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第四幕 逃避行
不穏な空気
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俺たちはそれぞれゲスト用の個室をあてがわれた。
最初の部屋割りでは、俺とハルさんは隣同士で、ニコだけが少し離れた棟になっていた。そっちが女性用の部屋ということなんだろう。
しかしニコはそれをすごく嫌がった。確かに、鈍感な俺ですら何となく不穏な空気を感じているぐらいだ。そりゃ女の子が自分だけ離れてたら怖いだろう。
そこでガイさんに相談して、3つつながった部屋にしてもらった。一応それぞれ個室になってるが、ドア一つで部屋同士がつながってるので、いくらでも行き来ができる。
しかもニコを真ん中の部屋にして、俺とハルさんがそれをはさむような形にした。これでようやっとニコもホッとしたようだ。
しかし夕食のために3人で食堂に行くと、また微妙な雰囲気を味わうことになった。
ちょうど食事時で若い男たちがいっぱいだったが、俺たちが座った一角には誰も寄りつかず、みな遠巻きにしてこちらを見ながらひそひそ話をしている。もちろんその視線の中心はニコだ。ひそひそ話しているのもニコへの賞賛か、黒髪への悪口か、いずれにせよあまり感じの良いものではない。
「何だかまるで美少女アイドルとブサメンのカップルを見るような目ですね」
俺が言うと、
「意味が分からないけど、まあ、あんな目つきで見られるとゴハンが美味しくないわね」
ハルさんも同意する。それでも俺とハルさんは普通に食べたが、ニコは半分ぐらいしか食べられなかった。
お風呂はさらにひどかった。
男湯は完全露天風呂の上、囲いも何もなく、周囲から丸見えのワイルドなものだ。木製のバスタブがあるが壊れていて、シャワーしか機能していない。それでもまあ、シャワーが使えたら御の字だからこっちは良しとしよう。
問題は女湯だ。風呂に行ったニコが泣きそうな顔で戻ってきて、俺に一緒に来てくれと言う。行ってみていろいろ驚いた。
女湯はさすがに周囲を板で囲ってあるが、板には隙間や節穴があっていくらでも中を覗けてしまう。しかも何故か女湯の周りには大勢の男がたむろっている。別に何をするでもなくウロウロしているだけで、目が合うと、パッと目を逸らし、急にしゃがみ込んで地面に絵を描いたり、空を見て星を数え出したり、明らかに怪しい。
これは……こんな状況でニコに一人で風呂に入らせるわけにいかないな。周りからはのぞき放題だし、興奮して正気を失った狼が乱入しないとも限らない。
ニコも怖かったのだろう。
「ソウタ、お願い、一緒に入って。ソウタ以外の人には一切身体を見せたくないから」
そう言われるとしょうがない。俺が以前、彼女に説教したことだからな。
他に誰も女性が入っていないのを確認して俺も女湯に入る。大きいバスタオルを両手で広げて持って、腕とタオルで輪を作り、両腕からもバスタオルを垂らしてシャワーカーテンにする。即席の極狭シャワーユニットのできあがりだ。首から上と足元は隠せないが、それぐらいはいいだろう。
「わあっ! これなら安心だね」
ニコは嬉しそうに俺の腕の中に飛び込んできて、躊躇なく服を脱ぎ始めた。
う、こ、これは……
魔笛亭のお風呂どころの騒ぎではない。俺の腕の中で彼女が服を脱いでいる。狭いので彼女が動く度にその素肌が俺の腕や身体にぐいぐい押しつけられる。必死で顔を背けるがどうしたって視界にいろいろ入ってきてしまう。
また鼻血を噴き出してしまうかと心配だったが、今こうやってる俺たちの姿を外から男たちにのぞかれてるんだということを思い出して、何とか冷静さを保つことができた。
裸の彼女を、両腕で囲い込んだままバスタブまで連れて行き、控えめな湯量でシャワーを浴びてもらう。俺も一緒にシャワー浴びてるみたいなもんでびしょ濡れになるが、まあ仕方ない。
「ソウタも濡れちゃうね」
「まあいいよ、しょうがない」
「ソウタも服脱いじゃう?」
「ニコ、あの、俺が今服を脱いだら……裸で抱き合ってるのと変らないだろ」
「あっ……そうか……」
ニコは実際に想像したんだろう。急に赤くなってうつむいてしまった。
どうにか彼女のシャワーが終わって外へ出てくると、群がっていた男たちはもういなかった。
彼らが期待していたものを、俺一人が独占してしまった。これはまた彼らから恨みを買ったかもしれない。
「ソウタ、ニコちゃんのお風呂、大丈夫だった?
