続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第六章 早朝ランニングと八戒の助言

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 例の如く今日もダンス練習である。悟空と金狩は朝のランニングのことを話すのではと、それとなく玄奘は窺っているが二人は片手を挙げて軽く挨拶をしただけでいつも通りである。

(もしかしたらだいぶ前から毎日一緒に走っていたのかもしれない……)と玄奘は考える。

 悟空の気持ちを疑っているわけではない。悟空が玄奘の事をいつも最優先に考えてくれることは知っている。

「いつも金狩と一緒に走っているのか?」と悟空に聞いてしまえばいいのだが、それが至難の業だった。悟空が仕事仲間と二人で行動したからと言って咎めだてするようなことはしたくない、と頭では考えているのに、もやもやした感情のはけ口を探して悟空に苛立つような口調になってしまう気がする。

 それがわかっているからこそ、なかなか話題にできないのだった。玄奘が浮かない表情でいるのを悟空も察してか、あまり話しかけてはこない。

 金狩はぱんぱんと手を叩き、皆に気合を入れるように声を張り上げた。

「さあ、練習曲『Beyond the Road』は今日で仕上げるよ!新曲の方に取り掛かからんと間に合わんくなるで!」

「練習曲なんて誰に見せるわけでもないんやし、適当でいいやん。もう新曲の振りに入ろか?」

 常に覇気に欠ける銀狩が投げやりに言うが、金狩は首を振る。

「練習曲に新曲の振りに必要な基礎ばっか入れておいたんやから、練習曲がキマらんのに新曲も踊れるわけないわ」

「劣等生二人はキマらんやろなぁ」

「銀狩、生徒のミスは教師のミスや。教え方が悪いって僕らの評判が下がるんやで」

 金狩が諭すと銀狩はぶうたれながらも納得したようだ。

 悟空と八戒が軽快なステップを踏むのを見て、金狩は大きく頷く。二人のダンスは完成度が上がってきた。

「八ちゃんいいじゃん。空ちゃんもいいよ」

 彼らの横、玄奘と悟浄の動きはやはり見劣りがする。悟浄は動きは正しいが、動きが固い。玄奘は苦手な首のアイソレーションの動きが未熟なのが明らかだ。銀狩が隣で踊りながら声を掛ける。

「悟浄さん、無駄な力を抜いて。玄奘さん、顎を出したらあかん。ロバみたいや」

「……はい」

 悟浄の動きは少しだけ柔らかくなる一方で、あまり変化のない玄奘を見て、金狩が傍に寄ってきた。玄奘の顔の前に手のひらを置いた。

「玄奘さん、ここに壁があるとイメージしてみ。鼻を壁につけるイメージで頭だけ動かしてみて?」

 言われた通りに頭を動かした玄奘を見て、悟浄は思わず頷いた。動きが明らかにスムーズになっている。悟空と八戒も踊るのをやめて、玄奘が踊るのを食い入るように見つめていた。

「うん、イイ感じ。横の動きは壁に耳を付ける、後ろの動きは後頭部をつける、みたいなイメージ。いいやん。玄奘さんできてるよ~」

「玄奘、本当に良くなっているでござる」

「え、……っと、ありがとうございます」

 玄奘は目を泳がせながらも礼を言った。恋敵から塩を送られてしまった。複雑な気持ちだが、ダンスが上達したことは嬉しくもある。

 銀狩はいつのまにか部屋の端に退いている。彼は水を飲みながら言った。

「金狩の一言で、ぐっと上手うまなって。僕の教え方が下手みたいなん、むかつくわぁ」

「そんなことないって。銀狩は理論派だからさ、肘の角度を何度にしてとか細かく説明するやん?玄奘さんにはイメージで伝える方が理解しやすいみたいやね」

 金狩はスキップで銀狩に近寄るとその頭を撫でた。への字口をする銀狩だったが案外素直に受け入れている。双子のせいか、金狩が兄貴ぶる様子は珍しい。

 ふくれ面のまま、ちらりと悟浄が使っているタオルを見た銀狩が、ぱあっと顔を輝かせた。

「悟浄さんっ、それ金丹cooker のタオルやんかっ」

「ああ、くじで当たってな」

 金丹cooker とは今話題の新作ゲームである。様々なトラップが仕掛けられた丹房の主となり、依頼された種類の金丹を制限時間内に製造していくのだ。八戒が「今、流行ってるらしいねぇ」と話をふれば、金狩は「銀は最近ずっとこればっかりしとる」と額に手をやった。

 銀狩はつんのめるようにして悟浄に駆け寄った。

「悟浄さんもプレイしてるんやんな?今夜オンラインできる?」

「よかろう」

「やった!」

 銀狩は飛び跳ねて喜んだ。

「銀、明日も仕事やで」

 金狩が銀狩の肩を抑えるが、銀狩は「だって僕、誰かと通話しながらゲームするん、初めてなんやで?めっちゃ嬉しい。ダンサー仲間は誰もゲームに興味ないし、金はやってくれへんしさぁ」と興奮を抑えられない様子だ。

「SNSでゲーム仲間くらいすぐ見つかるんじゃねえの?」

 流行りは知識として一応把握しているものの、あまりゲームに興味のない八戒が尋ねる。

「これだからパリピは嫌やわ。僕、知らん人と話したりできひんし」

 急に距離を縮めてきた銀狩を見て、玄奘もおそるおそる手を挙げた。やったことがないことをしり込みしてはいけない。ダンスレッスンのためにも、担当講師と仲を深めておく方が良いだろう。

「あ、私も……一緒にしてもいい、でしょうか?」

「玄奘さん、プレイしたことないんやろ?だいじょうぶかな」

「拙者がいくらでもフォローしよう。では今夜、三人でな」

 いろいろだいじょうぶなの?というような顔で八戒は悟空を見る。悟空は目を逸らした。
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