スピリット・マイグレーション

ヘロー天気

文字の大きさ
140 / 148
よろずの冒険者編

第三十四話:混迷のインターナル

しおりを挟む



 夕食後は一旦ケイの部屋に集まり、互いの情報を報告し合う。
 内容が内容だけに、事情を知らない者に聞かれると誤解を招きそうなので、人の目耳に触れそうな食堂では話さなかったのだ。

 コウは潟辺グループに仕掛けた荷物入れ替え工作や、読み取ってきた思考内容を順に語った。

「カタベグループの足止めはこんなかんじ。もしかしたら、あしたのカメラなくなり事件もメンバーのしわざだったのかも」

「あり得るね……そうすると、前回に裏で起きてた事も大体見えてきたかな」

 潟辺とグループメンバーがそれぞれ考えていた心情について聞かされたケイは、前回の記憶の端々にある潟辺の行動、目撃場所などと照らし合わせて全容を大まかに推理していた。
 コウはそれを読み取って共有する。

「とりあえず、幾つかのトラブルの芽は潰せたと思う」

 潟辺がホテルに泊まれるようになったならば、それはそれで前回とはまた別の問題は起きそうだが、民宿・万常次が危険に曝される確率は減る筈だと、ケイは判断しているようだ。


 互いの情報を共有して現在の状況を正しく認識、把握したコウとケイは、ひとまずこの状態で様子を見ようと報告会を終えた。

 この後は銭湯で一息吐く。

「はぁ~やっとお風呂に入れるのね」
「美鈴は少し疲れた?」

 コウとケイは『前回の記憶』に基づいて未来に起こる出来事を知った上で色々行動しているが、美鈴は完全初見で訳も分からないまま連れ回されていた状態なので、少々気疲れしたようだ。

「今回みたいなのは初めてだから、ちょっとね」

 そんな彼女の記憶には、美奈子と商店街を歩く事の意味や、明日は通りに屋台が並ぶ事。町に点在するお堂の事など、記事のネタになる情報がちゃんと入っていた。

「ケイからあるていどは聞いたんだね」
「うん。今日の行動のお陰で明日の屋台の取材はスムーズに進む事とか。あと、お堂巡りも」

 それなら明日は想定通りに行動しようと予定を立てると、三人で商店街の銭湯に向かった。


「それじゃまた後で」

 銭湯の出入り口で美鈴とわかれて、コウはケイと男湯に入る。石鹸やシャンプーはケイが買ったセットを借りる。

「前回見た時も思ったけど、コウ君の肌やたら綺麗だな」
「このからだ、ベースが奉仕用の召喚獣なんだ」

 人気の少女モデルから作られた少年型である事を説明すると、ケイは興味深そうにしていた。

「そういう部分はファンタジー世界の魔法技術が現代世界の科学技術を上回ってるんだな」
「科学は一からぜんぶ人が構築するけど、魔法はいちぶ精霊とかが手伝ってくれるからね」

 ケイとそんな話をしつつ裸の付き合いを経て、銭湯の大浴場を後にした。壁向こうの美鈴の思考を拾っていたので、出るタイミングはバッチリだ。


 まだ屋台の並んでいない商店街。人通りはやや多めだが、静かで薄暗い夜の通りを三人で並び歩く。

「うーん、なんだか情緒的だわ」
「確かに雰囲気は悪くないかな」

 お祭りのような賑やかな雰囲気も良いが、特に何もない夜道に人が多いだけでも、非日常感が増して情緒が刺激されるという美鈴に、ケイも同意している。

「夜の町って出歩くとわくわくするよね」

 道中トラブルも無く万常次に戻ったコウ達は、一先ず美奈子の帰宅を待って潟辺の宿泊がどうなったのかを確認する。

 コウは美鈴の仕事を手伝う為、二階の小部屋に。ケイは食堂の一画にあるリビングで待機中。
 ケイの前回の記憶によれば、美奈子がホテルから帰って来るのは夜の八時を回る頃だったので、もうそろそろの筈だ。


