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狭間世界編
第二十八話:狭間世界の冒険の終わり
しおりを挟む戦闘が終わり、栄耀同盟の構成員の拘束と、負傷者の治療が進められていく。動けなくなって床に転がっている敵の機動甲冑は、コウが複合体で壁際に運ぶなどして戦闘後の片付けを手伝う。
機動甲冑に乗せたエイネリアとレクティマは、既に異次元倉庫に仕舞ってある。
あまり戦闘には参加させられなかったが、元々が戦闘用では無いので、盾を構えて味方の傍に立たせているだけでも、威圧効果があって十分役に立ったとコウは考えていた。
「これで勝ったと思うなよ!」
「魔導兵器技術の真髄は我らの手にあるのだ! 何度でも――」
隊長機から引きずり出された指導者達。栄耀同盟を結成した創始者メンバーでもある二人は、往生際も悪くがなり立てていたが、突然施設全体に大きな揺れが走った。
「この揺れは……まさかっ」
「彼奴め! 一人で逃げるつもりか!」
焦りと動揺を滲ませた指導者コンビの叫びを聞いて、コウは即座に思考の読み取りをおこなう。
そうして得た情報によれば、指導者の中でも創始者メンバーの最高司令官が最奥の総指令室に詰めていて、先程の揺れは総指令室から施設の非常用脱出装置を起動させたものらしい。
栄耀同盟の本拠地施設が緊急浮上している。このまま元凶を逃がす訳にはいかない。
「ヴァヴォヴァ! "さくや!"」
朔耶に呼び掛けて交感を繋いだコウは、読み取った情報を知らせて奥の通路へと走り出した。今はまだ使い慣れている魔導輪での滑走のほうが速いので、ホバー移動ではなくスライディングの姿勢で通路を疾走する複合体コウ。その頭上を、漆黒の翼を広げた朔耶が追随する。
――どこから逃げようとしてるか分かる?――
『一番奥の脱出部屋に、"特殊爆撃機"がおいてあるみたい』
かつてポルヴァーティアを支配していた執聖機関が有する神聖軍の中でも、最も強力な部隊として活躍していたのが、高高度からの一方的な爆撃を可能とする特殊爆撃機部隊。
神聖軍の中でも選ばれた極一部のエリートのみが所属できる部隊であり、そこに所属する事でポルヴァーティアの真の歴史が教育される。
一般の神聖軍将校や兵士、大聖堂の信徒達とも一線を引いた、特権階級を与えられるのだ。
栄耀同盟の創始者達は、その当時の栄光が忘れられず、特権階級意識を捨てられなかったが故に、大神官の新しい組織から爪弾きにされた。
ざあざあという水の流れる音が聞こえる。断続的に続いていた施設の振動が、一際大きな揺れを最後に収まり、天井の照明が消えて月明かりが射し込み始めた。
海上に出た施設の、ドーム状になった屋根が開かれたのだ。
最深部に到着したコウと朔耶は、格納庫のような広い空間に出た。真ん中に円形の台座があり、その上に鎮座する汎用戦闘機っぽい機体の一機が浮上を始めている。
朔耶がその機体を指して言った。
「あれが特殊爆撃機だわ! 前に見た事がある」
「ヴァヴァヴォウ! "おとそう!"」
滑走状態から浮遊装置を稼働させて複合体を立ち上がらせたコウは、魔導輪を異次元倉庫に仕舞いながら風の魔術も使って空中に舞い上がった。
「わおっ、コウ君その姿で飛べるようになってたんだ?」
朔耶が驚きながら後に続く。特殊爆撃機は少しずつ機体を旋回させながら高度を上げ始めた。
複合体に内蔵された邪神製『浮遊装置・改』で何処まで高く飛べるか分からないが、今なら十分に届く高さだ。
このまま機体に取り付こうと接近する複合体コウに、特殊爆撃機から無数の光弾が飛んで来る。機体がこちらを向いた事で、空戦用の光撃連弓の射角に入ったらしい。
「ヴァー」(わわっ)
複合体は一応飛べるようになったとは言え、現在は浮遊装置で浮かせた身体を風の魔術で強引にコントロールしているに過ぎない。
まだまだ飛び慣れていないのであまり速度は出せないし、安定性も決して高くない為、強い衝撃を連続で浴びせられれば、たちまちバランスを崩す。
空中で回転運動を始める複合体コウの後ろから、漆黒の翼を生やした朔耶が飛び出した。朔耶の魔法障壁が空戦用光撃連弓の光弾を防いでくれたので、コウはその隙に姿勢制御を試みる。
特殊爆撃機は、真正面に浮かぶ朔耶にそのまま突っ込んで来た。が、爆撃機の体当たり攻撃も魔法障壁が受け止める。
朔耶の右手が青白く発光を始めた。
