双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃

文字の大きさ
60 / 62
番外編

大輝が侯爵と呼ばれる理由

しおりを挟む
お題:クレマチス 侯爵 眠る

**


「小西女史! 侯爵の愛人が、逃げました!!」

勢いよく開いたドアの向こうにいたのは、汗だくの文化系男子。その彼が、堰を切ったように大声を上げる。
その瞬間、ザワッとする室内。


秋が深まる中、毎年恒例となった文化祭。
悠のクラスの出し物は、演劇。内容は、侯爵が愛人と心中するという悲劇もの。
しかし、小西と呼ばれた小説家志望の彼女が書いた台本が、発表当日の今日になってシーン変更となり、その内容を知った愛人役が逃走したのだ。


「ねー! この中に、愛人の台詞を覚えてる奴いる?!」

主役格である愛人がいなければ、当然幕は上げられない。
体育館裏で裏方がバタバタと動いている中、小西の質問に侯爵役の大輝が呑気に口を開く。

「……鳴川なら、俺の台詞相手してくれてたから、覚えてんじゃない?」
「──はぁ?!」

近くで機材を運んでいた悠が、眉間に皺を寄せて大輝を睨む。

「……ま、まぁ。台詞は変わらないし、鳴川チビだし。遠目なら、男も女も解らないか」

小西女史が腕組みをして唸る。

「解るわ! あほっ!」

「な~る~か~わ~」
「腹くくれやー」

衣装係の女子数人がぬっと現れ、じたばたする悠を羽交い締めにし、ずるずると引き摺りながら更衣室へと消えていく。
それを見送る大輝が、にまにまと満面な笑みを浮かべながら片手を振った。


そして開演──
ひらひらドレスにウィッグ、化粧バッチリの悠が舞台に上がると、観覧席がざわついた。

歩き方。体つき。声。
どこをどう切り取っても男にしか見えない愛人に、GOを出した小西が腕を組んたまま眉間に皺を寄せる。
しかし劇が進むにつれ、真面目に取り組む二人の演技に引き込まれ、魅入る観客達。会場内に広がっていたざわつきは、いつの間にか消えていた。

そして、劇の終盤。心中するシーンに差し掛かる。

「マリエッタ。……やはり私が愛しているのは、其方だけだ。
其方の全てを、この私に捧げてくれないか」
「──ああ、侯爵様」

悠が女性らしく胸の前で両手を合わせれば、大輝がガバッと情熱的に抱きついた。

以前の台本では、二人が小瓶に入った毒を飲むシーンであった。
……が、新しい台本を見ていない悠は、一瞬、何が起こったのか理解ができず。

「……!!?」

熱情を帯びた大輝の瞳が柔く閉じられ、悠の唇に迫る。

"……はぁ? 何すんだ大輝!"
"何って、接吻"

驚きと怒りに震える悠に、大輝がいけしゃあしゃあと答える。
力尽くで押し退けようとする悠。それを許すまいと、涼しい顔をした大輝が強引に抱き締め、大輝の唇に、ぶちゅっと唇を押し当てた。

「おー! いいぞいいぞ!」
「もっとやれ!」
「何だこれ、くっそ面白ぇじゃん!」

観客席にいた同級生が、わっと囃し立てる。
その瞬間、それは悲劇から喜劇に変わり……ステージの袖で見ていた小西女史が、ラブシーンなんて追加するんじゃなかったと頭を抱えた。


そのまま二人が横たわり、情熱的にキスを重ねながら抱き締め合う。
すると、舞台が暗転。
クレマチスの芽が伸び、葉を広げ、花開いていく映像が、背後の大スクリーンに映し出された。

"くっそ大輝、覚えてろよ"
"はいはい。性交しながらの心中だから、このまま静かに眠ろうか"
揶揄する大輝が、悠の頭をよしよしと撫でる。



こうして無事、文化祭は終わったものの──

「おい、エロ侯爵!」
「何だ? 愛人」

何かある度に、二人はお互いをそう呼び合うようになっていた。


《終わり》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君に二度、恋をした。

春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。 あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。 ――もう二度と会うこともないと思っていたのに。 大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。 変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。 「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」 初恋、すれ違い、再会、そして執着。 “好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか―― すれ違い×再会×俺様攻め 十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

処理中です...