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第五章 揚げ出し豆腐はかわいいですか
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新曲の発表と引き続いてライブツアーも開催することが決定した。衣装や演出や舞台構成など懸案事項は山ほどある。磁路はタブレットでタスクスケジュールを立てながら、玉竜の指導の下、悟空と悟浄が新曲の練習をしているのを見守っている。
電子ピアノで音を取りながら、玉竜は二人に指示を飛ばす。
「悟浄、声量は抑えめでいいよ。寄り添うような感じで」
「心得た」
「悟空はBメロの最後だけすこし厳しめの声で、サビとの落差を作って」
「了解」
「じゃあ、Bメロの頭からもう一回」
練習時間は力強くリーダーシップを発揮する玉竜だが、寛いでいる休憩時間は年相応の表情である。玉竜は玄奘と同年で、悟浄や悟空よりも大分年下だ。少年めいた丸い瞳で遠慮なく玉竜は言った。
「ここ最近、ジャニ西の雰囲気あんま良くないよねえ。磁路さんの監督が行き届いてないんじゃない?」
磁路は人数分の飲み物を準備し、自分の分のミネラルウォーターをおざなりに一口啜ってから答えた。
「ダンスがまだ形になっておらぬからな。特に玄奘は動きが鈍いのが気になるところだ。そもそもの体力が足らないことが元凶ではないかと考えておる。やはりもっと強度の高い基礎訓練をノルマにしていくべきか……」
磁路の指摘は事実なのだが帰結が単純すぎる。体力も気力も充実した神将である磁路が己を基準とすれば、大抵の人間は「体力がない」のだが、そこには気づいていない様子だ。
悟空は呆れた声で言った。
「体力ってのはすぐにつくもんじゃねえんだからさ。玄奘は自主練も頑張ってんだから長い目で見るしかねえだろ」
「それでも大聖殿は毎日ワークアウトもしておるのだろう?体力のある大聖殿が毎日たくさんの練習量をこなし、体力のない玄奘が少ない練習量で良しとなれば、体力差が開いて行くのは明々白々であるというもの」
「そうは言っても、そもそも体力のあるおれと、玄奘では耐えられる練習量ってのが違ってくるんだろうが。体力バカはちっと黙ってろよ。玄奘が熱心に練習してるのは間違いねえんだからよ」
今だって八戒と一緒にダンスの自主練してるんだ、と悟空は玄奘を庇った。
そのとき議論を黙って聞いていた悟浄が「玄奘のストレスの要因は悟空、お主にも大いに関係があるのでござるぞ」とついに口を開いた。ぎょっとする悟空の額に、悟浄は人差指を突き付けた。
「お主がっ、あのダンス講師を好き放題にのさばらせているからっ。玄奘は悟空の心変わりを恐れているのでござる。そこに気付かんとは言語道断と言わずして何と言う」
我が意を得たり、と玉竜も同意する。
「そうだよそうだよ。あの金狩とかいう奴、玄奘よりも自分の方がスペック勝ってるって思ってそうな態度がむかつくんだよ。玄奘の魅力は顔だけだと思ったら大間違いなんだからね」
ためらうように悟浄の指を降ろさせながら、悟空は小さな声でぼそぼそっと呟いた。まるで自分だけに聞こえればいいようである。
「いや……おれが心変わりなんてするわけねえだろうが。そもそも玄奘と比べられる人がこの世に存在するわけもねえ。玄奘がいるからおれの世界が回ってんだよ」
それはそのとおりだ、と頷くオタク仲間悟浄に対し、玉竜は唇を歪めて言った。
「悟空はいい加減、そのアホみたいなオタク語りやめなよ。オタク表現は大袈裟すぎて真実味が薄いんだよ。二人はもう付き合ってて、玄奘は推しじゃなくてもう恋人なんだよ?もっと真剣にさ、ちゃんと『好き』とか言ってあげて玄奘を安心させてやんなよ」
「言ってるわ!毎日『愛してます』って言ってるわ!」
