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第九章 罠
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自宅マンションの前で悟空は悟浄、玉竜と落ち合い、酔って眠ってしまった玄奘を受け取った。玄奘を自分の肩に寄りかからせるように抱きとめると、その温かさを実感する。時刻はすでに真夜中と言っても良い時間になっている。
「迎えに行けなくて悪かったな。思ったより時間がかかっちまった。でも金狩の件は片付いた。あいつが玄奘を煩わせることは二度とねえ」
金狩と会った際に録音したデータは悟浄に共有させた。ついでにその経緯もざっと説明済みである。万が一、金狩がアクションを起こしてきた際の反撃材料にするつもりだ。自分のスマホで録音内容を軽く再生した悟浄はさすがに眉間に皺を寄せた。
「しかし……全面的にアウトでござるな」
盗聴やハッキングを繰り返している悟浄に言われる筋合いはない。悟空は片眉を動かしただけで特に反応しない。
この中のメンバーでは一番常識人である玉竜は深刻そうにため息をついた。
「さすがに引くよ。玄奘がこれを聞いたらショックだろうなぁ」
「聞かせるなよ」
悟空に睨まれ、玉竜は片手を振った。玉竜が親友である玄奘のことを大切に思っていることを未だに悟空だけは理解していない様子だ。きっと悟空には大切な友達がいないせいだと玉竜は考える。
「僕はそんなことしないよ。それにしても金狩の気持ちを弄ぶこんなひどいこと、しなくても良かったんじゃないの?」
「……あいつの存在が玄奘を精神的にも肉体的にも追い詰めたんだ。もっと早くに始末しておけばよかったと後悔してるくらいだ」
悟空の言い分でいけば、玄奘を救うためならどんなに汚い手であってもためらいもなく繰り出すということである。玉竜はこの先ジャニ西が末永く芸能活動を続けていくために、悟空が犯罪をしないよう改めて磁路に注意喚起しておくべきだと考えた。本当に治安の悪いグループである。
悟浄はスマホを操作しながら言う。どうやら録音データを自分のサーバに送ったようだ。
「始末と言うほど、金狩が悪い奴であったとは拙者には思えんがな」
二人から非難めいた視線を向けられて悟空は腕を組んだ。非難するどころか絶対に茶化してくれるであろう八戒がこの場にいればに良かったとさえ珍しく思っている。
二人の視線が煩わしくなってきたため、舌打ちして吐き捨てるように悟空は言った。
「ちっ。わかってるって。本当はおれが一番悪い。金狩がおれに接触してきた時点でもっとあからさまに拒否っておけばよかったんだ。玄奘 以外の誰かに好かれてもおれには意味のないことだからと、ずるずる見過ごしていたからこうなった」
悟浄は盛大なため息をついてから耳上のおくれ毛を撫でつけながら言った。
「玄奘がどれだけ悟空のことを心配しておったか、お主にはわかるまい。相談も何もなく、邪推させるようなふるまいばかりしおって」
つられて悟空も荒いため息をつく。
「だからさっさと解決したかったって言ってんだろ。本当は玄奘がごたごたに気づく前になんとかするつもりだったんだ」
自分は玄奘の親友であるという責任感を持って、玉竜は言った。
「たぶん悟空が思ってるより、玄奘は周りを見てるし、嫉妬もしてるよ」
悟空は自分の肩に寄りかかっている玄奘の寝顔をまじまじと見た。悩みなど一つもなさそうな平穏な顔で眠っているように見えるのに。
「……マジか」
呟いた悟空に玉竜はここぞとばかりに諫めた。
「今後はきちんと事前に二人で話合うべきだよ。自分を囮にして恋敵の心を真っ二つに折るなんて方法を玄奘は望まないと思う」
玉竜の意見は正論も正論だったが、悟空に正論は通用しない。この世のすべてよりも玄奘最優先の男なのだ。
「玄奘以外のことはどうでもいい。おれや周りがどうなろうと玄奘の平穏を守れるならそれでいい」
悟空には塵ほども迷った様子は見られない。本気で玄奘以外のことはどうでもいいと思っているらしい。悟空は単なる玄奘オタクではなく、本格的に狂っているのだ、と玉竜は初めて気づき、身震いを抑えられずにいる。
悟空は玉竜の身体の向きを変えるようにひらひらと指を回した。
「寒いんだったら早く帰れよ」
「ちょっと!犬でも追い払うような手つきやめてくれる?僕らは玄奘を送ってあげたのに、どういうこと?もっと感謝してよね」
「それはありがとな。もう用は済んだだろ?帰れ帰れ」