「ただいま~」

 ガラガラという玄関の開閉音がして美奈子の帰宅の声が響く。
 コウは少年型を解除して甲虫ゴーレムに憑依すると、記事を執筆作業中の美鈴に装飾魔術で"いってくるね"の文字を一言浮かべて小部屋を後にした。

 一階に下りると、ケイと美奈子が食堂の片隅で話しているのを見つけた。天井に沿ってその真上まで移動したコウは、二人の会話と記憶に意識を傾ける。

 ケイの前回の記憶も参照しながら美奈子の記憶を読み取り、ホテルの状況を確認。
 どうやら今回は潟辺の部屋のキャンセルは起きなかったらしく、多少のクレーム処理こそあれど大きなトラブルも無かったようだ。

 コウは一応、ホテルに泊まれた潟辺とグループメンバーの様子を探りに行く事にした。
 そのまま玄関に向かう。扉は閉じられていたが、甲虫で抜けられる隙間があったので、そこから外へと飛び出した。


 まだ疎らに人通りのある薄暗い商店街の上空を飛んでいく甲虫ゴーレムのコウ。甲虫の飛行能力に風の魔術も足しているので、五分と掛からず目的のホテルに到着した。

 潟辺達が泊まっている部屋の窓際に張り付き、彼等の思念を拾って様子を窺う。
 どうやら彼等は潟辺が一人部屋で、メンバーが二人部屋を二つ借りているらしく、今は二人部屋の一つに集まってミーティング中であった。

 明日の撮影予定は早々に纏まり、後は寝るだけという自由時間でささやかな酒盛りをしているのだが、雰囲気はかなり微妙な感じだ。

 表面的には皆で和気あいあいと飲んでいる。しかし内面は疑心暗鬼のギスギス会と化していた。特に今、潟辺が追及している『誰が荷物に細工をしたのか』という話題について。

「んで、誰だったんだ?」
「いやこれ、みんな知らないんだよね~」

「んな分けないだろー、ほんとマジで誰?」
「いや、マジで俺等んなかで荷物弄れた奴居ないよな?」
「うん、つか結構底の方に入れといたバッテリーが移動してたからね」
「俺のも、チャック付きの内ポケットに入れてたやつだから、隙見て抜けるようなもんじゃ――」

「もうそういうのいいから、誰?」
「いやいやいや」
「マジで俺等の誰かじゃないと思うぞ?」

「だからそういうのいいからもう、誰よ? あ、みんなグル?」
「いや違うって、マジでそれは――」
「え、実はトモちゃんの仕業的な?」

「はあーーっ!? 俺がどうやって入れ替えるんだよ」
「一緒だって、それ。俺等もそんな機会なかったって」

 こんな調子で、潟辺がメンバーに執拗に絡み、メンバーの方も身に覚えがないだけに潟辺の事を疑っているが、同時に他のメンバーの事も疑っているようだ。

(ぎすぎすぱらだいす)

 コウが足止め工作に打った悪戯が随分刺さっている。剥がれ掛けの笑顔を繕いながらの酒盛りが続く中、彼等の記憶情報を収集したコウはケイと共有するべく引き揚げに掛かった。

 明日起きる予定だったカメラ紛失事件も、今日の荷物入れ替わり事件が原因で時間が無くなり、定点に設置するという行動が起こせなかった為、早朝から騒ぎが起きる事も無いだろう。

 翌日のトラブルも一つ潰せた可能性を思いつつ、甲虫ゴーレムなコウは夜の町へと飛び立った。



しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

異界の魔術士

ヘロー天気
ファンタジー
 精霊によって異世界に召喚されてから、既に二年以上の月日が流れた。沢山の出会いと別れ。様々な経験と紆余曲折を経て成長していった朔耶は、精霊の力を宿した異界の魔術士『戦女神サクヤ』と呼ばれ、今もオルドリアの地にその名を轟かせ続けていた。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。