部屋に戻ると、ハルさんも心配してくれてたようだ。
「ええまあ、何とか無事に入れましたけど、あのお風呂は改修の必要ありですね」
「そうなの? 明日、ガイに相談してみるわ」
「お願いします」
「でも私、ソウタが毎日一緒に入ってくれるなら別にあれでいいわよ」
ニコが小声で主張する。
「いや、俺がまた鼻血出しちゃうから」
「鼻血が出たら癒歌で治してあげるから大丈夫よ」
そんなことをこそこそ話しているとハルさんが突っ込んでくる。
「ちょっと、『また鼻血出しちゃう』っていうことは前にも鼻血出したことがあったの?」
「え、ええ、まあ」
恥ずかしいから誤魔化そうと思ったらニコがバラしてしまった。
「魔笛亭で私がお風呂入ってる時、お湯が出なくなってソウタを呼んだら、私の身体を見て鼻血出して倒れちゃったの」
「あら! あなたたち、あと一歩のところまで行ってるんじゃない」
ハルさんはにやにや笑っているが、絶対に勘違いしてると思う。俺たちが『ぎっこんばっこん』までたどり着くにはあと百歩ぐらい必要だ。
「それにしても……」
ハルさんはちょっと困った顔で話し出した。
「何かここのキャンプ、以前と雰囲気が違うわ。前はもっとのんびりした雰囲気で、お客さんが来たらみんなでわーっと大歓迎するような感じだったのに、何だか殺伐としてるというか、嫌な雰囲気よね」
「確かに、何か不穏な感じですよね」
「それに黒髪の歌い手様がいらっしゃったっていうのに、何? あの塩対応。ニコちゃんに対してもギラギラした視線ばかりで、何かみんな獣みたい」
確かここは地図の評価では『5+』だったはずだが、今は『2』か『3』ぐらいの感じだ。古株の幹部のおっさんたち以外の連中は、俺なんか眼中にないか、もしくは敵意しか持ってないようだった。いや、別に好いてもらわなくても良いのだが、莫大な懸賞金がかかった重罪犯なだけに、親衛隊に通報されるのが怖い。
「とにかくあのゾラというのは危険人物ね。毒矢はたぶんあいつだと思う。今後も何をしてくるか分からないし、十分気をつけておく必要があるわね」
「このキャンプの中でも毒矢を飛ばしてくるでしょうか?」
「人目があるところではやらないでしょうけど……でもソウタは一人にならない方が良いわね。それにニコちゃんも別の危険があるから単独行動は避けた方がいいわ。つまりあなたたち、ずっと二人一緒にいなさい。それが一番安全よ。もちろん私もなるべくあなたたちと一緒にいるわ」
「はい」
「了解です」
「それとね、ソウタ」
ハルさんは難しい顔をして言う。
「そんなことにならなければいいんだけど……このキャンプの中で大勢を敵に回して戦うことになる可能性を考えて、人前で歌術を使う時はなるべく出力を抑えておいた方がいいわ。できれば半分以下ね」
それは……ひょっとして……
「そうよ。敵を欺くためよ。あなたの震歌や震刃なら、半分の力でも連中を驚かせるには十分でしょ。それに術を発動させるのもわざとゆっくり目にしておきましょう。奏鳴剣の存在も伏せておいた方がいいわ。奏鳴剣の練習をする時はキャンプ外に行ってやりましょう」
「情の歌術も使えないことにしておきましょうか?」
「そうね。癒歌ぐらいは使えないと嘘っぽくなるけど、『僕は震歌と震刃と震壁しか使えません』って言っといた方が良いかもね」
まあ正直、俺が実戦で使えるのは今でも震歌と震刃と震壁だけと言っていい。癒歌はまだ時々失敗することがある。あとは、あまり役に立ちそうにない情の歌術のいくつかと、最近ようやっと風歌を時々発動できるようになってきたぐらいだ。情けないなあ。ニセの歌い手だなって言われてもしょうがない。
「私も力を抑えた方がいい?」
神妙な顔でニコが尋ねる。
