【完結】ブレイクスルートゥルー

笹川リュウ

文字の大きさ
11 / 17

11

しおりを挟む
 九月に突入し、大学の夏休みも残りわずかとなった。
 将司や警察からの連絡はまだないが、この夢のような生活に終わりが刻一刻と近づいているという事実からは逃れられない。
 夢の終末から逃げるために、新多と透琉は、隣県まで足を運んで一泊二日の温泉旅行をしてみたり、湾岸沿いを新多の運転でドライブしてみたり。外でアクティブに活動した後は、一日中ベッドの上で過ごして怠惰を極める。そんな今しかできない時間の使い方を、これでもかというほど堪能していた。

 遠出ばかりしていたので、今回は約束していた近場の美術館を訪れた。
 都心にあるそこは、建物の周りに小川が流れていたり噴水があったりと、清涼感のある夏にぴったりな場所だった。
 透琉は、帆布トートに紺色のポロシャツと白いパンツ。高校の夏服とほぼ同じコーディネートだと新多に笑われたが、楽なので気に入っている。
 一方、新多は落ち着いたターコイズブルーにダメージ加工が施されたとろみのある柄シャツと黒いスキニー。髪はハーフアップにして結んでいる。美術館だからと高校時代に履いていたローファーを合わせたようだが、それがかえってホストのような雰囲気を際立たせていた
 友人、ましてや恋人とは思えないほど、ちぐはぐなコンビの完成である。
 襟付きのシャツの方が良いとアドバイスしたのは自分であったが、下手をしたら展示物より目立っているような――。
 顔が良すぎるせいか? と透琉は首を傾げた。
 これは恋人贔屓ではなく、事実である。
「さすが猛暑日。想像以上に閑散としてるわ。でも冷房ガンガンで最高」
「そうだね!」
 他の来場者も暑さのためか、透琉たちとさほど変わらぬ格好をしていて一安心。やはり注目を集めていたのは、服装ではなく新多自身だったようだ。

 美術館の敷地内にある一軒家のような外観のレストランは、予約をせずとも本格的なフレンチを楽しめる人気店で、焼きたてパンはバイキング形式になっていた。
 透琉は、相変わらず良く食べていたし、パン好きの新多も一人で七個もパンを食べた。
 大変満足したと膨れた腹を撫でる。
「レストランにも絵が飾ってあるとは、さすが美術館。入口の右側にいた猫の絵可愛かったな」
「猫? あれライオンじゃないの?」
「ありゃ猫だろ。ああ~なるほど。透琉画伯はライオンのような威厳や迫力を感じたってわけですねぇ」
「もお~! また意地悪言う! キュピズム的な絵画がある度に僕の方じっと見てるの、わかってるからね⁉」
「わっはは、うっかり」
「うっかりじゃないよ、まったく。悪いと思ってるならちゃんと最後まで付き合ってよね」
「わかってるって。これから鏡見るんだから、そんな頬っぺた膨らませてないで、にっこりにっこり~」
「……誰のせいで」
 一日で回るには広大な敷地だが、透琉は最後にどうしても見たい展示があった。
 ミラードームという、部屋が全面鏡張りになった、客を入れて成り立つ演出を含めたアートだ。
 透琉がここに行きたいと告げた時、新多はなぜか微妙そうな顔をしていたが、透琉の熱心な説得に負けて、最終的には頷いてくれた。

 足を踏み入れたそこは、二十畳ほどの空間がすべて鏡になっている。
 ミラードームは美術館の敷地の一角に建てられているが、他の施設とは少し離れている。炎天下の中わざわざ屋外に出る物好きは中々いないようで、貸し切りだった。
 カツン――カツン――と自分達の足音が響くミラードームに、おっかなびっくりな新多だったが、凄いとはしゃぐ透琉を見て安心したらしい。
 四方八方に映る自分たちが面白く、互いの写真を撮り合っていると、新多がピタッと動きを止めた。
「やべぇ、チョビひ――……上司から電話来た」
「いいよ。僕ここで待ってるね」
 部屋を出る新多を見送ると、透琉は鏡に映った自分と向き合う。
 あと少しで元の生活に戻る。
 新多と過ごした日々は、楽しくて、嬉しくて、この時間が一生続けばいいのにと本気で思った。
 ふとした瞬間に、寿美子にはこういった時間がなかったのだろうかと想像するのだ。
 見合い結婚した夫からは無視同然の扱いを受け、従順だった息子は反抗期。心の拠り所がないのかもしれない。
 祖父は、実の娘どころか孫でさえも使える道具として見ている節がある。今思えば、透琉の見合いも祖父母の指示だったのだろう。
 だからといって、気持ちを蔑ろにされ続けて来たことを簡単には許せないし、和解したいとは既に思えない段階まで来てしまっている。
 新多という心の支えを得た今だからこそ、冷静に現実と向き合うことができそうなのだ。
 今の寿美子に必要なのは、歪な形だけの家族ではなく、第三者を介した治療だ。
 将司も寿美子の言動の不可解さにはとっくに気付いているはず。入院が長引いているのも、おそらく外傷的な問題だけではない。精神的な治療が継続的に必要になったとしても、今まで通り金銭的な面でのサポートくらいはしてくれるはずだ。
「透琉!」
 これから先のことを考えているところに、新多が血相を変えて戻って来た。そして転びそうな勢いで透琉の手を引く。
「ど、どうしたの⁉」
「えっ、ああ、仕事が……そう、仕事! 急なやつが入ったから、悪いけど、今すぐここを離れ――」
 一つしかない出入り口に人影が見える。
 そこにいたのは、病院を抜け出して来た入院着姿の寿美子だった。

  

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

鏡開きと恋のぜんざい~無愛想な和菓子職人はスランプ作家を甘く溶かす~

水凪しおん
BL
「あなたの作るお菓子が、僕を救ってくれたんです」 仕事の重圧に潰れ、言葉を紡げなくなったライターの一ノ瀬湊。 逃げるように訪れた冬の古都で、彼は一軒の古びた和菓子屋『月光堂』と出会う。 そこで黙々と菓子を作るのは、鋭い眼光を持つ無愛想な職人・高遠蓮。 第一印象は最悪。けれど、彼が差し出した不器用なほど優しい和菓子の味に、湊の凍りついた心は次第に解かされていく。 経営難に苦しむ店を救うため、湊は自身のペンを武器に宣伝部長に立候補するが――? 「俺は、あなたに食べてほしかった」 閉ざされた蔵の鍵、硬い鏡餅、そして頑なな職人の心。 二人なら、どんな硬い殻だって割ることができる。 冬の京都を彷彿とさせる古都で紡がれる、甘くて温かい救済と再生のBLストーリー。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...