続 深夜の常連客がまさかの推しだった

中島焔

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第十章 伴侶としての覚悟

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 二人で抱きあって絶え間なくキスをしながら呼吸を整えた。お互いに乱れた髪を手櫛で整えあう。悟空の視界は玄奘でいっぱいだ。その玄奘がにっこりと笑いながら言った。

「じゃあ、次は悟空に挿れる番だね」

「……ほんとにするんです?」

 実はこのセックスで満足して玄奘はまたひと眠りしてしまうのではと悟空は思っていたのだが、予想に反して玄奘の目は冴えている。そして悟空に挿入する気も満々である。

「約束したじゃないか。違えるのか?」

 目の前で玄奘が頬を膨らませる。可愛いので普通にもっと見ていたいです、と思いながら悟空は誠実に理由を説明する。

「玄奘に挿れられるのが嫌なわけではないです。対等な恋人としての関係を築きたいという玄奘の考えも理解できましたし、玄奘にされることなら、おれは大抵の事なら受け入れられます。でも……玄奘はおれに挿れたりできます?正直萎えるのではないか……と心配ではあります」

「萎え……る?」

「おれは玄奘が喘ぐのを見ていてものすごく興奮するんですけど。綺麗だし、色っぽいし。でも、おれが喘いでも気持ち悪いじゃないですか。勃つものも勃たないんじゃないですかね」

 悟空の説明を玄奘は瞬きしながら聞いている。長い睫毛がすーっと下りてまた上ってくるだけで悟空の目は釘付けになる。

「だいじょうぶだよ。やってみよう」

 挿入だけすれば良いと悟空は言い張ったのだが、玄奘は前技もしないと対等な関係とは言えないと言い張った。

「んなこと言っても、おれは身体をさわられてもそれほど気持ち良いと思わないんですが……」

「それはやってみないとわからないよ」

 玄奘はベッドの上であぐらをかいた。

「さあ、おいで」

 推しが両手を伸ばして自分を誘っている。玄奘の膝の上に乗る……しかないのだろうか。悟空はそろそろと近寄り、遠慮がちに玄奘の上に腰を下ろす。

「重くないすか……」

「だいじょうぶだよ。ほら、悟空。キスをして」

 玄奘の膝の上に乗った悟空の方が頭の位置が高い。上を向いてキスをねだる玄奘はひどく可愛い。悟空は唇を合わせた。それだけで不思議と甘く感じる。どうしてだろう。玄奘は悟空の舌が入ってくるタイミングに合わせて舌を絡ませるだけで、自分から悟空の口の中は入ってこようとはしない。

「ん……」

「はぁん……」

 玄奘の甘やかな吐息に悟空はにんまりした。相変わらずキスで喘ぐのは玄奘の方ではないか。

 なんだなんだ、玄奘はいろいろ言ってはいたものの、結局は玄奘に挿入することで落ち着くのかもしれない。

 よし、そうだ、それがふさわしい二人の関係なのだろう。それならそれでいくらでもやりようがある。

 悟空が玄奘の舌を吸ってやりながら、唇で挟み前後に動くようにする。玄奘は唇の間から舌を出しながらうっとりとした顔で目を瞑っている。

「ぁん……ん、はぁ……」

 悟空が顔の角度を変えてもう一度口づけようとしたときだった。玄奘が目を開いた。

「悟空は本当にキスが上手いね……すっごく気持ちいい」

 じっと見つめられながら改めて褒められると、背中がむずがゆくなる。悟空は目をしばたたかせながら言った。

「そ、そうですか、ね……」

「うん。上手いよ。ねぇ、私はあまりキスが上手くないから教えてほしいのだが、悟空は……どういうキスをされると……勃つの?」

 玄奘が上目遣いで尋ねてくる。

 どういうキスで、た、……勃つか、だと?

