【完結】ブレイクスルートゥルー

笹川リュウ

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 土岐家の自宅は、すべて窓が割れた状態で、警察が二十四時間警備している。とても人が住める状態ではない。
 新多の家に泊った翌日、着替えなど最低限の荷物を取りに戻った際に、竜巻が発生した原因なども調べるため、修復工事まで少々時間がかかることも聞かされた。
 一人だけ、警察官らしくない大きな男が自宅の庭をうろついていたので、透琉は声をかける。
「失礼します。僕はこの家の息子ですが、あなたは……」
 サングラスに青いポロシャツの四十代くらいの男は、透琉をじっと見ると、白い歯を見せてにかっと笑った。
「ああ、失礼。窓が割れた原因を調べている者です。決して怪しいもんじゃありませんよ」
「そうでしたか、こちらこそ失礼しました。ぜひ、よろしくお願いいたします」
「もちろん。お任せください。では、お連れの彼にもよろしくお伝えくださいねぇ」
 そして男はひらひらと手を振って自宅の裏庭へとまわっていった。

「とーおーるー。誰と話してんのぉー?」
 玄関で待っている新多の声がする。
「今行く!」
 透琉は、自室にあったリュックと帆布のトートバッグを持って、玄関へと向かう。
「お待たせ。窓の外に竜巻の調査をしてる方がいて」
「……もしかして青いポロシャツにビーサンのチョビ髭オヤジ?」
「うーん、ビーチサンダルだったかな? でもその人で間違いないと思う。なんだか少し新多君に似てたかも、ふふっ」
「ま、マジで⁉」
 新多は、心底嫌だと眉間に皺を寄せるが、少し浮足立っているような、複雑そうな表情を浮かべる。
「顔がというか、雰囲気かな? あ、喋り方かも!」
「あー……そっか。んじゃあ、帰ろ」
「うん、お世話になります」
 祖父母宅や親戚は、あまり良い思い出がないので頼りたくない。
 将司からホテル暮らしをするならば金は出すと連絡が来たが、友人の家で世話になるため心配は不要です、と返す。もちろん息子の心配などしていないだろうが、それ以外の定型文など知らない。
 返信には、必要な金はカードを使え、寿美子はパニックで発作を起こしたため、大学病院に入院している、と必要最低限の情報が書かれていた。
 見舞いや退院時期などには触れられていなかったため、いずれにせよ、将司か警察から連絡が来るのだろう。透琉は、あえて深く考えるのをやめた。
 今、再会しても寿美子にも自分にも良いとは思えない。
 時間を置いて、また話し合えるくらいパワーを貯める必要がある。
 新多はそんな透琉の鬱々とした気持ちを察したのか、透琉の肩を抱くと、心配するなと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。


 付き合い始めたばかりで、半同棲のような生活をスタートさせ透琉と新多。喧嘩もせず、毎日のびのびと楽しく暮らしていた。
 仕事をしている新多の邪魔にならないように、透琉は大学の図書室に通い、料理本を読み漁っていた。
 二人分の食事を作るためだ。
 家族がバラバラであることを再認識させられ、窓が割れるという大事故まで起こった。
 心を無にして、心身のバランスを整えるためには、料理は最適であった。
 それに世話になるからには、食事くらい提供しないと気が済まない。
 皿やランチョンマットまでレシピ本の通りに準備したことがツボにはまったらしく、新多は毎食写真を撮っていた。

 小さなローテーブルに並んで座る二人は、夕食を終えて料理対決の特番を見ていた。
「遊び心が足らないかなぁ……」
 料理上手な芸能人や一流シェフたちの華やかな料理を見た透琉は、ボソッと呟く。
「なんの?」
「僕の作るご飯は、基本のおかずがメインだから、つまらないかなと思って」
「めちゃくちゃ美味いよ? 今まで包丁も握ったことなかったやつが、ここまで作れるようになったの、すげぇもん。それに皿とかランチョンマットとかまでレシピの写真と同じにするの、もはや達人級の遊びだろ。どこで見つけて来たんだよ、でっけぇ葉っぱ描いてあるランチョンマットとか」
「百円ショップだよ。あそこは何でもあるんだ」
 初めて訪れた百円ショップの品数の豊富さに圧倒され、今では常連になってしまった。
「すっかり所帯じみて……。透琉、毎日ご飯作ってくれてありがとな。しんどい時は無理せずに言えよ? 透琉が食べてみたいって言ってた中華粥の出前とってやるから」
「ありがとう。出前もあるんだね」
「あるある。この出前専用のアプリで――」
 新多の手元を覗き込むと、こつんとおでこがぶつかった。
 痛みはないが、お互い驚いて額に手を当てる。
 視線が合うと、新多は吹き出して笑い転げた。
「やっば! エグい音したけど⁉ 漫画かよ!」
「うわぁ~びっくりした。新多君、おでこ大丈夫?」
「へーきへーき。透琉は?」
「痛くないよ」
「あー、でもちょっと赤くなってるわ。ちゃんと見せてみ?」
「はい」
 前髪を上げて顔を近づけると、ちゅっと額に口づけられ、ぶつけたところがどこか分からなくなるほど透琉は赤面した。それ以上のこともしているのに、猛烈に恥ずかしい。
 新多は時折キザなことをするのだ。
 同じ男として悔しいが、ついときめいてしまう。
「それこそ漫画みたいなことを……」
「自分でやっといて照れたわ……」
 口元を抑えて同じく赤面する新多。
 目尻をとろんと溶かした透琉は、新多に「もう一回」と恒例となったおねだりをしてはにかんだ。
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