続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第五章 揚げ出し豆腐はかわいいですか

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 夕飯の支度の途中で放り出されたまま雑然としているキッチンで何度か精を吐したあと、玄奘は今更ながら手を洗って小麦粉のもだもだを落とした。

「ふふ、大分とれていたけど、やっと綺麗になった」

「その分、俺の背中についてますけどね」

 玄奘は愛おしそうに悟空の背を撫でた。彼の背は上背に比して広い。

「私がお風呂で綺麗に洗ってあげるよ」

「飯より先に風呂入っちまいましょうか?」

 てきぱきと準備を始めそうな悟空の腕を引いて、玄奘は引き留めた。悟空はすぐに玄奘の傍に身体を寄せてきて尋ねた。

「なんです?まだしたいですか?」

 まだ唇はふれていない。しかしすでに互いの腰がふれあってしまっていることで、答えは明白だ。

 磁石のように自然に重なり合う身体を一瞬だけ抱きしめて、玄奘は提案した。

「ふふ……今日は試してみたいことがあるんだ。ゴムを一つ貸してくれる?」

 悟空は首を捻りながら、彼の秘密の置き場所からコンドームを一つ取り出して、玄奘に手渡した。(盛り上がった際にすぐ行為に至れるよう、家の各所に悟空しか知らない隠し場所がある) 

 玄奘に促されるままに、悟空はシンクに手を付いた。玄奘はゆっくりと悟空の背を撫でてくる。滑らかな手のひらが心地よくて、悟空は目を閉じる。双丘を越え、玄奘の手は進んでいく。

 とうとう固く閉じられた窪みに到達し、思わず悟空は身体を離した。ゴムを指に装着した玄奘がそのまま尻奥をさわろうとしているのだ。

「ちょっ……っと、待ってください……」

 冷や汗をかきながら、悟空は玄奘と距離を取った。

「わかった。待つよ」
 
 玄奘は、「待て」をされた犬のようににこにこしながら待機している。

「いや、あのそういう意味じゃなくて。おれの尻、解そうとしてます?」

「そうだよ」

「なんのために?」

 玄奘はごく当然のように言った。

「私のを挿れようと思って」

 悟空は何度か瞬きをした。その間に必死で頭を回転させる。

 何が起きた何が起きた何が起きた。玄奘はおれのセックスじゃ満足できていないということだろうか。

 やはりおれよりもずっと若いこともあるし、ここ最近回数が少なかったせいで欲を持て余しているのだろうか。それとも性的な快楽を知ったことで、もっと自分が主導権を取りたくなったということだろうか。

 いや待て待て、さっきのセックスもあれほど感じていたように見えたのに。それはおれを傷つけないまいという演技なのだろうか。


 悟空は背中をつーっと冷たい汗が滑り落ちていくのを感じた。おそるおそる尋ねてみる。

「何か……あの……おれとの行為で不満があったりします?」

 玄奘は何の陰りもない顔で笑いながら説明した。

「そんなもの何もないよ。すごく気持ち良い。悟空を中に挿れるとね、これ以上ないほど悟空を傍に感じられるんだ。奥を突いてもらうたびに身体にずんと響く快感がね……、すごく良くて。いつもすごく幸せな気分になれるから。それを悟空にも味わってほしいと思って」

 はぁ……と悟空はため息をつく。

 そうだ、この人はこういう人だった、と改めて思い起こす。

「玄奘の気持ちはありがたいです。でもおれは、……あの、どちらかというと挿れる方が好きです」

「私以外の誰かのを、今まで挿れたことはあるのか?」 

 悟空は珍しくしどろもどろになった。視線があちこちに彷徨っている。

「玄奘に出会う前ですか?……全くないわけじゃないです。すいません。でも、本当におれにはあまり性に合わないというか……」

 玄奘は眉根を寄せたものの、それでも一つ息をついてから言った。

「悟空の過去は咎めないよ。それに悟空の気が進まないのに無理にすることでもない。すまなかった。悟空が喜ぶかなと思って言ってみただけだ」

「あの……玄奘」

「さあ一緒に風呂に入ろう」

 思ったよりも快活な玄奘の声に、悟空は胸が締め付けられるような気がした。
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