スピリット・マイグレーション

ヘロー天気

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よろずの冒険者編

第三十九話:真相苦虫エピローグ1

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 宗近達が麓の警察署に護送された事で、一連のトラブルは一応の終息を見た。万常次に帰って来たコウは、少年型になって美鈴とケイに出迎えられた。

「これでほぼ解決かな?」
「そうね。前回みたいバスジャック事件な大事にならなくてよかったわ」

 美鈴は、「今回も十分大騒ぎだったけど」等と呟く。
 色々な事件に巻き込まれて来たケイにとっても、現職の代議士やら大財閥やら人外の存在まで関わるような案件は流石に初めての事であり、稀に見る経験だったと肩を竦めている。

 深夜から起きていた美鈴とケイは、朝食後に少し休んでから今日の予定に繰り出すとの事。食堂では美奈子も含めて皆眠そうだった。


 美奈子が商店街のホテルの手伝いに出掛けて、美鈴とケイが部屋で休んでいる間、コウはエイネリアのハッキング機能で麓の町の警察署の様子を探り、通話記録の傍受盗み聞きなどしていた。

 当初、宗近は留置所に置かれる待遇をごねて、ホテルの部屋を用意しろだとか、食事の出前を取らせろなどと傍若無人に振る舞い、麓の町の警察署側もほとほと手を焼いていたようだ。

 が、北条代議士の部下である宗近のお目付け役の三人組が持ってきた携帯で代議士の祖父と直接話をした宗近は、かなりヤバい相手に喧嘩売ったらしい事を知って大人しくなった。

『宗坊ぉ! お前は、儂を破滅させたいのかー! ぉおん?』
『す、すまねぇ祖父じいちゃあん』

 傍受した会話の中に、そんなやりとりがあった。


 その後、朔耶から様子を訊ねる連絡を貰ったので、事の顛末を説明しておいた。それから互いの近況を語り合いつつ雑談に興じる。

「あしたで取材も終わるから、あさってにはキョウヤの家にもどる予定だよ」
『そっか。京矢君はまだしばらく向こうよね』

「朔耶は今何してるの? また狭間世界?」
『ううん、今は南の大陸を調査中よ』

 栄耀同盟の本拠地から引き揚げる時に朔耶から聞いた、大規模な魔力変動があったという南の大陸。何でも、宝石で出来た防壁や建物を持つ大国があるのだとか。

「へー、お金持ちな国なのかな」
『ん~それが、何か最近まで呪われた国だったらしくてね。色々あったみたいなのよ』

 国家の体制が変わるほどの大きな変革があって、未だ混乱が続いている状態。
 詳しい情報が集まっていないので、いつものようにいきなり飛び込んでいくようなやり方は避け、慎重に近付くようにしているそうな。

「いつもの体当たり外交じゃないんだ?」
『別に外交目的で調べに行ってるわけじゃないからね』

 とは言え、朔耶が活動する際には彼女の異世界での後ろ盾の一つでもあるフレグンス王国が、常にその動向に注目している。

 朔耶の働き次第では、フラキウル大陸のグランダール王国のように、海を越えての国交を結ぶ事も視野に入れているのは間違いない。
 それは朔耶も分かっているようであった。



 朝の十時過ぎ頃。
 コウは、美鈴と連れ立って土手の向こう側を撮影しに出掛けていた。ケイはまだ寝ているようだったので、起こさずにおいた。
 エイネリアは既に異次元倉庫の中だ。民宿の人達には、一足先に帰ったと告げてある。


 駅近くの踏切を越え、美鈴を案内するコウが指差した先に、町の内側では見られなかった雄大な景色が広がっている。

「わぁ、これは凄いわね。来るときは気が付かなかったわ」
「でんしゃぎゅうぎゅう詰めだったもんね」

 ここへ来る時は撮り鉄達で満員電車状態。且つ、席も町側の位置に居たので、辛うじて窓から見えた景色は長閑な仙洞谷町の遠景と、田んぼや畑くらいしか視認出来なかったのだ。

 土手向こうの道には今日も変わらず、大勢の撮り鉄グループ達が線路にカメラを向けているが、ちらほらと周囲の景色を撮影している姿もあった。

 そんな中、美鈴は深緑が映える急斜面な山腹の写真を、谷の方までパチリパチリと撮っていく。コウは美鈴の後に続きながら周囲の様子を見渡した。

 宗近達が居なくなったので、一番いい場所には他のグループが撮影台を組んでいる。その付近から思考を拾うと、『あ、昨日の子だ』とか『ワンパンキッド来た!』等の内容が向けられていた。