 悟空は混乱している。玄奘がここまであからさまな物言いをするとは予想外である。

「えっ……と」

「うん、教えて」

 玄奘は首を斜めに傾けながら待っている。その仕草可愛いし、首から肩にかけてのラインが色っぽすぎるんですが。

「玄奘から、キスしてくれるんなら、あの……それだけで興奮しますけど」

「そうなのか?」と、玄奘は頷いたあと、首を伸ばして軽いキスをした。すぐに俯いて悟空の下半身を確認する。

「半勃ちのまま、変わらないようだけど」

「あ、いやその……」

「もっと教えて。ねぇ悟空はどんなキスをされたい?」

「え、……っと」

 玄奘はにこにこしながら待っている。無邪気な玄奘の質問をこれ以上ごまかすわけにもいかない。悟空は観念して説明することにした。玄奘がリードするようになってから、えっちというよりもほのぼのな雰囲気にしかなっていない気がするが、この先本当におれが挿れられることなんてあるんだろうか?

「お、おれは、あの時間をかけてするキスが、……好きです。いや、あの、軽いキスも好きですけど。玄奘とのキスならなんでも好きなんですけど。でも長いキスをしているとお互いの息を吸ってるせいか、玄奘の口の中が甘いのがわかって、その……すごく良い匂いがして、くらくらしてくるんです。玄奘の舌を吸うのも好きだし、玄奘が小さい口を思いきりすぼめておれのを吸ってくれるのも、気持ちいいというか、可愛らしいというか、ドキドキします」

「ふぅん……やってみるね?」

 玄奘が唇を合わせてくる。悟空がわざと待機していると、玄奘の舌がするりと口内に入ってきた。悟空の舌が誘わずとも玄奘から来てくれるのは珍しい。それだけで心臓の鼓動が速くなる。悟空の少し鋭い犬歯の先まで丁寧に舌で辿り、歯の裏にも侵入してくる。舐めやすい体勢にしようと、玄奘が悟空の頬を支えて、やや仰向けてくる。

「ぁっ……」

 悟空は玄奘の手の柔らかさにときめき、同時に頭をしっかりと支えてくれるその力強さにもはっとする。ダンス練習を経て少し筋肉がついたのかもしれない。普段はほわほわしているが、玄奘だってれっきとした成人男性なのだ。

「ん……っん、ちゅ……」

 玄奘は音を立てながら悟空の舌を吸いだした。気持ちいい。脳天にしびれるような快感がある。

 悟空も舌を吸い返そうと思って唇に力を入れた瞬間、玄奘は唇を離した。

「えっ……」

 虚をつかれた様子の悟空の顔を見て、玄奘は「可愛いな」とその頬を撫でた。整った顔に間近でそんな台詞を吐かれては心臓に毒である。

 ……玄奘が俄然カッコよく見えてきたのだがどうしよう。

 玄奘は風雅な笑みを浮かべたまま言う。思わずかぁっと頬が熱くなる。こんな綺麗な顔の男に迫られたことなど初めてだからだ、きっとそうに違いない。

「今は私が悟空を気持ちよくさせる番だよ」

「え、……あ、えと……はい……」

 消え入りそうな声で返事をしながら悟空は必死で考えを巡らせる。

 これは誰だ誰だ、誰なんだ。

 いや、玄奘なのはわかっている。しかし、こんなにいちゃついているときに余裕のある玄奘など悟空は知らない。一体どの時点で進化したんですか、玄奘2.0に。

 目の前にいるのは確かに愛おしい玄奘なのに、悟空は別人と抱き合っているような気さえしてくる。心臓の鼓動が爆音を立てていることが、玄奘にもばれていそうで恥ずかしい。

 悟空の顎を支えて適宜角度を変えながら玄奘がしげしげと眺めてくる。

「あ、あの……」

「何だ?」

 その声は聞き慣れた玄奘のもので、こちらを見てくるのも見慣れた玄奘の顔なのに、どうしてだろう。悟空は胸がきゅううんと音を立てて、言葉が出なくなる。

「な、何でもないです……」

 玄奘は笑った。その整った鼻から唇、そして顎にかけてのラインに悟空は目を奪われる。整った顔がこんなに間近で笑うだけで言うこと聞いてしまうんですけど、その顔ズルくないですか。  

