続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第八章 誕生日会とその裏で

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 シャキシャキのレタス、瑞々しいトマトにスパイスの香るタコミートをトルティーヤで巻き、辛みのあるサルサソースと共にかぶりつけば、口内に複雑妙味な味わいが広がり何とも言えず美味であった。たらふく食べたそれぞれは腹も膨れ、今は軽いものをつまみながら一服している。

「玄奘、足の具合はどうなんだ」

 紅害嗣が隣に座った玄奘に尋ねる。

「休暇中は悟空が優しくしてくれてね」

 玄奘の頬は少し赤い。酔ったせいか紅害嗣にも敬語を使わずに話している。悟浄は玄奘が見た目よりもかなり酔っているのではないかと危惧をしている。

「いつもなら優しくしてもらうのは嬉しいんだけど、今回の優しさは胸が痛くなるというか。私が歩けないだろうからってトイレまでついてくるし、身体も全部洗ってくれるし。いつもなら一緒にお風呂に入ると、いろいろ……気持ちの良いことをするんだけど、そういうこともしないし……優しいんだけどそのやさしさが辛いというか、もう愛されてないのかなって逆に心配になるくらいで」

「そっか、玄奘が倒れたことに悟空も責任感じてんのかもね」

 玉竜が相槌を打つと、玄奘は玉竜にすがりつくようにその服を掴んだ。

「もう見放されちゃったのかな……。私はダンスも下手だし、筋トレも一緒にできないし、……読経以外に何もできない足手まといだから」

 玉竜の服に顔を埋めて、すんすんと鼻をかむ玄奘の頭を離すわけにもいかずに玉竜はぽんぽんと軽く叩いて慰めている。玉竜の服は高級ブランド製だが、親友がへばっているときに文句を言うほど彼は器の小さい男ではない。

「玄奘、もう寝ちゃいなよ。僕がそばについててあげるからさ」

「うえーん、玉竜ありがとう……」

 玄奘は玉竜にしがみついたまま、目を閉じた。

「玄奘って泣き上戸だったっけ?」「精神的にストレスを溜めているせいでござろう」と八戒、悟浄が評している。

 隣のソファで様子を見ていた紅害嗣がため息をつく。

「誰だよ、玄奘に飲ませたのは」

 出会ったばかりの紅害嗣、玄奘をさらって酔わせた隙に襲おうとしたくせに成長したものだなぁと玉竜は感心している。

 紅害嗣の問いには、八戒が料理の余った皿を抱え込んで、もしゃもしゃと食べながら答える。

「『辛いけど美味しいなぁ、でも辛いなぁ』とか言って、タコス食いまくってたから飲み過ぎたんだよ。誰も無理に勧めてないし、自分で酔っ払っただけじゃん?」

 紅害嗣は頷いた。

「ああ、俺は辛口だから、タコスの味付けが辛すぎたのかもな」

 そこへケーキを運んできた納多がすかさず紅害嗣を叱った。

「お前の味覚は辛みでバカになってるんだ。こういう時は客の好みに合わせないとだめじゃないか。すまない、そこまで気が回らなかった私にも責任があろう」

 天界人の納多は天界の美酒佳肴に慣れきっているため、地上の食べ物は味気なく味の良し悪しがあまりわからないのだ。 

 ケーキだ!と大喜びする八戒だったが、誕生日当人の紅害嗣はきょとんとした顔をしている。

「ケーキ用意してくれてたのか?お前が?」

「自分で用意していないとすれば、私しかいないだろうな」

 無表情で答えた納多だったが、紅害嗣は片方の唇を上げてにやついた。

「……お前にしては気が利くな」

「もっと他に言うことがないのか、このド阿呆め」

 玄奘以外の全員でバースデーソングを歌ってやり、八戒以外はそろそろくちくなった腹にシャンパンとケーキを詰め込んだ。

 眠ってしまった玄奘を抱きかかえるようにしながらケーキを口に運ぶ玉竜を、悟浄が気遣う。 

「玉竜、今日は飲んでいないでござるな」

「悟浄が珍しくお酒飲んじゃってたし、ドライバー役が必要だからね。帰りは僕が送っていくよ」

 天界人の納多は耳聡く口を挟んだ。 

「今まで気づかず失礼なことをした。私は酒も食べ物も必要としない。運転は引き受けるから、お主も呑むがいい」

「納多って優しいなあ。ジャニ西のみんなは僕にこんなに優しくしてくれたことある?でもだいじょうぶ。玄奘も酔っ払っちゃったし、親友として面倒を見る責任があるからさ」

 玉竜が玄奘の肩をとんとんと叩きながら言った後、紅害嗣は口の周りにクリームをつけながら付け加えた。

「納多は俺以外には優しいんだよな」

「お前には優しくする価値がないだけだ」と言う納多ではあったが、紅害嗣の口元をタオルで拭いてやっている。見苦しいぞ、という小言と共に。

 それを見た恋愛脳の八戒は、すかさず首を突っ込んでいく。

「ねえねえ、今日の二人はなんだか距離が近い気がするんだけどさ、もしかして一緒に住んでんの?いつの間にそういう仲になっちゃてんの?仲良しこよしじゃん」

 紅害嗣は「別に仲良しじゃねえよ」とぶんむくれるので、納多が肩をすくめながら説明した。

「紅害嗣は父母と同居していたのだが、とうとう自立したいと言い出してな。それでも一人暮らしをさせると生活リズムが崩れそうだったし、お目付け役が必要だろうという太上プロデューサーの意向で私が一緒に住むことになったのだ。迷惑なのはこちらの方だがな」

 へぇとにやつく八戒を見ないふりをして、紅害嗣はシャンパンを飲み干す。この男、からかわれるのは嫌いなのだ。





 帰り際、まだ半分眠ったような状態の玄奘の肩に手を置いて、紅害嗣は真摯に告げた。

「ダンスができなくても玄奘は玄奘だ。目標に向かって努力ができるというのがお前の一番のとりえだ。猿にはお前
の良さがわかっているはずだ」

「そうだね……。悟空と話し合ってみる」とぼんやりと返答した玄奘は、玉竜と悟浄に抱きかかえられるようにして帰っていった。

 姿が見えなくなるまで見送ったあと、扉を閉めた紅害嗣は我知らずため息をついた。

「最後の一言は余計なお世話だったな。俺も飲みすぎたか」

 肩を落とした紅害嗣の隣で、逆に胸を張ったのは納多だった。

「お前が誰かに気を遣おうとしている時点で大した成長だ。お前はまだまだ上を目指せる。私が仕事を取ってきてやる。私がお前をトップにしてやるから似合わぬ反省はやめるがいい」

 強気な納多の発言を、紅害嗣は鼻で笑った。

「……うるせー。ガキがほざいてんじゃねえよ」

「こちとら何百年も前から生きてるんだ。お前なんか前世の時から知っておるわ」

「そんなガキみたいな見た目で凄んでも怖くねえっつの」

 終わらない言い合いをする二人の上で、冬の夜は更けていく。 
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