続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第六章 早朝ランニングと八戒の助言

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 悟空がワークアウトを終えて帰宅すると味噌汁の良い香りがした。

「玄奘、ありがとうございます。朝飯作ってくれたんですね」

 リビングの扉を開けた瞬間、悟空の表情と動きが氷の彫像のように固まった。

 食卓の上には一汁三菜の豪勢な朝食が用意されていた。これは明らかに玄奘が作ったものではない。アイランドキッチンには髪をひとつに束ねた悟浄が玄奘のエプロンをつけて立っている。

「おお、今できたところである。さすが玄奘の言った通りの時間に戻ってきたの」

 ほとんど表情も動かさず、悟空が言う。

「お前、なんで……」

 奥で経をあげていたらしい玄奘がと出てきて、とりなすように言った。

「悟浄が朝のランニングに付き合ってくれて、そのついでに朝食も作ってくれたんだ」

「ああ……、そう、ですか……」

 悟空は一瞬だけ傷ついたような顔をした。が、すぐにいつもの無表情に戻った。

 悟空の表情を見た玄奘は、彼の大切なものを侵害してしまったことを悟った。自宅で玄奘のために食事を作る、という行為は、玄奘が思っていたより悟空には重要なものだったらしい。つい悟浄を引き留めてしまい、言われるままに朝食の準備を任せてしまったが、悟空には酷なことをしてしまった。

 玄奘は今更ながらに後悔したが、心の中に渦巻き続けているもやもやのせいで謝罪の言葉を口にすることはできなかった。

 気持ちを切り替えるように、悟空はのびをしてから言った。

「玄奘も朝のランニング始めたんなら言ってくださいよ。おれも一緒に走るのに」

 悟空の申し出に玄奘は少し顔を曇らせた。

「……悟空のペースにはついていけないからね」

「おれが玄奘にペース合わせますよ」と悟空が言いかけるのを、玄奘はすかさず遮った。

「それでは悟空のトレーニングにならないだろう?」

 玄奘の語気がいつになく激しかったせいで、悟空はそれ以上の議論を避けた。先日の「余計なことを言うべき時期ではない」という磁路の言葉が頭にあるせいだ。

 三人で食卓につく。悟浄の作ってくれた朝食は非常に美味ではあったが、いかんともしがたい沈黙がその場におりる。湯気のあがる味噌汁をずずっと啜る音だけがしていた。
 
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