 『ワンパンキッド』の通り名は、宗近に報復のバースト・ファントムを叩き込んだ姿から付けられたようだ。
 あの時、コウが彼等にかました説教から『正論パンチ』とか心の中で呼んでいる者も少数いる。

 好奇の視線や訝しむ気持ちは多少感じれど、敵愾心の類は全く感じられないので、美鈴が危険に晒される心配もない。

(あ、カタベたちだ)

 撮り鉄集団の中に潟辺のグループを見掛けた。宗近達が居なくなった事で、駅の周辺まで活動範囲を広げられたらしい。今日は特に問題も起こしていないようである。


 二十分ほどで美鈴の撮影が終わったので、万常次に戻る。明日の『さよなら運転』を取材の締めくくりとして、最後の電車とともに町を出る予定だ。

 後は記事の纏めとチェックをおこなって担当さんにメールで草稿を送り、追加したり削ったりする部分を相談して清書に入るそうな。
 その辺りの作業は、自宅のアパートに帰ってからになる。

「あら、ケイ君だわ」
「セーブ中かな?」

 駅から町へと続く道を歩いていると、分かれ道のところに立つ道祖神の前にケイが居た。石神様に祈っているようだ。

(――うん?)

 コウが『記憶の保存をしてるのかな?』とケイに意識を向けた時、彼の記憶の中に自分の知らない記憶がある事に気付いた。
 思わず足を止めて記憶の読み取りに集中する。

「コウ君?」
「……これ、ボクの記憶だ」

 コウは美鈴とこの町に着いて直ぐ、ケイの遡り能力に巻き込まれる形で今の時間軸――ケイから見て二周目の世界に生きている。

 今、ケイから読み取れた記憶は、コウが本来経験していたであろう一周目の自分コウの記憶だった。


 一周目の自分コウの記憶をケイが持っていた。その内容から、一周目の三日目――今日の昼前、自分がケイのやり方を真似て記憶を保存した事を知る。


 コウは、自身が残した記憶の詳細を辿っていく――



 美鈴と共に仙洞谷町にやって来た初日。
 道祖神前で祈る、複数重なったように見える不思議な存在感の若者ケイが、町へ向かう集団から外れて、分かれ道をひとり歩いていく姿を見送った。

 町に入り、商店街のホテルに向かうも、道中で予想した通り満室で部屋は取れなかった。

「あー、まずったわ。どうしましょう」
「こまったねぇ」

 などと、混雑するホテルのロビーを見渡しながら二人で呟くも、イザとなれば野宿でも快適に過ごせる設備を用意できるので、コウは当然ながら美鈴にもあまり焦燥感は無い。

 どこか開けた場所でテントでも張れないかと考えていた時、カウンターの方から怒鳴り声が聞こえてきた。

「はあぁーー! おかしいだろっ!」
「そう言われましても、既に手続きされてますし……」

「してないんだけど!? 俺なにも聞いてないんだけど!?」
「はぁ……」

 怒鳴っていたのは潟辺で、自分が契約していた部屋が身に覚えのないキャンセルで泊まれなくなっており、どういう事だとカウンターの受付嬢相手に抗議している。

「なんで本人確認もなくキャンセルなってんだよ!」
「申し訳ありません」

「謝罪はいいから別の部屋用意してよ」
「申し訳ありませんが、既に満室でして……」

 潟辺は、ホテル側の不手際なのだから補填しろと求めているが、受付嬢は満室で用意できないと繰り返すばかり。

 そうこうしている内に別の女性従業員が現れ、涙目になっている受付嬢の後を継ぐように潟辺のクレーム対応を始めた。

 その従業員は、ホテルのヘルプに入った美奈子だった。
 美奈子と潟辺は朝方に民宿・万常次の庭で顔を合わせているが、この時は服装や髪型の違い、照明の具合などでお互いに相手の顔に気付いていなかったようだ。

「お客様のキャンセル手続きですが、チェックイン予定の時間を過ぎた後にされてますね」
「だから俺はしてないって!」

 先程と同じような問答が続くが、美奈子のクレーム処理は最初の受付嬢のやり取りと違い、相談として対話が成り立っていた。

「うーん、チェックインの予定時間に来られていれば、まだ何とかなっていたんですけどねぇ」
「いや……それは、用事があったから――」

 ホテル側にもしっかりとした本人確認をできていなかった問題はあるが、チェックインの予定時間を過ぎてもお客さんが現れなかった場合、キャンセル保留扱いになる。

 キャンセル待ちの人が居なければ翌日くらいまでは保留状態が続いていたものの、現在は見ての通りの大盛況。キャンセルの申し込みが無くとも、飛び込み宿泊の客に回されていた可能性はあった。

