続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第六章 早朝ランニングと八戒の助言

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「やあやあ、お集りの皆さん。気持ちの良い朝だなっ」
 
 明度の高い早朝の空に突き抜けるような声で磁路が叫んだ。いつものスーツではなくジャージ姿で、艶のある黒髪をポニーテールにしている。

「早朝故、もう少し声を抑えた方が良かろう」と、悟浄がたしなめる。

 爽やかなのは磁路だけで、あとの面々は爽やかとは程遠い表情で玄奘のマンションのエントランスに集まっている。

「眠い……」と玄奘は目をしょぼしょぼさせ、「寒いし、やめとこうぜ」と八戒はポケットに手を入れたまま鼻水をすすり、「やっぱり来るん、やめといたら良かった」と銀狩はこめかみを掻いた。

「ちなみに銀ちゃんは、なんで来たの?」

 遠慮なく聞いたのは八戒である。

「悟浄さん、玄奘さんと一緒にオールで金丹cookerをプレイしててん。で、走りに行くからプレイ終わるって言われて、そのときはまだ眠なかったし、ノリでついていくって言ってしまってんけど……完全に後悔やわ。徹夜ハイ怖いわぁ」

「こぉら。玄奘も悟浄も徹夜でゲームをしたとな?十分な睡眠時間の確保は美容と体調の維持向上に不可欠と言っておろうがっ」

 聞き捨てならぬ、と説教モードになりかけた磁路だったが、「寒い故、とりあえず走り始めてはいかがか」と徹夜に慣れている悟浄が冷静に誘導し、五人は走り始めた。

 ペース配分とコースは磁路と悟浄が調整し、八戒と玄奘がやや遅れながらもついていく。さすがに五人でジョギングをしていると人目を引く。広い歩道を通りながら、マンションからほど近い公園の周回コースに入るようだ。

 八戒は走りながら隣の玄奘に尋ねた。他の三人とはもう距離が空いている。

「悟浄の家で徹夜ゲームしてたの?よく兄貴が許したね」

「いや今回は私の部屋で。事前に悟浄が準備してくれて」

 ということは、悟浄は作業のために玄奘の部屋にも入ったのだろうし、兄貴はさぞ苛ついていることだろうと八戒は察する。

「兄貴は早く寝ろって言わなかった?」

「先に寝るよう言っておいたから」

 少し息が上がっている玄奘の返答は言葉少なである。八戒はぴん、ときた。相変わらず色事に関しての勘はひどく冴えている男である。

「……玄奘、兄貴と同じベッドで寝るのやめたの?」

「……なぜそれを」

 青ざめた顔で言う玄奘の腕を引いて、八戒はついに足を止めた。丁度公園の入口である。こんな面白そうなこと、走りながら尋ねるなんてまどろっこしいことはやっていられない。

 興奮しているせいか、しゃべりながら白い息が大量に出る。八戒は流れるような手つきで傍にあった自販機から温かいお茶を購入し、玄奘に握らせた。

「前は毎日兄貴と一緒に寝てたよね?最近二人がぎくしゃくしてるみたいで俺も心配してるんだよぉ。一緒に寝るのやっぱ気まずいの?」
 
 八戒は心からの心配顔を作って話を促す。玄奘は頷いた。
「どうしても……悟空と同じベッドに入ると流されてえっちなことをしてしまうのだよ。悟空と私は釣り合わないのではないか、悟空の恋人の座を誰かに譲るべきなのでは、と私自身はまだすっきりしない心でいるのに、それでも悟空に抱きしめられればキスをしたくなるし、キスをすればさわりあいをしたくなるし。心の整理がつくまで別々に寝た方が精神衛生上も倫理的にも良いのでは……と思ってね」
 
 玄奘はしょぼんとした表情を隠さない。八戒の聞き出し上手さに加え、睡眠時間が足りない頭はストッパーが効かないせいか、あけっぴろげに話をしてしまう。

「へぇ。じゃあしばらくセックスしてないんだ。玄奘はたまってない?」

「……たまっている、とは?」

 性的に疎い玄奘はきょとんとした顔で尋ねた。生まれてこの方、性欲を自覚したのは悟空と付き合ってからで、交際後は始終発散していたため「たまっていた」経験がないらしい。八戒はにっこり笑う。

「ああ、そこからね?だいじょぶだいじょぶ。えっとね、ムラムラしない?」

「ムラムラ……」

「きれいな人を見て、そんなつもりないのに勃起しちゃったり、とかさ」

 玄奘は得心が言ったようだった。

「ああ……、風呂上がりの悟空を見ると最近目が離せなくなる、というか。舐めたくなる……衝動を押さえつけるのが大変ということはあるかもしれない」

 八戒は目を丸くして言う。
「あの無垢だった玄奘が舐めたくなるなんて、こりゃあ一大事だよ。ほら、お茶でも飲んで落ち着いて」
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