続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第十章 伴侶としての覚悟

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 夢も見ずに泥のように眠った。これほど深く眠ったのは久方ぶりかもしれない。目を開けた悟空は習慣的に枕元の時計を確認した。すでに昼前である。玄奘のために食事を用意しようと上半身を起こしかけると、片手を掴まれた。振り向けば、玄奘がやわらかい目元で微笑んでいた。

「おれと同じ時間に起きるなんて、珍しいですね」

「ふふふ、今日は悟空が起きるのが遅かったんだと思う。いろいろ片付いたから安心したのかな」

「そうかもしれませんね。玄奘、先にシャワーでも浴びます?昨日一応身体は拭いておきましたけど」

「ありがとう。そうだね、シャワーを浴びてさっぱりしたいけど……でも」

 玄奘が悟空の手を引いた。再び寝転がった悟空の胸にすり寄ってきた玄奘が甘えるように言った。

「同じベッドで眠ったのも久しぶりだから嬉しいし、もうちょっとこうしてたいな……今日はオフだからゆっくりしててもいいだろう?それともこのままワークアウトに出かける?」

「ま、まぁ……今日は別にサボってもいいし、おれもこうしてて……かまいませんけど」

 ここしばらくのいざこざでセックスをしてこなかった二人である。それまでほぼ毎日互いに性的な刺激を与えあっていたのだから、二人の欲求不満フラストレーションは非常にたまっている。ただ抱き合っているだけで二人の身体は熱くなってくる。互いに腕を回したまま顔を見合わせれば、互いの目の中に欲望の火種を見つけた。

「けんかをしていたつもりはないけど、でもずっと悟空と気持ちがすれ違っている気がしていたから……仲直りできて、無事に気持ちを重ねて新曲も収録できたし、本当に良かったな」

 しっとりとした声で玄奘がこれまでを振り返る。わかりにくいがこれは誘いだと悟空は気づいている。

「そ、そうですね」

 どことなく悟空の声は上ずっている。

「悟空は一人自分のベッドで寝ているとき、寂しかった?」

「えっ……と、どうでしょう」とはぐらかした答えには不満そうに玄奘が重ねて尋ねた。

「一人でシた?」

「……え、……言わなきゃいけないんですか」

 悟空は固まる。当然玄奘の写真を見て自慰してはいたのだが、玄奘に気持ち悪がられるといけないので言えるはずもない。

 玄奘は悟空の胸に頬を寄せた。反射的に悟空は玄奘の肩を抱く。玄奘は小さな小さな声で呟いた。

「私は……寂しくて、寂しくて……悟空を想って……シたよ」

「え……」

 聞き間違いではなかろうか。あの清浄極まりない玄奘が自慰に耽った、だと?ほんとに?

 交際前に玄奘の自慰を覗き見てしまったことはあったが、交際以降は二人のいちゃいちゃで常時発散することが多かったせいか、玄奘が自慰している様子などこれまでまったくなかったのに。(悟空はいざとなればゴミ箱を漁ってでも相手の自慰を推察できるストーカー気質のオタクである)

 悟空は自分でも信じられないほどに興奮した。玄奘がそこまでの性的な衝動を感じるようになったなんて。しかもその事実を恥ずかしそうにおれにだけ教えてくれるなんて。

「でも一人じゃうまくイけなくて……悟空の顔を思い浮かべながら触ったんだが、うまくいかなくて、もどかしくて」

「……どっちさわったんですか?前?後ろ?」

 興奮したせいだろうか。尋ねる悟空の声は少し掠れていた。

「前、を。後ろも少しさわってみたんだが……なんだか怖くて」

 いまだに挿入するときもすべての準備は悟空が行っているせいか、玄奘はまだ自分で解すことに慣れていない。悟空はごくり、と唾を飲んだ。

「じゃ、じゃあ……、今日は自分で後ろ弄ってみます?おれ、……その、教えますから。自分で弄るところ、見せてほしいです」

 玄奘は少し考えた様子を見せたあと、悟空の目を覗きこむようにして言った。

「そうだな……、悟空が私にたくさんキスしてくれてお願いしてくれたら、考えようか」

 よし、と悟空は気合いを入れて玄奘の頬を支えた。期待に満ちた表情で目を閉じる玄奘の唇、ではなくまず耳に唇をつけた。

「んっ」

 すぐに目を開けてくすぐったそうに耳を抑える玄奘の顔がかわいらしくてたまらない。想定以外の場所に不意打ちのキスをされて戸惑っている様子だ。それから隙を逃さず、油断している玄奘の唇に優しく唇を当てた。

 何度もなぞるようにふれあわせる。玄奘も応えるように悟空の首に抱きついてきた。

「ふっ……ぅん」

 二人は深く舌を絡め合う。息もできないほどに長く深く。玄奘と同棲するようになってから一年、交際してから半年ほど経つ二人はまだ恋人としての歴史は浅い。しかし前世からの因縁だろうか、悟空にとって玄奘とのキスはなぜか自分の帰る場所のような懐かしい気持ちを呼び起こす。

 夢中になって玄奘の舌を吸いながら悟空は一瞬だけ金狩とのキスを思い出す。舌ピアスが上顎や粘膜に当たって不思議な刺激ではあったが、やはり玄奘とのキスには敵わない。彼は口の中に何か香料でも隠し持っているのだろうか。ふわふわとした浮遊感の中で、春の風のような香りがする。

「ン、ふ……悟空とのキス……嬉しい」

「おれもです」

「ふぁ……ン、きもちい……」

 キスをしながらお互いの勃ち上がってきたところが当たっている。玄奘のものはすでに服を湿らしているようだ。

「もうさわってほしそうですね」

「あっ、ふぁっ……ん……んん」

 悟空はわざとキスをやめた。物足りない顔で玄奘が見てくる。

「ご自分で前と後ろ弄って、気持ちよくなってるところ、おれに見せてください。お願いします」

 わざと真面目な声で言うと、玄奘は笑った。顎に手をやって微笑むところは妖艶さの極みだ。これはおれが育てたエッチさです、と悟空は内心胸を張る。
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