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帰還編
第七話:実りの宝珠
しおりを挟むこの国を訪れた他国の彷徨い人と会ったなら、直ちに王宮へ報告せよ。抜け駆けは断じて許されない。緊急会議の内容は、ほとんどこの一点を強調した形で終わった。
会議というよりも各派閥の重鎮に対する告知と釘差しが目的だったようだ。
件の彷徨い人がルタシュに持ち掛けたのは、ドルメア軍の重要な機密情報の提供。
その旨を『上に伝えておいて欲しい』と告げていたそうなので、トレクルカーム王国の上層と繋がりを望んでいるのは明らか。
ただ、見返りに何を求めて来るかは分からない。
「どんな人だったんだろうね~?」
「ルタシュ様の話では、最初キミカ様と間違えて声を掛けたそうですから――」
希美香の疑問に、ユニは「やっぱり雰囲気は似ているのかも」と推察を語る。
「しかし、武人はどうしても多少の威圧感を纏うものですが」
「街の中で気を緩めていたとしても、アズタール家の彼が気軽に声を掛けられるものでしょうか」
「ブラムエルに睨まれるだけで怯むもんな、あいつ」
護衛三人衆の意見は、希美香の普段の姿と、伝え聞く他国の彷徨い人の勇猛さがどうしても結び付かないらしい。
「まあ、私は基本的に荒事とか苦手だしね」
「……その割には、色々やべぇ事に首突っ込んでるよな?」
自ら封鎖中の実りの大地に乗り込んでラコエルの霊と対峙し、サリィス姫を生贄の運命から救い出したのは荒事じゃないのかと指摘するルイン。
「それは偶々でしょ」
希美香は、成り行きと巻き込まれたのは不可抗力なのでノーカンだと訴えた。
そんな和気藹々とした調子で話しながら食堂までやって来た希美香達は、一緒に昼食をとってから宝石塔の宮廷魔術研究所へと足を運ぶ。
今日はこれから、元『贄の王女』達に贈る特殊効果付き宝飾品を制作するのだ。
「そういえば、結局その宝飾品にはどんな効果を付与するのです?」
アクサスがふと思い出したように訊ねる。
希美香がラコエル宮殿内で王女達と打ち合わせという名のお茶会をしている間は、護衛の三人は声を拾えないくらいの距離を取っていたので、詳しい仕様を把握していない。
「ん~、別段隠すような事でもないし、いいかな。『実りの宝珠』っていう植物育成促進効果よ」
装備者が指定した範囲に『実りの大地』のような効果をもたらす、元『贄の王女』達の専用装備。各支分国に嫁がされる彼女達を、豊穣の姫君に仕立て上げる。
「……それって、やばくねぇ?」
「やばくないわよ。そこまで万能でもないし」
ルインの突っ込みにしれっと返す希美香は、『実りの宝珠』の仕様を搔い摘んで説明する。
即時発動も可能だが基本的に魔力蓄積型で、数日掛けて魔力が満タンになると宝珠が虹色に輝く。その状態での発動で最大効果を得られる。
宝珠を扱えるのは装備者のみ。一人に一つずつ、贈呈する際に血と魔力を登録して他の人では発動できない仕様にする。
「そ、そのような技術をどこで」
「んなもん能力に丸投げよ」
アクサスは、一つの宝飾品魔道具に複数の効果を、それも契約魔法のような条件設定まで付与するという魔導技術の高さに驚くが、希美香はあっけらかんとした調子でそう明かす。
額縁型転移門レベルの効果を付与した宝石を精製できるのだ。魔力と血液による使用者登録と認証機能効果くらい、イメージさえしっかり固めていれば造作もない。
――希美香に地球世界の電化製品全般に見る現代科学技術の知識や、数ある創作物内に描かれた架空の技術に対する造詣の深さがあるからこそ、と言えるが。
「でたらめ過ぎるだろ……」
「何をいまさら」
ルインが驚きも感嘆も通り越してもはや呆れているが、希美香が身に着けている護身用の魔導装身具にも似たような機能が備わっている。
希美香の自己申告通り、厄介ごとに首を突っ込んでも荒事には滅多に遭遇しないのであまり目立たないものの、装備者に対する害意に反応して自動防御と迎撃までする魔道具など、そうそう存在しない。
「ん~、そうね。せっかくだから護身用の機能もついでに付けちゃおうかな」
「ついでで付与されるような効果じゃねぇ……」
しかし、これから各重要支分国に嫁がされる元贄の王女達の立場は、確実に守られるだろう。
「グループ通信機能もつけたら便利かな」
「言葉の響きからどのような効果なのかは何となく察せますが、諜報工作を疑われるのでお止めになった方が良いかと」
「そっか~」
軽いノリで機能を盛ろうとする希美香に、護衛三人衆はツッコんだり呻いたり的確な助言をしたりして自重させるのだった。
「そうして完成したのがこちらです」
ててーんと、テーブル上に無造作に並べられたのは、大粒の宝石が付いた首飾り。二十八人分。元贄の王女達専用の宝飾品魔道具『実りの宝珠』がお披露目された。
「おお、また大きな宝石が付いておるな」
「素敵ですわ」
「それぞれ色が違いますわね?」
「うん、みんなの髪と瞳の色で揃えてみました」
ラコエル宮殿の中でも、元贄の王女達が過ごしている区画にて。いつもお茶会に使われるサロンに今回は全員が集まり、お披露目と受け渡しが行われる。
一応、王様とその周りには報告を上げているが、基本的には秘匿されたイベントである。
しかしながら、希美香が元贄の王女達に特別な贈り物をするという話は、王宮の貴族達の間では割と知れ渡っていた。
「流石に奪いに来るような人は居ないと思いたいけど、とりあえず仕様を説明するね」
希美香は『実りの宝珠』に付与されたメイン機能と、ついでに付けた機能について説明していく。植物の育成促進効果については、既にこれまでの話し合いで皆が把握済みだ。
なので、ついでに付けたオマケ機能の効果と、受け渡し時の所有者登録機能を中心に説明した。
「ほう。血と魔力による専属契約に自動防衛。それに次元収納とは――」
「オマケで付けるような効果ではありませんわね」
「流石はキミカ様ですわ」
「キミカ、ヤバいのじゃ」
メインの機能からは独立した魔力蓄積を行い、できるだけ装備者に負担が掛からないように起動する魔法障壁と、転移門制作の副産物でもある次元収納。
次元収納にはアタッシュケース二個分ほどの荷物を保管しておける。生き物はダメなタイプだ。
王女達それぞれの髪と瞳の色を模して二色に分かれた宝石が、専属契約魔法の発動で輝く。
所有者登録を済ませた彼女達はさっそく首飾りを身に着けると、収納機能を起動させてオヤツのお菓子やらお気に入りの本などをせっせと詰めていた。
今の内からイザという時の為の準備に余念が無い。
「さ、流石は歴代の贄の王女様達ね。何か貫禄が違うわ」
「動じない感じですよねー……」
お茶会の席には同席を許されているユニが、王女達の適応力の高さに感心する希美香の呟きに頷いて同意した。
王室から三度目の緊急呼び出しが掛かったのは、それから間もなくの事だった。
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