「そうね。ニコちゃんも炎歌や凍歌を歌う時は出力を落とした方が良いわ。癒歌も、双癒歌や総癒歌は止めといて、単発の癒歌だけにしときましょう」
双癒歌と同じ発音の総癒歌だが、範囲魔法みたいなもので、自分の周囲の何人かを同時に治療してしまう歌術だ。ハルさんでもなかなか発動できない高度な歌術だが、ニコはちょっと練習したら使えるようになった。やはり天才としか言いようがない。
「もちろん二人とも、本当に危ない時は全力を出して戦ってもいいわよ。まあその時はもうこのキャンプにはいられないでしょうけど」
「本当にこのキャンプに3、4ヶ月もいられるんでしょうか?」
「そのつもりだったけど、ちょっと暗雲が垂れ込めてきたわね。ここに長くいられるかどうかはあのゾラという男の動き次第ね。とりあえず、いつでも逃げ出せるように、荷物はあまり広げずまとめておいた方が良さそうね」
「分かりました」
と言いつつ、正直ちょっとがっかりだ。
村を出て以来、魔笛亭に泊まった他はずっと野宿だ。森の夜は狼に襲われたり、ヒヒが泥棒に来たり、いろいろハプニングがあるので気を抜けない。ようやっと落ち着いてゆっくり眠れるかと思ったのになあ。
ニコも同じ気持ちなんだろう、表情が冴えない。
はあ、さすがに今日は疲れた。
俺たちはそれぞれジゴさん、ナギさんに手紙を書き、自分の部屋に戻って床に就いた。
ニコが一人で寝るのを怖がって「ソウタと一緒に寝る」と言ってるのを、申し訳ないが今日は断った。ごめんよ、ニコ。明日また一緒に寝よう。
最初の部屋割りでは、俺とハルさんは隣同士で、ニコだけが少し離れた棟になっていた。そっちが女性用の部屋ということなんだろう。
しかしニコはそれをすごく嫌がった。確かに、鈍感な俺ですら何となく不穏な空気を感じているぐらいだ。そりゃ女の子が自分だけ離れてたら怖いだろう。
そこでガイさんに相談して、3つつながった部屋にしてもらった。一応それぞれ個室になってるが、ドア一つで部屋同士がつながってるので、いくらでも行き来ができる。
しかもニコを真ん中の部屋にして、俺とハルさんがそれをはさむような形にした。これでようやっとニコもホッとしたようだ。
しかし夕食のために3人で食堂に行くと、また微妙な雰囲気を味わうことになった。
ちょうど食事時で若い男たちがいっぱいだったが、俺たちが座った一角には誰も寄りつかず、みな遠巻きにしてこちらを見ながらひそひそ話をしている。もちろんその視線の中心はニコだ。ひそひそ話しているのもニコへの賞賛か、黒髪への悪口か、いずれにせよあまり感じの良いものではない。
「何だかまるで美少女アイドルとブサメンのカップルを見るような目ですね」
俺が言うと、
「意味が分からないけど、まあ、あんな目つきで見られるとゴハンが美味しくないわね」
ハルさんも同意する。それでも俺とハルさんは普通に食べたが、ニコは半分ぐらいしか食べられなかった。
お風呂はさらにひどかった。
男湯は完全露天風呂の上、囲いも何もなく、周囲から丸見えのワイルドなものだ。木製のバスタブがあるが壊れていて、シャワーしか機能していない。それでもまあ、シャワーが使えたら御の字だからこっちは良しとしよう。
問題は女湯だ。風呂に行ったニコが泣きそうな顔で戻ってきて、俺に一緒に来てくれと言う。行ってみていろいろ驚いた。
女湯はさすがに周囲を板で囲ってあるが、板には隙間や節穴があっていくらでも中を覗けてしまう。しかも何故か女湯の周りには大勢の男がたむろっている。別に何をするでもなくウロウロしているだけで、目が合うと、パッと目を逸らし、急にしゃがみ込んで地面に絵を描いたり、空を見て星を数え出したり、明らかに怪しい。
