鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
154 / 211

全権委任

しおりを挟む
「七聖鍵のガスタルデッロだ。公爵閣下に火急の儀あれば、無礼を承知で先触れなく参った。お目通り願う」
 
 堂々たる振舞い。
 
 もう日も落ちて随分と経つ。尋常であれば斯様な折に城を訪ねる者などありはしない。領主とよほど親密な間柄であり、事前に話を通してあれば別であるが、ましてや平民の冒険者ぼっけもん風情が、それも先触れ無しなど、その場で切り捨てられても文句の言えぬ所業である。
 
 ここ、領主シーマン家の居城であるカルゴシア城は両端に大きくせり出した城郭が鶴の開いた翼の様に正門を取り囲んでいることから鶴丸城とも呼ばれる。
 
 城の中は慌ただしい様子。現在城下に謎の化け物が現れて市民を襲っているという情報が入ったため、騎士団が急遽出撃の準備をしているのである。
 
 その騒ぎの中、冒険者のトップであるSランクパーティー、七聖鍵のリーダーであるガスタルデッロが訪ねてきたのだ。まず十中八九此れに関するものであるとみてよいであろう。
 
 その上七聖鍵と領主のシーマン家は不老不死の秘術をめぐって懇意にしていることはもはや誰もが知っている公然の秘密である。
 
 門番はすぐにガスタルデッロに待ってもらうように告げ、この報を上にあげた。
 
「ふむ、中々面白い状態になってきたな。デュラエスの思い描いていた絵図とは全く違うものになってしまったが、やはり臨機応変に事を進めるのは胸が高鳴る。嫌いではないぞ」
 
 ガスタルデッロは遠く、土煙を上げて荒れ狂うモンスターに荒らされる街を眺めながら腕組みをして嗤う。
 
 ティアグラが破れ、そしてイチェマルクの存在が確認できなくなり、消失した可能性が高いという情報を受けてもガスタルデッロとデュラエスは動揺することはなかった。
 
 ティアグラが自分達の指示を聞かずに好き勝手に動いているのはいつもの事であったし、まさか裏切るとは思っていなかったものの、しかしイチェマルクがそのティアグラを憎々しく思っていたことには気づいていた。よもや存在が消失するとまでは思っていなかったが。
 
 しかし既に七聖鍵は崩壊の危機、ゾラとティアグラ、それにイチェマルクが死亡し、その内ゾラとイチェマルクは復活不可能、ティアグラの魔石の在処は不明、さらにクラリスも行方不明。
 
 残るは彼とデュラエス、そして協力者ではあっても目的を同じくしていないアルテグラの三人だけである。
 
 それでもガスタルデッロとデュラエスはこの状況を確認して、顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
 
 こんなに楽しいのは久しぶりだ。
 
 しかも機を同じくして町中に突然制御不能の化け物が現れた。ムカフ島からではない。と、なれば事の顛末はなんとなく想像はつく。どうせまたあのドジなリッチが何かやらかしたのだろう。
 
 デュラエスは不慮の事態に対処するため町に残り、そしてガスタルデッロは城へ。少し計画は早まってしまったが、もうこの際最終局面の一手を打つことにしたのだ。
 
「ガスタルデッロ様」
 
 先ほど応対した門番が声をかける。
 
「すぐにお会いになられるそうです。こちらへ。それと……」
 
 門番はガスタルデッロの下げている巨大な両手剣に視線をやる。
 
「失礼とは存じますが、お腰の物を」
 
「うむ」
 
 ガスタルデッロは嫌な顔一つせずに腰に下げていた鞘の金具をベルトから外し、門番に渡す。受け取った門番はあまりの重量によろよろと後ろに二歩、三歩と下がる。
 
「そうだ」
 
 城内に入ろうとするガスタルデッロは門番に一つ言葉を投げかける。
 
「怪異の鎮圧に騎士団が出るなら四半刻ほど待ってくれ。これからその話を閣下とするのでな」
 
 今現在の彼にそんな権限などないのだが、しかし彼の言葉には「力」がある。自信に満ちた態度と、彼の経歴。それが人を動かす。
 
 肩で風を切り、巨体を上下に揺さぶりながら彼は進む。悠々と進むその姿にはしかしそれでも体幹のブレは一切ない。自信と、技と、そして力に満ち溢れた姿である。
 
 まかり通る。
 
 その言葉がしっくりとくる。身分の違いも常ならぬ振舞いも、全てその実力で以てしてまかり通っているのだ。
 
 城の広間に通されたガスタルデッロは玉座に座るシーマン家当主に対峙する。たかが地方領主の分際で謁見の間と玉座を拵えている厚かましさにガスタルデッロは思わず苦笑してしまう。
 
 当のシーマンはそれを親愛の笑みと受け取ったようではあるが。
 
「何事ぞ」
 
「此度の城下における怪異の起こしたる動乱、閣下に申し上げたき儀が」
 
 そう答えるガスタルデッロは跪くことも敬礼をすることもなく真っ直ぐに領主を見据える。領主とはいえガスタルデッロとの身分の差は歴然。その無礼な態度に一瞬ぴくりと眉根を動かしながらも、しかし当主アルキナリア・シーマンは努めて冷静に振舞う。
 
 アルキナリアの外見はまるで二十歳前の少年のようである。実際には齢六十を超えた老齢のはずなのであるが。
 
 しかしもはやそのことに異を唱える者などこの家中には居はしない。もちろん「転生法」の事を知っているからであり、そして無礼な態度をとり続けるガスタルデッロに対してこれをいさめることをアルキナリアがしないのもここに理由がある。
 
 永遠の命を手に入れ、そして実質上シーマン家が七聖鍵の軍門に下ったことを誰もが知っているのだ。
 
「申してみよ」
 
 しかしあくまでアルキナリアは領主であり公爵、無冠の一市民に対してへりくだったような態度はとらない。たとえそれが表面上だけの物であってもだ。
 
「すでに知っておられましょうが、今この時、城下の町では人ならざる魔の物が暴れ、数多くの市民が犠牲となっており、我ら冒険者ぼっけもんが事に当たっております」
 
「知っておる。なればこそ、我ら家中の者もこれを討ち果たすべく、いそぎ支度をしておる」
 
「動きが遅い。話にならぬ」
 
 謁見の間がしん、と静まり返る。
 
 何も難しい言葉を使ったわけではない。この上なく平易な言葉であったが。しかしその場にいる誰もがガスタルデッロが何を言い出したのかが理解ができなかった。
 
 家老の重臣たちも、はち切れんばかりの筋肉をフルプレートメイルに包んだむつくけき近衛の騎士達も、そして当主のアルキナリアもだ。
 
 二の句を告げられないアルキナリアを差し置いてガスタルデッロは言葉を続ける。
 
「先のスタンピードに於いても騎士団の投入が遅れて民草に多くの犠牲を出したというのにこの体たらく。この期に及んでも市中に兵を置かず対応に遅れる始末。もはや閣下にはこのカルゴシアを率いる資格なしと存じます」
 
「こ……この無礼……」
 
 アルキナリアの隣に控えていた壮年の男性、家老のタルミーが怒りのあまり震えながら「無礼者」と声を上げようとし、そして当主の顔色を窺うように声を止めた。
 
 はて、ここでガスタルデッロを叱責してよいものか。当主はまだその色を見せてはおらぬ。尋常では即座に手打ちにするのが最善ではあるものの、しかし相手は不老不死のカギを握る七聖鍵。迷ったのだ。
 
「つきましては、騎士団指揮の全権をこの私に委任して頂きたく」
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...