続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第八章 誕生日会とその裏で

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 時間は少し巻きもどり、同日の夕刻である。紅害嗣の誕生日パーティーを欠席した悟空は、夜景の見える料理店に金狩と二人でいた。まだ地平線は紫がかっているが夕闇に暮れる街にはすでに灯りが燈っている。いわゆるカップル席と呼ばれる、大きなガラス窓に面し、背もたれの高いソファで空間を仕切られた席は、悟空が予約したものだ。

「今までたくさん断られてきたし、やっと空ちゃんが誘ってくれたん、嬉しいな。朝のジョグ以外で二人で会うん、初めてや」

 隣にいる金狩ははしゃいでいる。普段のダンス練習のときには結っている髪を下ろしているせいか、少し年嵩に見える。悟空は落ち着いた表情のまま、金狩の酒がなくなったら注文してやり、料理が足りるかと気を配り、そつのない態度だ。悟空は金狩の顔をじっくりと眺めながら感慨深そうに言った。

「お前も酒が飲める年で良かった。最初に会ったときは未成年かと思ったけどな」

「僕は玄奘さんと同い年やで。もうれっきとした大人や」

 ということは悟空の七つ年下である。

「おれから見れば、まだ子どもみたいなもんだけどな」

「でも玄奘さんと付き合ってるってことは、空ちゃんの恋愛対象にはなる年齢ってことやろ?」

「どうだかな」

 悟空は微かに笑って、けむに巻いた。
 
 景色と料理を堪能しながらそつのない悟空のもてなしを受け、すっかりリラックスした様子の金狩はソファにもたれながら尋ねた。

「でも急にどういう風の吹き回し?空ちゃんからの誘いなんて」

「別にお前にもいろいろ世話になったし、……ほら、うちの玄奘は覚えも悪いから手間かけさせたしな」

 金狩は玄奘の初期のダンスを思い出したのか、少し笑った。

「最初はびっくりするほど下手やったもんね。でもちゃんと努力してるのが偉いけど。そういえば玄奘さんの足は良くなったん?」

「来週くらいからダンス練習にも復帰できるそうだ。振りはもう入ってるし、あとは完成度上げていくだけだからな」

 金狩がグラスを持ち上げると、悟空も同時にグラスを持つ。二人の持つグラスには街の灯りが反射している。悟空の鋭い目の奥にも。金狩はその瞳の奥の光から目を逸らせない。

「空ちゃんは最初からダンス上手かったもんなぁ。今はもう僕かて見惚れてしまうくらいや」

「……そうか」

 悟空は少しだけ目を伏せた。少しだけ頬が赤くなっているのは酔っているのではなく嬉しく思ってくれていると解釈してもいいのだろうか、と金狩は思う。

 金狩は距離を詰めた。グラスを持っている悟空の手を両手で握る。

「なぁ……空ちゃん。玄奘さんと付き合ってるのに、僕を誘ってくれたんやろ?それって、あの……期待してもええん?」

 こちらを振り向いた悟空の顔は思ったより近かった。

「期待ってどういう?」

 ぼそぼそした悟空の声はいつもよりも低かった。聞き取れないふりをして、金狩は顔をさらに寄せる。

 二人の唇が一瞬ふれた。

 金狩の身体が熱くなる。ずっとキスしたいと思っていたのだ。

「こういう期待……」

 そう言いかけた金狩の言葉は空気の中ではなく悟空の口の中に漏れた。自分でも気づかずに金狩は再び唇を重ねていたらしい。

 悟空の唇は閉じられていない。金狩は舌ピを開けた舌で、悟空の口腔内を刺激していく。彼はいつもこのキスで落としてきたのだ。悟空の舌もぬめぬめと動いている。そう、もっと僕の中に入ってきて。

 再び目を開いた金狩は、悟空が自分の肩を抱いていることに気づいた。距離が近い。

「あ、空ちゃん……」

 悟空はそのまま金狩の頬に片手でふれながら言った。顔を近づけてくる。このままではまたキスをしてしまう。

「金狩、おれのこと好きか?」
 
 
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