悟空は玄奘を大事そうに抱えながら、もうエントランスに入っている。玉竜は「どうなのあの態度。なんなのあの狂人」と不満気に悟浄を見たが、悟浄は諦めろというように首を振った。悟空の玄奘贔屓は前世からのもので治りようがないことを悟浄は知っているのだ。
「迎えに行けなくて悪かったな。思ったより時間がかかっちまった。でも金狩の件は片付いた。あいつが玄奘を煩わせることは二度とねえ」
金狩と会った際に録音したデータは悟浄に共有させた。ついでにその経緯もざっと説明済みである。万が一、金狩がアクションを起こしてきた際の反撃材料にするつもりだ。自分のスマホで録音内容を軽く再生した悟浄はさすがに眉間に皺を寄せた。
「しかし……全面的にアウトでござるな」
盗聴やハッキングを繰り返している悟浄に言われる筋合いはない。悟空は片眉を動かしただけで特に反応しない。
この中のメンバーでは一番常識人である玉竜は深刻そうにため息をついた。
「さすがに引くよ。玄奘がこれを聞いたらショックだろうなぁ」
「聞かせるなよ」
悟空に睨まれ、玉竜は片手を振った。玉竜が親友である玄奘のことを大切に思っていることを未だに悟空だけは理解していない様子だ。きっと悟空には大切な友達がいないせいだと玉竜は考える。
「僕はそんなことしないよ。それにしても金狩の気持ちを弄ぶこんなひどいこと、しなくても良かったんじゃないの?」
「……あいつの存在が玄奘を精神的にも肉体的にも追い詰めたんだ。もっと早くに始末しておけばよかったと後悔してるくらいだ」
悟空の言い分でいけば、玄奘を救うためならどんなに汚い手であってもためらいもなく繰り出すということである。玉竜はこの先ジャニ西が末永く芸能活動を続けていくために、悟空が犯罪をしないよう改めて磁路に注意喚起しておくべきだと考えた。本当に治安の悪いグループである。
悟浄はスマホを操作しながら言う。どうやら録音データを自分のサーバに送ったようだ。
「始末と言うほど、金狩が悪い奴であったとは拙者には思えんがな」
二人から非難めいた視線を向けられて悟空は腕を組んだ。非難するどころか絶対に茶化してくれるであろう八戒がこの場にいればに良かったとさえ珍しく思っている。
二人の視線が煩わしくなってきたため、舌打ちして吐き捨てるように悟空は言った。
「ちっ。わかってるって。本当はおれが一番悪い。金狩がおれに接触してきた時点でもっとあからさまに拒否っておけばよかったんだ。玄奘 以外の誰かに好かれてもおれには意味のないことだからと、ずるずる見過ごしていたからこうなった」
悟浄は盛大なため息をついてから耳上のおくれ毛を撫でつけながら言った。
「玄奘がどれだけ悟空のことを心配しておったか、お主にはわかるまい。相談も何もなく、邪推させるようなふるまいばかりしおって」
つられて悟空も荒いため息をつく。
「だからさっさと解決したかったって言ってんだろ。本当は玄奘がごたごたに気づく前になんとかするつもりだったんだ」
自分は玄奘の親友であるという責任感を持って、玉竜は言った。
「たぶん悟空が思ってるより、玄奘は周りを見てるし、嫉妬もしてるよ」
悟空は自分の肩に寄りかかっている玄奘の寝顔をまじまじと見た。悩みなど一つもなさそうな平穏な顔で眠っているように見えるのに。
「……マジか」
呟いた悟空に玉竜はここぞとばかりに諫めた。
「今後はきちんと事前に二人で話合うべきだよ。自分を囮にして恋敵の心を真っ二つに折るなんて方法を玄奘は望まないと思う」
玉竜の意見は正論も正論だったが、悟空に正論は通用しない。この世のすべてよりも玄奘最優先の男なのだ。
「玄奘以外のことはどうでもいい。おれや周りがどうなろうと玄奘の平穏を守れるならそれでいい」
悟空には塵ほども迷った様子は見られない。本気で玄奘以外のことはどうでもいいと思っているらしい。悟空は単なる玄奘オタクではなく、本格的に狂っているのだ、と玉竜は初めて気づき、身震いを抑えられずにいる。
悟空は玉竜の身体の向きを変えるようにひらひらと指を回した。
「寒いんだったら早く帰れよ」
「ちょっと!犬でも追い払うような手つきやめてくれる?僕らは玄奘を送ってあげたのに、どういうこと?もっと感謝してよね」
「それはありがとな。もう用は済んだだろ?帰れ帰れ」
悟空は玄奘を大事そうに抱えながら、もうエントランスに入っている。玉竜は「どうなのあの態度。なんなのあの狂人」と不満気に悟浄を見たが、悟浄は諦めろというように首を振った。悟空の玄奘贔屓は前世からのもので治りようがないことを悟浄は知っているのだ。
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