続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第五章 揚げ出し豆腐はかわいいですか

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 磁路が指摘した。

「いつも立て板に水の大聖殿にしては歯切れが良うないの。何か気になるでもあるのか」

 悟空は癖のある髪をさわってから口を開いた。

「いやなんか、……あのさ、最近玄奘が……その、そういう雰囲気のときに、なんかいつもと違うことやろうとしてくんだけどさ、どういう意図なんだかわかんねぇんだよ」

 エロいことをしまくれ、と玄奘が八戒から唆されていたことを知っている悟浄と玉竜は大まかに察したが、磁路は容赦なく問いを続けた。

「いつもと違うこと、とは如何様か?具体的に説明してもらわねば答えようがない」

「えっと……だからさ、わかるだろ?なんかいつもより積極的なんだよ。いやその、積極的なのはいいんだけど、その……おれに挿れたいとか言ってきたりさ」

 悟浄と玉竜は目を合わせて頷きあった。予想以上に玄奘は思いきった提案をしているらしい。

 磁路はぽんと手を打った。どうやら納得したようだ。

「なるほど。恋人としての絆を深める行為についての相談というわけか。攻受の役割を交代する提案があったということだな?」

「ああ、……いやまあ……まあそうだな」

 言い淀む悟空は珍しい。磁路はあっけらかんと尋ねた。

「要するに挿れられたくないということか?玄奘が望んでいるのに?」

 大聖殿は器が小さいのだな、と磁路は背を丸めて、隣の悟浄に囁く。と言っても地声の大きな磁路であるので、その場にいる全員に聞こえている。

「……べ、別にそういうわけじゃねえけど……」

「何を迷う必要がある。大聖殿にとって、前世からの望みを叶えてやっと玄奘と恋仲になれたというに、その望みも叶える度量もないとはなんと嘆かわしい。そもそも玄奘は大聖殿を受け入れてくれたというのに、大聖殿にあっては玄奘を受け入れるのが嫌なのか?」

 磁路の横で悟浄も頷いた。

「推しの望みをかなえるのは、オタクとしてごく当然のことでござろう。猿の尻など勿体ぶるほどの価値もない。玄奘が望むのであれば今すぐ差し出せ」

「ほれ、悟浄もこう言っておる。ほら、玉竜。お主も何か言ってやるがいい」

「……僕、知り合いの生々しい話聞くのちょっと嫌」

 玉竜は肩をすくめてから背を向けた。どうやら部屋を出て行くようだ。

 磁路のようにぐいぐい来られると引いてしまうが、玉竜のように距離をとられると引き止めたくなるのが人情だ。悟空は思わず玉竜の服の裾をつまんで引き止めた。

「なに?この服高いんだよ。伸びたら弁償してくれるの?」

「悪い。あの……、お前、玄奘と仲いいだろ?」

「だから?」

「玄奘がおれとの……その、で悩んでる、とか、もし聞いたら教えてくれよ」

「悟空、人にものを頼むときは相応の態度ってものがあるんじゃないの?」
 
 ぐぬぬ、となりながらも悟空は仏頂面で言い直した。

「……玄奘から何か悩みを打ち明けられたら教えてください」

「玉竜様」

 顎を上げながら尊称を要求した玉竜に悟空は仕方なくぼそっと言い添える。

「……玉竜サマ」

「まあ、仕方ないね。玄奘の親友は僕しかいないもんねぇ。でも玄奘の話を根掘り葉掘り聞き出すつもりはないから。玄奘の方から相談があるからって言ってきたら聞くくらいだよ。何も報告しなくても文句言うんじゃないよ」

 悟空は「わかってらい」とへの字口で答えた。
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