双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃

文字の大きさ
59 / 62

コーヒー 忘れられない 無表情

しおりを挟む

軽く触れた唇が、直ぐに離れる。
お互いの吐息が交差し、甘く潤んだ瞳に見つめられた後……角度を変え、再び唇が重ねられる。

今度は触れるだけじゃなく。
差し込まれた熱い舌が、僕の舌を見つけて優しく絡まり──

僕を抱き止める、大きな手。
優しい温もり。
冷たい空気に曝される中、誠に触れられる所が……火傷しそうに、熱い。

「……」

ゆっくりと離れていく、熱い唇。
その隙間を、潮風が吹き抜けていく。
離れたくなくて。誠のコートにそっと触れ、背伸びをして追い掛ける。
それに気付いた誠が驚き、照れたように唇を寄せ、僕を受け止めてくれた──



ザザザ…、ザザザ…、



この先──誠さんとの仲を、反対される日が来るかもしれない。
もしかしたら、引き剥がされるかもしれない。

同性同士の繫がりは、繁殖という概念で考えれば異質なもので。理解されにくいものだから。


「誠さん……」
「はい」
「……もし、僕との仲を反対されて、別れる事になったとしたら……
僕を嫌いになったと言って、突き放して下さい」

そう言って誠を見上げると、誠は寂しそうに微笑み返す。

「……僕の両親は、僕がゲイである事を理解し、受け止めてくれています。
勿論、双葉さんのご家族にも──例え時間が掛かったとしても、僕という人間を知って貰って……双葉さんとの仲を受け入れて頂けるよう、努力します」
「……」
「大丈夫。……双葉を、これ以上不安にさせたりしません」

数回瞬きをした後、少しだけ呼吸を乱した誠が、口の両端を持ち上げ、真っ直ぐな瞳を向ける。

「──好きです」
「……」
「ずっと、僕の傍にいて下さい」

誠の告白に、じん…と熱いものが込み上げる。
上手く声が出なくて。目を伏せ、こくんと小さく頷く。

と、伸ばされた誠の両腕に包み込まれ、僕の背中と頭の後ろに大きな手が当てられて。……優しく、柔らかく、誠の中に収められる。


……トクン、トクン、トクン、トクン、

心地良い胸の鼓動。温もり。
誠の全てを感じ、次第に心が満たされていく……


最初はただ、見ているだけで良かった。
いつもの席で、いつものコーヒーを飲む後ろ姿を、カウンター越しに眺めるだけで、その日一日が幸せな気分になれて。
……それ以上は、望んでなかった。

でも、一緒に映画を観る事になってから……誠さんとの距離が近くなって。
その度に、惹かれていって……

いつも流されてばかりで、受け身だった僕が……気付けば一歩、また一歩と自分の力で前に踏み出せてた。
ここまで頑張れたのは──誠さんが、僕の心の中にいて、支えてくれたから……

そっと、誠の背中に腕を回す。


……ありがとう、誠さん。

あの日、僕の涙を拭いてくれて。一緒に映画を観に行ってくれて。
僕の事、可愛いって言ってくれて。気持ちを伝えてくれて──


僕も、好きです。
誠さんが、好きです……

僕を離さないで……ずっと傍に置いて下さい。


──トントンッ

僕を包む腕が緩み、手のひらで僕の背中をノックされる。
それに反応して、顔を上げれば──

「……行きましょうか」

僕を甘やかす、大きくて優しい瞳。
穏やかな笑顔を真っ直ぐに向けられ、何だか急に恥ずかしくなって、俯く。

「………はい」


指を絡め、手を繋ぐ。
誠に寄り添って歩き出せば、風紋の残る砂浜に、二人の足跡が刻まれた。



《end》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君に二度、恋をした。

春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。 あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。 ――もう二度と会うこともないと思っていたのに。 大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。 変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。 「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」 初恋、すれ違い、再会、そして執着。 “好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか―― すれ違い×再会×俺様攻め 十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

処理中です...