続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第六章 早朝ランニングと八戒の助言

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 玉竜は玄奘の肩に手を置いた。

「玄奘のピアノも悪くなかったよ。ブランクあるわりに指も動いてるじゃん」

「そうかな。でもまだミスタッチがいくつかあったし、まだ曲調を掴みきれていない感じがするよ」

 謙虚に答える玄奘に、紅害嗣は律儀に頷いた。

「まだ時間もあるし焦ることねえよ。何度も合わせて練習していこうぜ。曲中の表現についてはまだ俺としても固まってねえところあるし」

「珍しく紅害嗣がスパダリムーブじゃん」
 
 玉竜が茶化すと、紅害嗣は「珍しくじゃなくて、いつでも俺は器の広い男なんだよ馬鹿野郎」と顎を突き出した。納多は我関せずの顔をしている。
 
 何度か曲の頭から通して練習し、玉竜と紅害嗣が話し合いながら強弱をつけるタイミングやテンポなどを確認していく。玄奘も提案をした。

「このラストの『さむなしい夜』のところは聴きごたえある部分だし、いっそピアノもなしにしてアカペラにした方が映えるのでは」

「よし、一旦やってみるか」

 前回、紅害嗣がジャニ西の楽曲に参加したときにも思ったが、紅害嗣は一旦仕事モードになると真剣に取り組む。練習前の軽口を叩いていた姿が別人だったかのように、玄奘の提案もえこひいきすることなく公平な物差しで判断している。

 ためしに歌ってみた紅害嗣が顎をさすりながら言った。

「悪くないかもな」

 玉竜も楽譜にチェックを入れながら同意する。

「たしかにね。ラスサビにはストリングスも入れようと思ってたから、楽器インスト全部止めたらもっと効果はっきりでるかも。じゃあ玄奘の案で行くことにしようか」
 
 玄奘の頭の中には「さむなしい夜」の響きが何度もこだましている。

 先日の悟空との車内は二人でいたのに「さむなしい夜」の雰囲気だった。そのせいだろうか、玄奘はここしばらく悩んでいることをつい口にしてしまった。

「あのう……ちょっとお聞きしたいのですが、好きな人が自分の事を好いてくれているのは前提として、でもその好きな人は別の人と付き合った方が幸せになれるかもと思ったとき、どう思います?」

 紅害嗣はさらっと答えた。

「俺のものは俺のもの。誰に渡す気もないけどな」

 金狩のことだと察した玉竜は悟空との約束の手前、少し探りを入れてみることにする。

「好きな人が玄奘ではない別の誰かと付き合った方が幸せになれるって言ったの?そうじゃなければ、それは玄奘の勝手な思い込みかもしれないよ。玄奘は自分にもっと自信を持ってもいいんじゃないかな」

「玉竜……でも、いつか悟空に見放されるんじゃないかと不安になるんだ。私は体力もないし、ダンスもうまく踊れないし、性的な経験や知識も浅いし悟空を満足させられていないかも……」

 すると、これまで黙っていた納多が玄奘の肩にぽんと手を置いた。

「玄奘、人と人との関係は信頼が基礎となる。信頼の礎はまず腹を割って話すこと。そなたの伴侶はそれができぬ相手ではなかろう」

 納多の「伴侶」という言葉は玄奘にとって重く響いた。これまで悟空のことを単なる「恋人」と思っていたが、一生を共にする比翼の鳥として互いに覚悟を決め、深く理解しあう時期にきたのかもしれない。

 玄奘は深く頷いた。

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