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第八章 誕生日会とその裏で
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磁路によって玄奘は強制的に休暇を取らされた。その数日の間に足の痛みも引き、まだ包帯で固定はしているものの、日常生活は支障なく送れるようになった。ダンス練習はまだ様子見だが歌唱練習は再開している。
今日は紅害嗣の誕生日会である。主役の紅害嗣の自宅マンションに悟空以外のジャニ西メンバーと玉竜が到着した。もちろん納多も同席している。
「え~。紅ちゃん、俺たちしか招いてないの?友達少ないんだねえ」
まるでホテルのスイートルームようなゆったりとしたリビングを見渡しながら八戒が失礼なことを言うが、紅害嗣は気にした様子もなく言った。
「大人数での誕生日会はデカい箱を抑えて先週やったんだよ。賑やかなのも良いけどな、一人一人とゆっくり話す時間がないだろ?」
「俺たちとゆっくり話したかったってことかぁ。紅ちゃん、可愛いとこあるじゃ~ん」
壁一面のガラス戸を開け放った開放的なリビングテラスには、シンプルだが広々としたカウチソファが設置されている。屋根があるとは言え、見上げれば視界に入るのは澄んだ空気に瞬く星空と淡い色調で照らされた観葉植物のみである。インテリア雑誌に掲載された一部屋のようにすべてが調和していた。さすがの悟浄も感服したように頷いた。
「絶景……でござるな」
紅害嗣は暖かいショールを持ってきて玄奘の肩にかけてやった。
「春先だからまだ寒いかもしれねぇ」
玄奘も振り向いて微笑む。
「ありがとうございます。それでも外の空気はすがすがしいですね」
「お前は座っていればいいからな」
腰かける玄奘の手を紅害嗣がとり、バランスを崩さないようにさりげなく導いてやる。玄奘と悟空の交際を強引に引き裂くことを諦めた紅害嗣は、想いを整理できたせいかかえってスマートに玄奘をエスコートできるようになっている。普段なら悟空がすぐさま邪魔をしてくる場面だが、その悟空は不在である。
「で、あの猿は?俺様の誘いを断ったからにはさぞ重大な用事でもあんだろうなぁ」
紅害嗣の問いに、玉竜は首を傾げた。
「悟空はなんだかこそこそ出かけて行ったけどね。理由は教えてくれなかったけど」
八戒は早速、優雅にソファに腰をかけ、目の前のライチに手を伸ばしながら言う。
「それでもさ、前の兄貴なら紅ちゃんからの誘いに玄奘だけ行かせて自分は行かない、なんて考えられなかったでしょ。心配すぎてついてくるし、何があっても玄奘の隣を譲らなかったじゃん。でも今回は玄奘だけを行かせたってことは、やっぱり紅ちゃん、兄貴から結構信頼され始めたんじゃないの?」
「猿から信頼だとぉ?気持ちの悪いことを言うな。玄奘も猿の用事は知らねえのか?」
「ああ、……はい」
玄奘の表情は暗い。
(悟空が私だけを行かせたのは、私が誰と付き合おうと、もう関心がないせいかもしれない。紅害嗣さんに私が口説かれても構わないと思っているのかも)
悟浄がそれとなく察して玄奘の隣に腰を下ろして付き添う。
「散会する頃、玄奘を迎えに来ると言っておった。心配はいらぬ」
悟浄のとりなしに、玄奘も無理に口角を上げながら頷いた。
納多が大皿に載った料理を器用に両腕に載せて大量に抱えてくる。バランス感覚が抜群で、まったく危なげない姿に皆が息を呑むが、本人は不服そうだ。
「腕が六本ある真の姿であれば、より一度にたくさんの皿を運べるのだが。腕が二本だと不便であるな」
納多が皿を順にテーブルに載せていく。豆とひき肉がたっぷりはいったトマト風味のチリコンカン、ごろっとしたアボガドとサワークリームの載ったナチョス、レモンが香るタコのセビーチェに続いたのは、大量のトルティーヤと、サルサソース、ワカモレ、タコミート、シュリンプなど色とりどりの具材が並んだ。
納多を相手に口説く練習をしている紅害嗣が、その一貫として「手料理をふるまう」スキルを順調に伸ばしていった成果である。
「すごい!メキシカンパーティーじゃん!タコス食べ放題だ!紅ちゃん、自分で自分の誕生日会の料理作っちゃうなんて、健気で可愛い~」
食べ物には目敏い八戒が歓声をあげれば、紅害嗣は鼻高々だ。
「可愛いは余計だ。でもな、トルティーヤも俺が焼いたんだ」
「この日のために何度も練習したからな。最初は薄く伸ばせず破けてしまってな。失敗作は私が食した」
裏事情をあかした納多に「黙ってろ」と紅害嗣はすごむが、納多は全く気にした様子がない。納多は戦闘力で言えば紅害嗣よりもはるかに強いため、怖がる必要がまったくないのだ。
「努力を重ねるのはそれだけで称賛に値しますよ」
「とにかく美味そうじゃん」
「拙者もトルティーヤはさすがに焼いたことがござらん」