これは……こんな状況でニコに一人で風呂に入らせるわけにいかないな。周りからはのぞき放題だし、興奮して正気を失った狼が乱入しないとも限らない。
ニコも怖かったのだろう。
「ソウタ、お願い、一緒に入って。ソウタ以外の人には一切身体を見せたくないから」
そう言われるとしょうがない。俺が以前、彼女に説教したことだからな。
他に誰も女性が入っていないのを確認して俺も女湯に入る。大きいバスタオルを両手で広げて持って、腕とタオルで輪を作り、両腕からもバスタオルを垂らしてシャワーカーテンにする。即席の極狭シャワーユニットのできあがりだ。首から上と足元は隠せないが、それぐらいはいいだろう。
「わあっ! これなら安心だね」
ニコは嬉しそうに俺の腕の中に飛び込んできて、躊躇なく服を脱ぎ始めた。
う、こ、これは……
魔笛亭のお風呂どころの騒ぎではない。俺の腕の中で彼女が服を脱いでいる。狭いので彼女が動く度にその素肌が俺の腕や身体にぐいぐい押しつけられる。必死で顔を背けるがどうしたって視界にいろいろ入ってきてしまう。
また鼻血を噴き出してしまうかと心配だったが、今こうやってる俺たちの姿を外から男たちにのぞかれてるんだということを思い出して、何とか冷静さを保つことができた。
裸の彼女を、両腕で囲い込んだままバスタブまで連れて行き、控えめな湯量でシャワーを浴びてもらう。俺も一緒にシャワー浴びてるみたいなもんでびしょ濡れになるが、まあ仕方ない。
「ソウタも濡れちゃうね」
「まあいいよ、しょうがない」
「ソウタも服脱いじゃう?」
「ニコ、あの、俺が今服を脱いだら……裸で抱き合ってるのと変らないだろ」
「あっ……そうか……」
ニコは実際に想像したんだろう。急に赤くなってうつむいてしまった。
どうにか彼女のシャワーが終わって外へ出てくると、群がっていた男たちはもういなかった。
彼らが期待していたものを、俺一人が独占してしまった。これはまた彼らから恨みを買ったかもしれない。
「ソウタ、ニコちゃんのお風呂、大丈夫だった?
部屋に戻ると、ハルさんも心配してくれてたようだ。
「ええまあ、何とか無事に入れましたけど、あのお風呂は改修の必要ありですね」
「そうなの? 明日、ガイに相談してみるわ」
「お願いします」
「でも私、ソウタが毎日一緒に入ってくれるなら別にあれでいいわよ」
ニコが小声で主張する。
「いや、俺がまた鼻血出しちゃうから」
「鼻血が出たら癒歌で治してあげるから大丈夫よ」
そんなことをこそこそ話しているとハルさんが突っ込んでくる。
「ちょっと、『また鼻血出しちゃう』っていうことは前にも鼻血出したことがあったの?」
「え、ええ、まあ」
恥ずかしいから誤魔化そうと思ったらニコがバラしてしまった。
「魔笛亭で私がお風呂入ってる時、お湯が出なくなってソウタを呼んだら、私の身体を見て鼻血出して倒れちゃったの」
「あら! あなたたち、あと一歩のところまで行ってるんじゃない」
ハルさんはにやにや笑っているが、絶対に勘違いしてると思う。俺たちが『ぎっこんばっこん』までたどり着くにはあと百歩ぐらい必要だ。
「それにしても……」
ハルさんはちょっと困った顔で話し出した。
「何かここのキャンプ、以前と雰囲気が違うわ。前はもっとのんびりした雰囲気で、お客さんが来たらみんなでわーっと大歓迎するような感じだったのに、何だか殺伐としてるというか、嫌な雰囲気よね」
「確かに、何か不穏な感じですよね」
「それに黒髪の歌い手様がいらっしゃったっていうのに、何? あの塩対応。ニコちゃんに対してもギラギラした視線ばかりで、何かみんな獣みたい」
