異界の錬金術士

ヘロー天気

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帰還編

第三話:他国の彷徨い人

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 希美香がサータス魔導具総合本店で創作鉱石の納品をした翌日。朝から緊急の呼び出しを受けた希美香は、慌ただしく着替えて王宮の部屋を後にする。

「随分と急ですね」
「なんだろね?」

 案内人の後について王宮の廊下を歩きながら従者のユニとヒソヒソ話していると、途中で護衛の三人とも合流した。

「あ、みんなおはよー」

「ごきげんよう、キミカ様」
「よう」
「おはようございます」

 今回の呼び出し理由については彼等も把握していないらしく、皆で訝し気にしている。
 そうして案内された場所は謁見の間ではなく、以前にも使った事がある特別会議室だった。中で待っていたのはトレク王とカフネス侯爵。他にもう一人、希美香の知らない顔がある。

「! 父上……」

 ブラムエルが思わずといった様子でそう呟いた。

(ブラムエルさんのお父さん?)

 希美香はその男性を観察する。
 リンベリオ・ユースアリ。ブラムエルによく似た雰囲気で佇む初老の男性は、希美香と目が合うと軽く会釈した。希美香もお辞儀を返す。

 全員が部屋に入って扉が閉じられると、カフネス侯爵が口を開く。

「よく来た。急な呼び出しに驚いたと思うが、確認しておきたい事がある」

 侯爵はそう言って皆に着席を勧めた。壁際に控える使用人達が直ぐにお茶を用意する。人払いがされる様子は無い。

(あんまり重要なお話でもないのかな?)

 希美香がお茶に口をつけながらそんな事を思っていると、カフネス侯爵からおもむろに訊ねられた。

「まず、キミカよ。君は最近、ドルメアの部隊に何かしたかね?」
「ふぇ? なんの事です?」

 キョトンとして聞き返す希美香に、カフネス侯爵は「ふむ」と何かを悟ったように顎を一撫ですると、リンベリオに目配せした。
 それに頷いて応えたリンベリオは、今回の呼び出し理由と確認内容について説明を始める。

「先日、前線の部隊から奇妙な報告があった」

 なんでも、いつものように前線の防衛陣地でドルメアの斥候と小競り合いをしていた時、ドルメア軍の拠点砦がある山の麓の方から、落雷のような閃光と轟音が鳴り響いた。
 それは両軍が思わず戦闘の手を止めるほどの凄まじい光と音の連続だったという。それから直ぐ、ドルメアの斥候部隊は慌てた様子で引き揚げて行った。

 トレクルカーム軍は、ドルメア軍が何かしらの新兵器や大規模魔術実験で事故を起こした可能性などを考え、偵察部隊を向かわせたところ、ドルメア軍の拠点砦が半壊していたそうだ。

 砦周辺を哨戒するドルメアの部隊は健在だった為、遊撃に遭う前に撤退したのでそれ以上詳しい状況は探れなかった。
 しかし、遠くから拠点砦を監視していた別部隊より以下の報告があった。


 拠点砦が半壊する少し前、ドルメアの高速伝令二騎が南方面から駆けて来たのだが、その上空に黒い翼を持つ人の姿があった。
 高速伝令と共に砦の前で止まったその人影は、長い黒髪の若い女に見えた。

 宙に浮いたまま砦と向かい合っている黒い翼の女に向かって、砦からは何度か攻撃が浴びせられたようだった。

 暫くして黒い翼が大きくなり、同時に帯電を始める。
 その直後、砦の兵士達の動きが止まった。監視の位置からでは何が起きているのかまでは確認出来なかったものの、防壁上の兵士達が一斉に同じ方向を見た事だけは分かった。

 そのまま監視を続けようとした次の瞬間、砦全体に凄まじい数の雷が連続して落ちた。防壁上の床弩が全て破壊され、砦から無数の煙が上がるなか、さらに爆発音がして防壁に大穴があいた。
 落雷が落ち着いた頃、黒い翼の女は南に向かって飛び去り、途中で姿が消えた。


「という内容だったのだが……その様子では覚えはないようだね」

 リンベリオの言葉に、うんうんと頷く希美香。話を聞いていた護衛の三人は、それぞれ何か思案しているようだ。そのうちルインが呟くように言う。

「黒髪の若い女って特徴が、キミカに似てたって事か……?」
「でも私、いうほど髪長くないよ?」

「だよなぁ」
「大体、王都から出た事もないのに、何で私かもしれないって思われたんだろう?」

 などと不思議に思っている希美香に、カフネス侯爵は『希美香の工作説』が考察されるに至った理由について説明した。

「君が転移門の研究をしている事は、軍民問わずこの国の上層では広く知られている」

 つい先日には、文献にある古代の転移門に限りなく近しいモノを創り出した。
 これらの事実から、希美香が転移門を使ってドルメア軍の拠点に転移し、急襲したのではないか、というのが、『希美香の工作説』が囁かれた根拠なのだそうな。

