続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第六章 早朝ランニングと八戒の助言

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 玄奘はダンスとボーカルレッスンの合間を縫ってピアノの練習も重ねている。

 本日事務所内のスタジオに集まったのは、玄奘と玉竜、紅害嗣と納多だった。紅害嗣初めてのバラードは「Eternal Night」、作曲玉竜で作詞は紅害嗣だ。叶わぬ恋と知ってもまだ強い想いを残した歌である。

 玄奘のピアノに紅害嗣のボーカルを本日初めて合わせてみたところだ。朗々と響き渡る紅害嗣の声は、室内によく響いた。

 玉竜は頷いて言う。

「うん、思っていたよりもイイね。紅害嗣、ミックスボイス上手くなってるじゃん。結構練習したでしょ?」

「俺様は天才だから練習など不要なんだ」

 ふんぞり返る紅害嗣の横で、「朝から晩まで練習漬けだっただろうが」と納多が言う。苦笑する玉竜に対し、玄奘は「紅害嗣さん、天賦の才に恵まれながら努力を欠かさないその姿勢は素晴らしいです。私も見習なくては」と目を輝かせる。

 納多の密告に機嫌を悪くしかけた紅害嗣だったが、玄奘の一言ですぐに気持ちは回復したらしい。照れたように頬をかいている。

 玉竜は肩をすくめて言う。

「玄奘、そういうとこが『人たらし』なんだよね。紅害嗣、でも玄奘は悟空以外と付き合う気まったくないから、調子に乗っちゃだめだよ」

「わかってるっつーの」

 かみつくように紅害嗣は言ったが、以前の紅害嗣であれば玄奘と悟空の仲を裂こうと画策していただろう。玉竜は内心驚いていた。

(やっと失恋を自覚してきたってことかも)

 玄奘はポロンと前奏の和音を鳴らしながら尋ねた。

「私が歌うわけではないのですが、曲解釈の一助として歌詞にわからないところがあったから聞いてもいいですか」
 紅害嗣はすぐ思いあたったらしい。

「さむなしい夜――のところか?」

「そうです。辞書にも経典にもあたってみたんですが、それらしい言葉がなくて」

 経典にも当たったところが玄奘らしい、と玉竜は思う。

「『さむなしい』は『さみしい』と『むなしい』をかけ合わせた俺の造語だ」

「道理で辞書にも載っていないわけですね」とほっとしたように笑いながら、玄奘は楽譜にメモを書き込んだ。納多は呆れたように言った。

「お前だけがわかっても意味がないだろ。造語であると事前に解説を入れておくべきだ」

「『さむなしい』の語感でだいたいわかんだろうが」

「わかるかっ」

 玉竜が二人の言い合いを制止する。

「歌詞には意味のわからない言葉が入っていてもまた味があるというか、聴衆の耳を引き付けておくのには効果的かもね。直前の『いまいましい春』と韻も踏んでるし、まあいいんじゃないかな」

「ほうらあ、見てみやがれ」と、勝ち誇ったように紅害嗣が言う。

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