確かここは地図の評価では『5+』だったはずだが、今は『2』か『3』ぐらいの感じだ。古株の幹部のおっさんたち以外の連中は、俺なんか眼中にないか、もしくは敵意しか持ってないようだった。いや、別に好いてもらわなくても良いのだが、莫大な懸賞金がかかった重罪犯なだけに、親衛隊に通報されるのが怖い。
「とにかくあのゾラというのは危険人物ね。毒矢はたぶんあいつだと思う。今後も何をしてくるか分からないし、十分気をつけておく必要があるわね」
「このキャンプの中でも毒矢を飛ばしてくるでしょうか?」
「人目があるところではやらないでしょうけど……でもソウタは一人にならない方が良いわね。それにニコちゃんも別の危険があるから単独行動は避けた方がいいわ。つまりあなたたち、ずっと二人一緒にいなさい。それが一番安全よ。もちろん私もなるべくあなたたちと一緒にいるわ」
「はい」
「了解です」
「それとね、ソウタ」
ハルさんは難しい顔をして言う。
「そんなことにならなければいいんだけど……このキャンプの中で大勢を敵に回して戦うことになる可能性を考えて、人前で歌術を使う時はなるべく出力を抑えておいた方がいいわ。できれば半分以下ね」
それは……ひょっとして……
「そうよ。敵を欺くためよ。あなたの震歌や震刃なら、半分の力でも連中を驚かせるには十分でしょ。それに術を発動させるのもわざとゆっくり目にしておきましょう。奏鳴剣の存在も伏せておいた方がいいわ。奏鳴剣の練習をする時はキャンプ外に行ってやりましょう」
「情の歌術も使えないことにしておきましょうか?」
「そうね。癒歌ぐらいは使えないと嘘っぽくなるけど、『僕は震歌と震刃と震壁しか使えません』って言っといた方が良いかもね」
まあ正直、俺が実戦で使えるのは今でも震歌と震刃と震壁だけと言っていい。癒歌はまだ時々失敗することがある。あとは、あまり役に立ちそうにない情の歌術のいくつかと、最近ようやっと風歌を時々発動できるようになってきたぐらいだ。情けないなあ。ニセの歌い手だなって言われてもしょうがない。
「私も力を抑えた方がいい?」
神妙な顔でニコが尋ねる。
「そうね。ニコちゃんも炎歌や凍歌を歌う時は出力を落とした方が良いわ。癒歌も、双癒歌や総癒歌は止めといて、単発の癒歌だけにしときましょう」
双癒歌と同じ発音の総癒歌だが、範囲魔法みたいなもので、自分の周囲の何人かを同時に治療してしまう歌術だ。ハルさんでもなかなか発動できない高度な歌術だが、ニコはちょっと練習したら使えるようになった。やはり天才としか言いようがない。
「もちろん二人とも、本当に危ない時は全力を出して戦ってもいいわよ。まあその時はもうこのキャンプにはいられないでしょうけど」
「本当にこのキャンプに3、4ヶ月もいられるんでしょうか?」
「そのつもりだったけど、ちょっと暗雲が垂れ込めてきたわね。ここに長くいられるかどうかはあのゾラという男の動き次第ね。とりあえず、いつでも逃げ出せるように、荷物はあまり広げずまとめておいた方が良さそうね」
「分かりました」
と言いつつ、正直ちょっとがっかりだ。
村を出て以来、魔笛亭に泊まった他はずっと野宿だ。森の夜は狼に襲われたり、ヒヒが泥棒に来たり、いろいろハプニングがあるので気を抜けない。ようやっと落ち着いてゆっくり眠れるかと思ったのになあ。
ニコも同じ気持ちなんだろう、表情が冴えない。
はあ、さすがに今日は疲れた。
俺たちはそれぞれジゴさん、ナギさんに手紙を書き、自分の部屋に戻って床に就いた。
ニコが一人で寝るのを怖がって「ソウタと一緒に寝る」と言ってるのを、申し訳ないが今日は断った。ごめんよ、ニコ。明日また一緒に寝よう。
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