、会場内を飛ぶようにしてあちこちに指示を出している。玄奘や八戒、牛魔王らはその指示を守るふりをして、会議室の設営と飾り付けをのんびりと行っている。

「事務所スタッフは天界人だからほとんど食べないのに、めちゃくちゃ食べ物ありますねえ。まあ、俺は美味いもん食べられればそれでいいけど」

 会場に椅子を運んでいたはずの八戒だったがもう飽きたらしい。持っていた椅子を部屋の真ん中に置いて、そこに座ってしまった。その暢気さにつられて、玄奘もうっかり足を止めてしまう。

「春節を祝おうという意欲が伝わってくるよね。この前のお正月は慌ただしく過ぎてしまったし、みんなで集まって賑やかに準備してる今の方が本当のお正月っぽい気がする。この一週間はダンス練習も仕事もお休みだって、磁路さんも言ってたし」

「金ちゃんにも会わなくて済むから、玄奘良かったじゃん」

 単純に決めつける八戒に玄奘は苦笑する。

「そうは言っても自主練習はしなければね」

「……相変わらず真面目だねぇ」と言いながら八戒はおもむろにポケットからマシュマロを取り出してもしゃもしゃと食べ始めた。丁度大皿で料理を運んできた悟空が八戒にかみついた。

「邪魔だ。早く机を並べろって」

「へいへい」

 のろのろと腰をあげた八戒だったが、そのまま悟空が通り過ぎたのを見て片眉を上げた。いつもの悟空なら玄奘に「腹は減ってませんか?」だの、「疲れたら休んでてくださいよ」だの、何かしら声をかけていくタイミングである。

 床に視線を落としたままの玄奘を見て八戒は尋ねた。

「もしかして兄貴とエロいことしまくってて気まずいんですか?」

「えっ……違うよっ」
 玄奘は手を振って否定した。八戒は何も言わずに続きを待っている。玄奘は正直に言った。

「してない……というか、なんとなく今は悟空と気まずい、というか気まずいわけでもないんだけど……そういう雰囲気になりにくい、というか……その、『えっちなことをしまくった方がいい』という八戒の助言のことはいつも頭にはあるんだけど」

 これは面白そうなことになってきたと八戒は舌なめずりをする。彼の名誉のために言っておくと、悟空と玄奘の仲を取り持った仲間として一応心配はしているのだ。恋人同士の気持ちの行き違いや痴話喧嘩が彼の大好物であるというだけで。

 玄奘に経緯を説明させた八戒はふむふむと頷いた。
「なるほど。なんでもできる兄貴と一緒にいると、劣等感刺激されて苦しくなっちゃうって寸法ですね」

 図星をさされた玄奘はやや涙目になっている。

「そんな……まぁ、その通りなんだけど」

「玄奘、だいじょうぶですよ。言っときますけどね、玄奘が思ってるほど兄貴は完璧超人じゃないですし。普通にダメなところたくさんありますよ。短気だし、俺の事すぐ殴ってくる暴力猿だし。まあ、気持ちの行き違いは恋人ならよくあることです。さあ、これでも食べて元気出してください。甘いものは疲れに効きますよ」

 八戒は玄奘の背中をばしばし叩きながら、マシュマロを差し出した。
  
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