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第六章 早朝ランニングと八戒の助言
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ダウンロード諸々の設定をしてくれるという悟浄の申し出に甘えて、仕事終わりに玄奘は悟浄宅を訪れた。
悟浄の作業部屋にはたくさんのPCとゲーム関連機材が所狭しと鎮座しており、大小ケーブルの輪がいくつも床にとぐろを巻いている。不衛生ではないが、お世辞にも片付いているとは言えない。掘り起こせばどんなに昔の機材でも埋まっていそうである。
まるで現代の魔術師の部屋みたいだ、と玄奘は思う。
「玄奘が来ると知っていたら、事前に片付けておいたのだが」
悟浄はすまなそうに言い、玄奘は同情した。
「機材って嵩張るよね。配信やってたときの玉竜も大変そうだったからわかるよ」
そのまま悟浄の部屋でそれぞれPCを前にし、銀狩とのオンライン通話をしながらゲームをした。ゲーム中の銀狩はダンスのときよりも熱心で的確な指示を二人に与えながら、ノルマをこなしていった。あっという間に数時間が経ち、深夜になったところでお開きとなった。
「悟浄さん、めちゃ上手いやん。流石やな。玄奘さんも悪くなかったで。ダンスより才能ありそうやわ。二人ともまたやろな」
銀狩がご機嫌で通話を終えた瞬間、玄奘はほっと息をつく。知らぬ間に肩の力が入っていたらしい。
「疲れたようであるな」
気遣うような悟浄の語りかけに、玄奘も思わず苦笑した。
「そうだね、ゲームも通話も初めての事ばかりだったし」
「もう遅い。泊まっていくか?」
悟浄の提案はさりげなかった。何も言わないが、悟空との気づまりな関係を一番理解してくれているのが悟浄だ。できれば帰りたくない、という玄奘の気持ちに配慮してくれているのだろう。
「……そうだね、泊まっていこうかな」と玄奘が頷いた瞬間、インターホンが鳴った。
玄関に現れたのは、やはりと言うべきか悟空だった。
「あの、……迎えにきました」
怒ったような不貞腐れたような顔で言った悟空に対し、玄奘は何か言いたげな顔をして黙ったままだった。悟浄は一つ息をつくと「行雲流水、ここは帰った方が良いでござろうな」と、玄奘の背を優しく押した。
無言で二人は駐車場まで歩いた。玄奘はいつになく速足である。
悟空はいつものように車のドアを開けて玄奘を乗せてから、自分は運転席に座った。エンジンをかけると、玄奘のお気に入りの環境BGMが流れる。森の中のせせらぎと鳥の鳴き声だ。舌打ちをしてから音源を切った悟空に、玄奘はなおさら苛つきを覚えた。
「怒ってる?迎えにきてと頼んではいないけど」
玄奘が口を開くと、思っていたよりも尖った声が出た。
「……玄奘は枕が変わると寝れないじゃないですか。それにダンス練習で疲労してる足のマッサージまで悟浄に頼めないでしょう」
悟空の口調は言い訳がましかった。
「私は悟浄の家に泊まるつもりだった」
「っ……、でも」
「勝手に迎えにきて勝手に腹を立てて、一体私にどうして欲しいんだ」
玄奘は言葉を投げつけた。玄奘が怒りを顕わにするのは初めてかもしれない。悟空は戸惑いながら、何度か口をぱくぱく開けて言葉を探したようだった。しばらく黙ったあと、観念したように言った。
「……カッコ悪くて言いたくなかったんですけど、ほんとはおれが嫌なだけです」
「嫌?」
「悟浄の家に泊まるのが嫌ってわけじゃないですけど。……でも、やっぱり玄奘が誰かと二人きりでいるのは嫌です。おれが、……おれのそばに玄奘がいないことが耐えられないです」
眉間に皴を寄せながら苦しそうに言う悟空を見ていると、形容しがたい気持ちが玄奘の中に渦巻いた。
自分だって金狩と二人きりでランニングしているくせに。
