続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第五章 揚げ出し豆腐はかわいいですか

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 玄奘は家事全般が苦手であり、悟空は玄奘の世話を焼くことが至上命題である。そのため食事は外食や総菜を買ってくるとき以外は悟空が作る。時間のある休日などは二人でキッチンに立つこともある。玄奘は手伝い程度のことしかできず、実際玄奘が手伝った方が時間もかかるのだが、拙い手つきの玄奘を見る悟空の目はいつもやに(・・)下がっている。

 今日も一緒に夕飯を作ろうと喋りながらの帰り道、二人でスーパーに寄った。平日の昼下がりで人も少ないのに、玄奘はつないでいた手を店の入り口で離してしまった。

「何が食べたいです?」

 カゴを持ちながら悟空が尋ねると、玄奘は真摯に考えた。

「そうだなぁ……身体冷えたからあったかいもの……揚げ出し豆腐、とか」

「揚げ出しですか。……可愛いっすね」

 悟空にとって揚げ出し豆腐などどうでもいい。ただ、何かが食べたいと言う玄奘が可愛いだけだ。

「可愛いかなぁ?」

 豆腐売り場に直行する悟空を追いかけながら、玄奘は首を傾げる。

「お、空ちゃんやん。玄奘さんもこんにちは」

 聞き覚えのある声がして振り向くと、金狩がいた。彼はすたすたと近寄って来て、カゴの中を覗きこみ「今日は鍋でもすんの?うちも今日は鍋やねん」とにこにこしている。金狩のカゴには野菜や肉、魚などがたくさん詰め込まれているが、軽々と持っているあたりに若さと筋肉量が現れている。

「空ちゃん、何の鍋にしたらええかな?おすすめある?僕は辛いの好きなんやけど」

 鍋スープの棚に金狩はさりげなく悟空を誘導する。

「玄奘が辛いのはだめなんだ。この前作った野菜メインの鍋、玄奘は気に入ってたけどな」

 金狩は決して玄奘を無視しているわけではない。ニコニコとした視線は向けてくれる。しかし彼が話しかけるのは悟空にだけだ。

「なあ、一緒に鍋パでもせーへん?せっかく一緒のマンションなんやし」
 
 悟空は何も言わずに玄奘を見た。無言のままでいる悟空に不安になったのか、金狩は付け足した。

「もちろん玄奘さんも一緒で。うちには銀狩もおるから四人で」

 いつもの悟空なら玄奘の返答を待たずに「いや、おれらは二人でいい」と断っていただろう。やっと訪れた玄奘と二人きりの時間を無駄にしたいわけがない。もちろん玄奘も同じ気持ちであると思いたいが、真面目な玄奘は「講師との交流も良いダンスをするためには必要なことだよね」と了承するかもしれない。つい数日前、「何でも反対する恋人は愛想つかされるよ」という玉竜の忠告が頭の中に残っていた悟空は、なるべく穏やかな声で尋ねた。

「どうします?」

 判断を仰がれると思っていなかった玄奘の目は動揺で泳いだ。

「えっ……えっと……私、は……その」

 悟空は玄奘の瞳の奥にその答えを探してじっと見つめている。

 玄奘は観念したようにぼそっと呟いた。

「揚げ出し……が食べたいかな」

「よし決まりですね。鍋パはまた今度な」
 
 食い気味で返答した悟空はガッツポーズしてから玄奘の腕をぐいっと掴んだ。そのまま絶対逃がさないという構えでレジに向かう。

「じゃあな」

 後にはひどく残念そうな顔の金狩が残された。
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