「君がドルメアに対して思うところがあるという点も、考察に含んでいるそうだ」
「んな無茶な」

 飛躍させ過ぎにも程があるわと呆れる希美香だったが、一方でドルメア軍に思うところがある点については「まあ、確かに」と、否定はできない部分ではあった。


 希美香が王都ハルージケープまで護送されて来た日。ドルメア軍の王都襲撃に巻き込まれて、カンバスタの街から一緒に旅して来た御者や使用人、護衛の何人かが亡くなっている。
 その時は従者のユニも大怪我をした。

「でもだからって、一人でこっそり出掛けて行ってちょっかい出したりはしないですよ」
「で、あろうな」

 まあただの確認だから気にするなと、カフネス侯爵も『希美香の工作説』の噂をそこまで真剣に疑っていた訳ではない事を明かす。

 その上で、希美香を連想させる特徴を持つ何者かがドルメア軍を襲撃した事実に注目しているのだと。

 ここでいう希美香を連想させる特徴とは、髪の色の他に肌の色や堀の浅い顔立ちなどの容姿、人種的な相違性もしくは類似性が挙げられる。後は空を飛んでいたという点も少し絡む。
 希美香は王都入りする際、『宝石の浮島』で宝城壁を飛び越える姿を見せているのだ。

「それらを踏まえて、報告の内容に何か思い当たる節は――……」
「うーん、ないですねぇ」

 そもそも翼の生えた人間の存在など、希美香の想像の範囲外である。無数の雷が落ちたというのも分からない。
 魔法なのだとすれば、鉱石を精製する特殊な錬金術士として認識されている希美香よりも、既存の腕利き魔術士辺りが挙がる筈だ。

 護衛組のアクサス、ルイン、ブラムエルも、監視役の報告内容から希美香に繋がりそうなものは思い浮かばないと首を傾げている。

 そんな中、おずおずと挙手する者が一人。

「あの……」
「うん? どうしたの、ユニ」

 皆に注目されて緊張を露にするユニは、言葉を詰まらせながら言った。

「もしかしたら、キミカ様と同じ彷徨い人で……別の大陸から来た、人なのかも」

 その意見はあまりに唐突で、居並ぶ面々を困惑させたが、同時に興味も惹いた。

「どうして、そう思ったの?」
「あの、情報屋の人が、言ってたんです」

 希美香が訊ねると、ユニは以前、融和派アズタール家の嫡男ルタシュが、希美香の為に彷徨い人の情報を持つ者を探して紹介した時の事を語る。
 その日の護衛担当だったブラムエルが「あの時の事か」と反応した。

 提示された破格の報酬に対して、その情報屋は当時のトレクルカーム王国で最高機密だった、『実りの大地』と『生け贄』に彷徨い人が関わっているという情報を教えてくれた。

 この時、情報屋は「これだけでは報酬に見合わないから」と、オマケの情報も色々と出してくれたのだが、その中に他国の彷徨い人について一言二言語っている。

 それは『話が壮大過ぎて尾ひれもでかそうなので参考にならない』と前置きして並べられた内容で、ずっと遠方にある大陸には世界を自由に渡る異世界人の存在が噂されているというもの。

 希美香やブラムエルの記憶にも残らなかった、雑談の一環として流された噂話。
 そんなたわいの無い話の中に、『黒い翼を生やしている』とか、『雷を操る』とか、『死者を蘇らせる』等の言葉が含まれていた事を、ユニが覚えていたのだ。

「それって……」

 思わず零れた希美香の呟きに、この部屋にいる誰もが同じ事を思った。今回の話題となっている監視部隊から挙げられた報告内容の人物像に合致すると。

「では、ドルメア軍の拠点砦を攻撃したのは、他国の彷徨い人だと?」
「うーむ」
「性急な判断は危険だ。だが、その方向でもう少し情報を集めるとしよう」

 カフネス侯爵は、少々予想外な話になったが解決に至れそうな答えは得たと、満足気に頷いた。緊急の呼び出しと確認はこれにて終了。
 ここに集まった面々はそれぞれ自分の業務に戻ったり、関係各所に通達を出したりと動き始める。

 希美香も一旦部屋に戻るべく席を立つと、護衛の三人もそれに続く。その時、リンベリオが声を掛けて来た。


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