喉元まで出かけたのに、玄奘はなぜかその言葉を口には出せなかった。車内には息苦しい空気が満ちていた。
悟浄の作業部屋にはたくさんのPCとゲーム関連機材が所狭しと鎮座しており、大小ケーブルの輪がいくつも床にとぐろを巻いている。不衛生ではないが、お世辞にも片付いているとは言えない。掘り起こせばどんなに昔の機材でも埋まっていそうである。
まるで現代の魔術師の部屋みたいだ、と玄奘は思う。
「玄奘が来ると知っていたら、事前に片付けておいたのだが」
悟浄はすまなそうに言い、玄奘は同情した。
「機材って嵩張るよね。配信やってたときの玉竜も大変そうだったからわかるよ」
そのまま悟浄の部屋でそれぞれPCを前にし、銀狩とのオンライン通話をしながらゲームをした。ゲーム中の銀狩はダンスのときよりも熱心で的確な指示を二人に与えながら、ノルマをこなしていった。あっという間に数時間が経ち、深夜になったところでお開きとなった。
「悟浄さん、めちゃ上手いやん。流石やな。玄奘さんも悪くなかったで。ダンスより才能ありそうやわ。二人ともまたやろな」
銀狩がご機嫌で通話を終えた瞬間、玄奘はほっと息をつく。知らぬ間に肩の力が入っていたらしい。
「疲れたようであるな」
気遣うような悟浄の語りかけに、玄奘も思わず苦笑した。
「そうだね、ゲームも通話も初めての事ばかりだったし」
「もう遅い。泊まっていくか?」
悟浄の提案はさりげなかった。何も言わないが、悟空との気づまりな関係を一番理解してくれているのが悟浄だ。できれば帰りたくない、という玄奘の気持ちに配慮してくれているのだろう。
「……そうだね、泊まっていこうかな」と玄奘が頷いた瞬間、インターホンが鳴った。
玄関に現れたのは、やはりと言うべきか悟空だった。
「あの、……迎えにきました」
怒ったような不貞腐れたような顔で言った悟空に対し、玄奘は何か言いたげな顔をして黙ったままだった。悟浄は一つ息をつくと「行雲流水、ここは帰った方が良いでござろうな」と、玄奘の背を優しく押した。
無言で二人は駐車場まで歩いた。玄奘はいつになく速足である。
悟空はいつものように車のドアを開けて玄奘を乗せてから、自分は運転席に座った。エンジンをかけると、玄奘のお気に入りの環境BGMが流れる。森の中のせせらぎと鳥の鳴き声だ。舌打ちをしてから音源を切った悟空に、玄奘はなおさら苛つきを覚えた。
「怒ってる?迎えにきてと頼んではいないけど」
玄奘が口を開くと、思っていたよりも尖った声が出た。
「……玄奘は枕が変わると寝れないじゃないですか。それにダンス練習で疲労してる足のマッサージまで悟浄に頼めないでしょう」
悟空の口調は言い訳がましかった。
「私は悟浄の家に泊まるつもりだった」
「っ……、でも」
「勝手に迎えにきて勝手に腹を立てて、一体私にどうして欲しいんだ」
玄奘は言葉を投げつけた。玄奘が怒りを顕わにするのは初めてかもしれない。悟空は戸惑いながら、何度か口をぱくぱく開けて言葉を探したようだった。しばらく黙ったあと、観念したように言った。
「……カッコ悪くて言いたくなかったんですけど、ほんとはおれが嫌なだけです」
「嫌?」
「悟浄の家に泊まるのが嫌ってわけじゃないですけど。……でも、やっぱり玄奘が誰かと二人きりでいるのは嫌です。おれが、……おれのそばに玄奘がいないことが耐えられないです」
眉間に皴を寄せながら苦しそうに言う悟空を見ていると、形容しがたい気持ちが玄奘の中に渦巻いた。
自分だって金狩と二人きりでランニングしているくせに。
喉元まで出かけたのに、玄奘はなぜかその言葉を口には出せなかった。車内には息苦しい空気が満ちていた。
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