「耳を舐められるの、悟空は好きか?」

 今まで舐められたことがないとは言えない。しかし、そのような国色天香の顔に尋ねられれば何もわからなくなってしまう。

「い……や、……わかんないです」

「では、舐めてみよう」

「ぁっ、ちょっと、その……あ、やめてくださ……」

 玄奘の唇が悟空の耳の端に優しくふれた。天使が舞い降りたような音がする。耳の上の方から順に玄奘はその麗しい唇を押し当てていく。悟空は神聖なる証を耳に刻印されていく気分である。顔は明らかにこの世のものであるのか疑いたくなるほどカッコ良いのだが、正直な話、玄奘が行う性的な刺激は技巧がやや拙いのだ。

「ふふ、……気持ちいい?」

 気持ちいいか悪いかと言われればもちろん良いのだが、性的快感というよりも荘厳なる快感という方が適当な気もする。その証拠に悟空の心臓はどっくんどっくんと早鐘を打っているものの、勃起はしていない。

「えっ……と……、あの、……わか、いえ……はい」

 わからない、と答えようとしたのに、「気持ち良くないわけがないだろう」と自信満々の玄奘の顔を見ていたらつい肯定してしまった。自分にも悟空を気持ちよくさせられるのだと、気を良くした玄奘は悟空の胸にもふれてきた。

「よし、ここも舐めてみようね」

「あ……いや、あの、……ちょっと待ってください」

「待たないよ」

 胸の突起を玄奘が舌で舐めてきた。ぺろぺろ、というより、ちろちろ、といった効果音が似合うくらいのそれは、猫に舐められているような無邪気さで、くすぐったさしか感じない。

「ぁっ、……くすぐったいですって」

 それでも悟空は最愛の恋人である玄奘の頭を振り払うことはできない。行き場のない両手を宙に浮かせたまま、悟空は身を軽くよじっている。

「ふふ、ね……ほら手を回して」

 玄奘は悟空の手を自分の両肩に回させ、抱きつかせるようにした。悟空は仕方ないな、という顔で玄奘の好きにさせておくことにする。

 ここは年上の包容力を見せる場面だろう。年下の恋人が奮起しているのだからその頑張りを認めて受け入れるべきなのだ。

 玄奘は右手で悟空の胸にさわさわとふれながらへとキスを続ける。腹の古傷を舌でなぞるとくすぐったさが優って、悟空は思わず含み笑いをもらした。

「笑うと腹筋の線が出るんだね」

 玄奘は感心したように言いながら筋肉のラインを人差し指でなぞった。その刺激も悟空にとってはほの甘くもどかしい。

 玄奘は悟空の身体を反転させ、腰の方から肩の方へと少しずつ位置を変えながらキスの刻印を落としていく。少しは感じたような声を出してやった方が良いだろうか、と悟空が気を回したときだった。玄奘の唇が悟空のうなじにふれた瞬間、びりびりとした突き抜けるような気持ち良さが脳天をぶち抜いた。

 そう、間違いなくこれは快感だった。

「ひゃあ……っつ」

 思わず出た高い声に自分でも驚いた悟空はうなじを抑えて玄奘から少し距離を取る。恥ずかしさで急激に顔が熱くなる。初めての反応を見せた悟空に玄奘も目を丸くしながらその名を呼んだ。

「悟空……」

 額を流れる汗を悟空はあわてて拭きながら弁解する。恥ずかしすぎて死にそうだ。
「いや、あの、今のは……」

「悟空はうなじを舐められるのが好きなんだね」

 玄奘は満面の笑みで何度も頷いている。
「ち、違いま……」

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