 ――という説明をしてご理解願おうとする美奈子に、潟辺はここが無理でも代替えの宿泊施設は無いのかと食い下がる。

 そこへ、受け付けカウンターの順番待ちをしていた客が割り込んだ。

「うるせえな、早くどけや」
「な、なんだよあんた……」

 見るからにガラの悪そうな恰好をした若者に凄まれて怯む潟辺。その相手はなんと宗近だった。取り巻きを連れた宗近は、潟辺を蔑むように睨みつけながら悪態を吐く。

「後がつかえてんだよ邪魔くせぇな」

 そう言って潟辺を押し退けた宗近は、シッシッと手を掃う仕草をしながら、予約しておいた最上階の部屋のキーを受け取った。

「ありがとうございます」
「おう」

 クレーム対応で困っていた美奈子は、キーを渡しながらお礼を口にする。それを耳にした潟辺が、内心に爆発するような強い憤りを抱いた。

(こっちは理不尽に被害受けてるのに、何横槍入れて来た輩に感謝してんだ!)

 次々と流れ始めた客の後ろに並び直す気にもなれない潟辺は、ホテルの受付嬢と宗近に憎悪を募らせつつ、既に部屋へ上がっているグループメンバーに携帯で連絡を取っている。
 メンバーの部屋に入り込めないか考えているようだった。


 そんな、ロビーでのちょっとしたトラブルを目撃したコウと美鈴は、とりあえず他に泊まれる場所も無さそうだと、野宿コースを決めた。

 コウが周囲の人々から集めた思考情報として、公園や広場で野宿する人が多いみたいだと美鈴に告げる。

「じゃあその公園に行ってみましょう」
「おっけー」

 そうしてコウ達がやって来た公園では、青年団のおじさん達が区画整理をしていた。

 町の宿泊施設が完全にキャパオーバーしてしまっているとの報告を聞いた町内会の幹部達が、緊急会議を開いて対策を話し合い、商店街に近い場所にある比較的大きい公園や広場の一画を、一時的に野宿できる場所として開放する事を決めたようだ。

「――ってことらしいよ」
「あら、なかなか柔軟ね」

 これ幸いと、コウ達は場所を確保してテントを張った。
 臨時駐車場のように線を引いて区切られた枠内に、立派な大型テントが鎮座する。周囲を見渡しても、このサイズのしっかりしたテントは他にない。
 段ボールハウスなお隣から『準備いいなぁ』とか感心されたり羨まれたり。

「ふう、結構時間取っちゃったわね」
「もう暗くなってきたね」

 時刻はすっかり夕方。テントの中に貴重品は置かず、(荷物の大半は異次元倉庫に入れている)着替えを持って商店街の銭湯へ向かった。

「コウ君、入り方は――問題無かったわね」
「参考にできる人はたくさん居るからね」

 初めて訪れる施設でも、扱う設備でも、使い慣れた人が近くに居ればその人の記憶から知識を拝借できる。深い読心能力の地味に便利なところでもあった。


 入り口で美鈴と別れ、脱衣所で服を脱いでいる時、コウの存在に意識を向ける誰かの思念を感じたのでそちらを振り返ると、道祖神の前で見たあの不思議な青年ケイだった。

 この時に、彼の記憶から件の分かれ道の先にある住宅街に民宿がある事を知る。銭湯を出た後、公園のテントに戻りながら美鈴にその事を話した。

「そっか、民宿かぁ」
「行ってみる?」

「そうね、選択に入れときましょ」

 軽く今後の予定を話し合った後、寝るにはまだ早いという事で、美鈴は早速明日からの取材の下準備を始めた。

 少し人もまばらになり始めた商店街に赴き、地元の人らしき通行人にインタビューを試みる。
 地元の住人か観光客かは、コウが思考を読んで判別し、それを美鈴に伝えて声を掛ける相手を選んでいるのだが、中々応じてもらえない。

 どうやら廃線イベントで訪れた人々に対する地元民の印象が悪いらしく、中には――

『子連れで撮り鉄なんかやってる小娘が記者の真似事か』

 ――などと、内心で悪態を吐く人も少なくなかった。

 そうして何人目かに選んだ地元民で、コウが『あの人はねらい目』と、一人の若い女性に目を付けた。その相手は、ホテルのヘルプから帰宅途中の美奈子であった。

 最初は胡散臭そうにしていたが、名刺を貰ってちゃんとした雑誌の記者らしいと判断した美奈子は、美鈴のインタビューに応じてくれた。
 それまでは名刺の受け取りすら拒否されていたので、美鈴もほっとしていた。


