続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

文字の大きさ
55 / 95
第六章 早朝ランニングと八戒の助言

しおりを挟む
 ダウンロード諸々の設定をしてくれるという悟浄の申し出に甘えて、仕事終わりに玄奘は悟浄宅を訪れた。

 悟浄の作業部屋にはたくさんのPCとゲーム関連機材が所狭しと鎮座しており、大小ケーブルの輪がいくつも床にとぐろを巻いている。不衛生ではないが、お世辞にも片付いているとは言えない。掘り起こせばどんなに昔の機材でも埋まっていそうである。

 まるで現代の魔術師の部屋みたいだ、と玄奘は思う。

「玄奘が来ると知っていたら、事前に片付けておいたのだが」

 悟浄はすまなそうに言い、玄奘は同情した。

「機材って嵩張るよね。配信やってたときの玉竜も大変そうだったからわかるよ」

 そのまま悟浄の部屋でそれぞれPCを前にし、銀狩とのオンライン通話をしながらゲームをした。ゲーム中の銀狩はダンスのときよりも熱心で的確な指示を二人に与えながら、ノルマをこなしていった。あっという間に数時間が経ち、深夜になったところでお開きとなった。

「悟浄さん、めちゃ上手いやん。流石やな。玄奘さんも悪くなかったで。ダンスより才能ありそうやわ。二人ともまたやろな」

 銀狩がご機嫌で通話を終えた瞬間、玄奘はほっと息をつく。知らぬ間に肩の力が入っていたらしい。

「疲れたようであるな」

 気遣うような悟浄の語りかけに、玄奘も思わず苦笑した。

「そうだね、ゲームも通話も初めての事ばかりだったし」

「もう遅い。泊まっていくか?」

 悟浄の提案はさりげなかった。何も言わないが、悟空との気づまりな関係を一番理解してくれているのが悟浄だ。できれば帰りたくない、という玄奘の気持ちに配慮してくれているのだろう。

「……そうだね、泊まっていこうかな」と玄奘が頷いた瞬間、インターホンが鳴った。

 玄関に現れたのは、やはりと言うべきか悟空だった。

「あの、……迎えにきました」

 怒ったような不貞腐れたような顔で言った悟空に対し、玄奘は何か言いたげな顔をして黙ったままだった。悟浄は一つ息をつくと「行雲流水、ここは帰った方が良いでござろうな」と、玄奘の背を優しく押した。
 
 無言で二人は駐車場まで歩いた。玄奘はいつになく速足である。

 悟空はいつものように車のドアを開けて玄奘を乗せてから、自分は運転席に座った。エンジンをかけると、玄奘のお気に入りの環境BGMが流れる。森の中のせせらぎと鳥の鳴き声だ。舌打ちをしてから音源を切った悟空に、玄奘はなおさら苛つきを覚えた。

「怒ってる?迎えにきてと頼んではいないけど」

 玄奘が口を開くと、思っていたよりも尖った声が出た。

「……玄奘は枕が変わると寝れないじゃないですか。それにダンス練習で疲労してる足のマッサージまで悟浄に頼めないでしょう」

 悟空の口調は言い訳がましかった。

「私は悟浄の家に泊まるつもりだった」

「っ……、でも」

「勝手に迎えにきて勝手に腹を立てて、一体私にどうして欲しいんだ」

 玄奘は言葉を投げつけた。玄奘が怒りを顕わにするのは初めてかもしれない。悟空は戸惑いながら、何度か口をぱくぱく開けて言葉を探したようだった。しばらく黙ったあと、観念したように言った。

「……カッコ悪くて言いたくなかったんですけど、ほんとはおれが嫌なだけです」

「嫌?」

「悟浄の家に泊まるのが嫌ってわけじゃないですけど。……でも、やっぱり玄奘が誰かと二人きりでいるのは嫌です。おれが、……おれのそばに玄奘がいないことが耐えられないです」

 眉間に皴を寄せながら苦しそうに言う悟空を見ていると、形容しがたい気持ちが玄奘の中に渦巻いた。

 自分だって金狩と二人きりでランニングしているくせに。

 喉元まで出かけたのに、玄奘はなぜかその言葉を口には出せなかった。車内には息苦しい空気が満ちていた。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...