言ってるのか……、と悟浄は内心呆れるが、いつもの如く黙っている。一方で、玉竜は追及の手を緩めない。
「じゃあ、なんで玄奘は安心できてないのさ。言い方が悪いんじゃないの?」
「うるせぇ……」と悟空が若干弱腰なのは、先日の玄奘の「挿れようと思って」というリバ提案が消化できていないせいもある。
電子ピアノで音を取りながら、玉竜は二人に指示を飛ばす。
「悟浄、声量は抑えめでいいよ。寄り添うような感じで」
「心得た」
「悟空はBメロの最後だけすこし厳しめの声で、サビとの落差を作って」
「了解」
「じゃあ、Bメロの頭からもう一回」
練習時間は力強くリーダーシップを発揮する玉竜だが、寛いでいる休憩時間は年相応の表情である。玉竜は玄奘と同年で、悟浄や悟空よりも大分年下だ。少年めいた丸い瞳で遠慮なく玉竜は言った。
「ここ最近、ジャニ西の雰囲気あんま良くないよねえ。磁路さんの監督が行き届いてないんじゃない?」
磁路は人数分の飲み物を準備し、自分の分のミネラルウォーターをおざなりに一口啜ってから答えた。
「ダンスがまだ形になっておらぬからな。特に玄奘は動きが鈍いのが気になるところだ。そもそもの体力が足らないことが元凶ではないかと考えておる。やはりもっと強度の高い基礎訓練をノルマにしていくべきか……」
磁路の指摘は事実なのだが帰結が単純すぎる。体力も気力も充実した神将である磁路が己を基準とすれば、大抵の人間は「体力がない」のだが、そこには気づいていない様子だ。
悟空は呆れた声で言った。
「体力ってのはすぐにつくもんじゃねえんだからさ。玄奘は自主練も頑張ってんだから長い目で見るしかねえだろ」
「それでも大聖殿は毎日ワークアウトもしておるのだろう?体力のある大聖殿が毎日たくさんの練習量をこなし、体力のない玄奘が少ない練習量で良しとなれば、体力差が開いて行くのは明々白々であるというもの」
「そうは言っても、そもそも体力のあるおれと、玄奘では耐えられる練習量ってのが違ってくるんだろうが。体力バカはちっと黙ってろよ。玄奘が熱心に練習してるのは間違いねえんだからよ」
今だって八戒と一緒にダンスの自主練してるんだ、と悟空は玄奘を庇った。
そのとき議論を黙って聞いていた悟浄が「玄奘のストレスの要因は悟空、お主にも大いに関係があるのでござるぞ」とついに口を開いた。ぎょっとする悟空の額に、悟浄は人差指を突き付けた。
「お主がっ、あのダンス講師を好き放題にのさばらせているからっ。玄奘は悟空の心変わりを恐れているのでござる。そこに気付かんとは言語道断と言わずして何と言う」
我が意を得たり、と玉竜も同意する。
「そうだよそうだよ。あの金狩とかいう奴、玄奘よりも自分の方がスペック勝ってるって思ってそうな態度がむかつくんだよ。玄奘の魅力は顔だけだと思ったら大間違いなんだからね」
ためらうように悟浄の指を降ろさせながら、悟空は小さな声でぼそぼそっと呟いた。まるで自分だけに聞こえればいいようである。
「いや……おれが心変わりなんてするわけねえだろうが。そもそも玄奘と比べられる人がこの世に存在するわけもねえ。玄奘がいるからおれの世界が回ってんだよ」
それはそのとおりだ、と頷くオタク仲間悟浄に対し、玉竜は唇を歪めて言った。
「悟空はいい加減、そのアホみたいなオタク語りやめなよ。オタク表現は大袈裟すぎて真実味が薄いんだよ。二人はもう付き合ってて、玄奘は推しじゃなくてもう恋人なんだよ?もっと真剣にさ、ちゃんと『好き』とか言ってあげて玄奘を安心させてやんなよ」
「言ってるわ!毎日『愛してます』って言ってるわ!」
言ってるのか……、と悟浄は内心呆れるが、いつもの如く黙っている。一方で、玉竜は追及の手を緩めない。
「じゃあ、なんで玄奘は安心できてないのさ。言い方が悪いんじゃないの?」
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