 何とか取材を終えて、コウ達は公園のテントへ戻って来た。

「あの人、民宿の人だから」
「わっ、そうだったんだ?」

 明日、ホテルの様子を見てダメなら民宿を訊ねようと予定を立て、今日はそのまま就寝となった。美鈴は眠りに就いたが、コウは朝まで何をして過ごそうかと考える。

 野宿組に開放された公園と広場は青年団のおじさん達が見回りをしているが、ちらほらとトラブルや騒ぎが起きているようで、あまり治安がよろしくないように思えた。

(美鈴をおいたまま遊びにはいけないかな)

 冒険者らしく朝まで寝ずの番でもしようと、テントの入り口前に陣取ったコウは、周囲を漂う思念に意識をそばだてた。


 翌朝。

「おはよう、コウ君。ずっとそこに居たの?」
「おはよー、周りの思考を拾ってたんだけど、朝まで賑やかだったよ」

 町の公園キャンプでワクワクしている思念に、寝付けず不満を抱いてる思念。野宿組に悪戯してやろうという悪ふざけの思念も多数。盗みを働こうとする悪意の思念もちらっと捉えていた。
 いずれも夜明け頃には静かになった。

 身嗜みを整えて早朝からやっているお店で朝食を済ませると、一度ホテルに出向いて空き部屋が出ていないか確認する。

 しかし、昨日までと同じく満室のまま。受付嬢の内心を読んでみると、空きが出ても他の高額で泊まる団体客を優先しているようだった。

「やっぱり無理みたいね」
「じゃあ民宿にいこう」

 テントを畳む為に一旦公園へと戻る。ホテルを出る時、潟辺達のグループとすれ違った。

「急げ、バッテリーとメモリの交換を――」

 そんな話をしながら出掛けていく、どこか煤けて草臥くたびれた感のある潟辺と、眠そうにしているグループメンバー達。

 彼等の内心に意識を向けると、『深夜に特別車両が駅入りするらしいという噂の真偽は、七割ガセだろうが、もし本当だったら良い絵が撮れてる筈』という思考が読み取れた。
 駅と線路が見える場所に、自動撮影するカメラを設置してあるようだ。


 公園のテントを引き払ったコウと美鈴は、コウがケイや美奈子から読み取った民宿・万常次の位置情報を頼りに閑静な住宅街までやって来た。

 目的の民宿がある通りに差し掛かった時、その通りの先で騒ぎが起きていた。潟辺達が仕掛けていたカメラが盗まれたとか何とかで、近くにいた別のグループを疑っているらしい。

 青年団のおじさん達が間に入っているが、両者の言い争いはヒートアップする一方で、周囲には結構な人だかりができている。
 遂には制服の年配警察官も現れた。

 そんな騒ぎを遠目にしている時、件の民宿の玄関からケイと美奈子が顔を出して様子見している姿を捉えた。二人は、騒ぎの勢いが少し落ち着いたところで民宿の中に引っ込んだ。

「いこう」
「ううー、緊張してきた」

 コウは美鈴を促し、万常次の玄関を潜った。


「う~んお子さん連れですし、彩辻さんならいいかな?」

 昨日、取材のインタビューを通じて顔見知りになっていた事もあってか、美奈子は美鈴の宿泊の申し入れに少し考える素振りを見せるも、あっさりと許可を出した。

 美奈子の思考を読んで見れば、廃線関連で町を訪れている他のマナーの悪い観光客等に比べて、美鈴が礼儀を弁えた常識人であった事が、宿泊を認める大きな理由にあると分かった。

(ギャップ効果かな)

 コウはそんな事を思いながら、美鈴を部屋へと案内する美奈子の向こう、廊下の奥に立っているケイに目を向ける。
 何故か複数重なったように見える、不思議な気配を持つ青年。

 こちらに意識を向けているケイの近くに来た事で、コウは初めて彼の持つ特異な能力の全容を知る事となった。

(これ、同じ日付の記憶がダブってるんだ……イシガミサマ? 時の巫女?)

 じっと観察するコウに、屈んで目線を合わせたケイが声を掛ける。

「ん? どうしたのかな?」
「ケイって、変わってるね。そんな能力の人、初めて見たよ」

 コウは、ケイ自身も明確に認識していない彼の血筋、『時詠みの一族』もしくは『時渡りの一族』という巫女の系譜らしき性質を読み取った。




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