コウの視点から見ると、朔耶の内側から発生した魔力が収束しているのが分かった。朔耶を覆う魔法障壁の魔力とは出所が違うように見える。
同時に、朔耶がよく使う無数の意識の糸が、特殊爆撃機に向かって伸びていく。
「えい、いなずまビンタ!」
あまり気合いの入っていない掛け声と共に、朔耶が青白い稲妻を纏ったビンタで機体を叩いた。バチィッという静電気の強力版のような音と光がして、特殊爆撃機は煙を吐きながら墜落する。
「コウ君、鹵獲お願い」
「ヴァッヴァー "オッケー"」
このまま真っ逆さまに墜とすと、下に並んでいる爆撃機と衝突して爆発炎上し兼ねない。
浮力を失った特殊爆撃機の後部を掴んだ複合体コウは、朔耶の援護も受けつつゆっくり降下していく。最深部の格納庫には丁度、有力組織連合の部隊も集まって来ている。
本拠地を制圧し、組織の指導者である創始者メンバーのトップを捕縛する事ができた。これで、栄耀同盟に纏わる諸問題も解決に向かうだろう。
複合体を仕舞って少年型に乗り換えたコウは、天井が開かれた本拠地施設の集会・演習所から、星の瞬く夜空を見上げる。もう直ぐ夜明けだ。
「おわったね」
「そうね、コウ君もお疲れ様」
労う朔耶に「おつかれ~」と返したコウは、この狭間世界での冒険が終わりに近付いている事を実感する。
「この後はどうするの?」
「そうねぇ、ここはもう組織連合の人達だけで大丈夫そうだし、あたしは引き揚げようと思うわ」
栄耀同盟の件が片付けば、ポルヴァーティアには取り立てて大きな問題は無く、カルツィオにも朔耶の介入が望まれるような緊急の事案は今のところ無い。
「後は悠介君とアルシアちゃん達でどうにかできるでしょ」
ガゼッタに残る栄耀同盟絡みの諸問題は、既に彼の国だけで対処可能な状態まで安定している。これからカルツィオの各国は、ポルヴァーティアの魔導技術の受け入れと開発を進めていくのだろう。
「じゃあいったん地球世界に戻る?」
「そうしましょうか」
コウはこちらでの冒険が終われば、一度アンダギー博士のところへ顔を出す予定なので、一緒に地球世界へ連れ帰ってもらう。
朔耶は狭間世界の問題が一段落したら、異世界で少し調べたい事があるらしい。東のオルドリア大陸や、西のフラキウル大陸とは別の、南の方の大陸で何か異変があったそうな。
「アルシアちゃん達に挨拶して帰りましょ」
「うん」
有力組織連合の部隊指揮をしているアルシア達のところに赴いたコウと朔耶は、これで引き揚げる旨を伝える。
「そうか。今回は本当に助かった。ゆっくり礼もしたいところだが」
「アルシアちゃん達はまだまだ忙しいでしょうからね、気にしなくていいよ」
朔耶とアルシア達が別れの挨拶と今後の予定を軽く話し合っている間、コウは夜が明け始めたポルヴァーティアの空を見上げる。
この世界では、浮遊する大地の周りを太陽が回っていて、一年おきに回転方向が入れ替わる。順周りの表年と逆回りの裏年があり、今は順周りの表年らしい。
狭間世界の大陸融合は、数万年、数十万年の周期で自然に起きる現象のようだが、ポルヴァーティアのように意図的におこなえる技術の進んだ大陸が他にもあるかもしれない。
(もっと沢山の大陸が融合したら、いつか普通の星みたいに丸くなるのかな?)
或いは、一定の大きさまで育つとバラバラに砕けで循環するような摂理になっているのか。この世界の形に思いを馳せていると、挨拶を済ませた朔耶が声を掛けて来た。
「お待たせ。行きましょうか、コウ君」
「はーい」
「フラキウルの冒険者コウ、此度の力添えに感謝する。……向こうの私に会ったらよろしくな」
「うん、またねー」
コウもアルシアと少し言葉を交わすと、朔耶に連れられて世界を渡る。地球世界の朔耶の実家、都築家の庭へと転移した。
気温の違いか、魔力濃度の違いか、地球世界の空気は何故だかホッとする気がする。もしくは、コウの中にある京矢の記憶が、望郷を呼び起こしているのかもしれない。
「さて、あたしは少し休んだら悠介君に報告にいくわ」
「ボクはキョウヤのところから博士の研究所に向かうよ」
「了解。それじゃあ解散ね、お疲れ様~」
「おつかれ~」
ひらひらっと手を振る朔耶に、コウも振り返すと、少年型を解除して精神体の状態になる。そして異次元倉庫内に現れた京矢との繋がりの線を伝って、世界を渡るのだった。
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