「紅害嗣、料理上手かったんだね!」と、玉竜含むジャニ西の面々から口々に褒められると紅害嗣のにんまり顔は復活した。
「さぁ、俺様の誕生日だからな!皆、好きなだけ飲んで食べろっ」
今日は紅害嗣の誕生日会である。主役の紅害嗣の自宅マンションに悟空以外のジャニ西メンバーと玉竜が到着した。もちろん納多も同席している。
「え~。紅ちゃん、俺たちしか招いてないの?友達少ないんだねえ」
まるでホテルのスイートルームようなゆったりとしたリビングを見渡しながら八戒が失礼なことを言うが、紅害嗣は気にした様子もなく言った。
「大人数での誕生日会はデカい箱を抑えて先週やったんだよ。賑やかなのも良いけどな、一人一人とゆっくり話す時間がないだろ?」
「俺たちとゆっくり話したかったってことかぁ。紅ちゃん、可愛いとこあるじゃ~ん」
壁一面のガラス戸を開け放った開放的なリビングテラスには、シンプルだが広々としたカウチソファが設置されている。屋根があるとは言え、見上げれば視界に入るのは澄んだ空気に瞬く星空と淡い色調で照らされた観葉植物のみである。インテリア雑誌に掲載された一部屋のようにすべてが調和していた。さすがの悟浄も感服したように頷いた。
「絶景……でござるな」
紅害嗣は暖かいショールを持ってきて玄奘の肩にかけてやった。
「春先だからまだ寒いかもしれねぇ」
玄奘も振り向いて微笑む。
「ありがとうございます。それでも外の空気はすがすがしいですね」
「お前は座っていればいいからな」
腰かける玄奘の手を紅害嗣がとり、バランスを崩さないようにさりげなく導いてやる。玄奘と悟空の交際を強引に引き裂くことを諦めた紅害嗣は、想いを整理できたせいかかえってスマートに玄奘をエスコートできるようになっている。普段なら悟空がすぐさま邪魔をしてくる場面だが、その悟空は不在である。
「で、あの猿は?俺様の誘いを断ったからにはさぞ重大な用事でもあんだろうなぁ」
紅害嗣の問いに、玉竜は首を傾げた。
「悟空はなんだかこそこそ出かけて行ったけどね。理由は教えてくれなかったけど」
八戒は早速、優雅にソファに腰をかけ、目の前のライチに手を伸ばしながら言う。
「それでもさ、前の兄貴なら紅ちゃんからの誘いに玄奘だけ行かせて自分は行かない、なんて考えられなかったでしょ。心配すぎてついてくるし、何があっても玄奘の隣を譲らなかったじゃん。でも今回は玄奘だけを行かせたってことは、やっぱり紅ちゃん、兄貴から結構信頼され始めたんじゃないの?」
「猿から信頼だとぉ?気持ちの悪いことを言うな。玄奘も猿の用事は知らねえのか?」
「ああ、……はい」
玄奘の表情は暗い。
(悟空が私だけを行かせたのは、私が誰と付き合おうと、もう関心がないせいかもしれない。紅害嗣さんに私が口説かれても構わないと思っているのかも)
悟浄がそれとなく察して玄奘の隣に腰を下ろして付き添う。
「散会する頃、玄奘を迎えに来ると言っておった。心配はいらぬ」
悟浄のとりなしに、玄奘も無理に口角を上げながら頷いた。
納多が大皿に載った料理を器用に両腕に載せて大量に抱えてくる。バランス感覚が抜群で、まったく危なげない姿に皆が息を呑むが、本人は不服そうだ。
「腕が六本ある真の姿であれば、より一度にたくさんの皿を運べるのだが。腕が二本だと不便であるな」
納多が皿を順にテーブルに載せていく。豆とひき肉がたっぷりはいったトマト風味のチリコンカン、ごろっとしたアボガドとサワークリームの載ったナチョス、レモンが香るタコのセビーチェに続いたのは、大量のトルティーヤと、サルサソース、ワカモレ、タコミート、シュリンプなど色とりどりの具材が並んだ。
納多を相手に口説く練習をしている紅害嗣が、その一貫として「手料理をふるまう」スキルを順調に伸ばしていった成果である。
「すごい!メキシカンパーティーじゃん!タコス食べ放題だ!紅ちゃん、自分で自分の誕生日会の料理作っちゃうなんて、健気で可愛い~」
食べ物には目敏い八戒が歓声をあげれば、紅害嗣は鼻高々だ。
「可愛いは余計だ。でもな、トルティーヤも俺が焼いたんだ」
「この日のために何度も練習したからな。最初は薄く伸ばせず破けてしまってな。失敗作は私が食した」
裏事情をあかした納多に「黙ってろ」と紅害嗣はすごむが、納多は全く気にした様子がない。納多は戦闘力で言えば紅害嗣よりもはるかに強いため、怖がる必要がまったくないのだ。
「努力を重ねるのはそれだけで称賛に値しますよ」
「とにかく美味そうじゃん」
「拙者もトルティーヤはさすがに焼いたことがござらん」
「紅害嗣、料理上手かったんだね!」と、玉竜含むジャニ西の面々から口々に褒められると紅害嗣のにんまり顔は復活した。
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