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よろずの冒険者編
第四十一話:真相苦虫エピローグ3
しおりを挟む一周目のコウが石神様を通じて残した記憶も、そろそろ終盤に差し掛かる。
商店街のホテルに泊まっているメンバーの部屋に盗聴器を仕掛けて会話を傍受していた潟辺は、そのメンバー達が宗近グループに襲撃された事を受けて、民宿・万常次を飛び出した。
潟辺の行動をずっと観察していたコウは、甲虫ゴーレムで後を追う。
そうしてホテルまでやって来た潟辺が入り口の自動ドアで足を止めたところへ、コウは急降下して上着のフード裏に張り付いた。
ホテルの受け付けには誰もおらず、ロビーの照明も消灯している。一応、非常灯は点いていた。受け付け裏のスタッフルームからは明かりが零れており、少し騒がしい。
エレベーターで潟辺のグループメンバーが泊まっている部屋の階へと上がる。
宗近達による乱闘騒ぎは廊下にまで響いており、緊張と憤りを高めた潟辺は懐のラバーナイフに意識を向けつつ、問題の部屋に向かった。
部屋の前には見張り役なのか宗近の取り巻きグループの若者が三人ほど屯しており、中の様子を伺いながらウロウロしては、集まったホテルの従業員に絡んでいる。
他の宿泊客から内線で通報を受け、騒ぎを聞いて駆け付けたホテルの従業員達だったが、ちょっかいを掛けて来る宗近の取り巻きグループに邪魔されて部屋に近付けないでいた。
そこへ潟辺が現れると、彼の顔を覚えていた取り巻きの一人が、部屋で暴れている宗近に大声で報せた。
「宗近さん! 居ました! 居ましたよ!」
コウが彼等の内心を読み取ってみれば、宗近の取り巻き達はこの状況を楽しんでいるらしく、半笑いでちらちらと潟辺に視線を向けながら、部屋の中に居る宗近と仲間達を呼び寄せる。
自分達が絶対的優位にあるという確信の元、対立する相手を甚振って楽しむ遊びの一環。そんな意識で活動に参加している。
二周目の時間軸でコウ達を囲んで来た時に読み取れた心理と同じであった。
一方で、グループメンバーの陰口を探る為に盗聴器まで仕掛けていた潟辺だが、ホテルの受付で抗議を邪魔された事から始まり、ベストポジションの乗っ取りや備品の横取りまでされ掛け、遂にはメンバーへの襲撃と、度重なる宗近からの干渉にとうとうブチ切れた形だ。
部屋の出入り口に陣取る宗近の取り巻きに向かって、据わった眼でズンズン歩いていく潟辺に、何か不穏な気配を感じたのかホテルの従業員達が思わず道を開ける。
宗近の取り巻き達は半笑い顔に少し緊張が交じり、未だ部屋で暴れている宗近と仲間に早く来るよう呼び掛けた。
潟辺が早足で寄りながら懐からラバーナイフを抜いた。それを見た宗近の取り巻き達は、揃って表情を強張らせる。
廊下の照明は薄暗く、光沢も薄いラバーナイフは黒鉄のナイフに見えたようだ。そうして、あと三メートルほどという距離に迫ったところで、潟辺が姿勢を低くしながらダッシュした。
「ひぃっ!」
「!……っ」
「――やばい、逃げろ」
宗近の取り巻き三人組は、それぞれ小さく悲鳴を上げたり息を呑んだり、ぼそりと呟いて隣の者の腕を叩いて促し、その場から走って逃げ出した。
コウがちらりと彼等の内心を読み取ってみたところ、潟辺達から撮影のベストポジションを横取りした時、その場に組まれていた撮影台も強奪しようとしたが、潟辺の力尽くの抵抗に合い断念。
その際に潟辺と宗近が揉み合いというか、二、三発の殴り合いになっており、割とガタイの良い潟辺が押し勝っていた、という情報が得られた。
宗近の取り巻きの中でも、武闘派寄りではなく太鼓持ち担当なこの三人組は、潟辺が自分達よりも強いという思い込みがあった。
そんな相手がナイフを構えて突っ込んで来たものだから、パニックを起こしたのも頷けるとコウは納得した。
出入り口の三人を脅かして退散させた潟辺は、ラバーナイフを仕舞って部屋に突入した。三人組の慌てふためいた姿に溜飲が下がったのか、少し冷静さが戻っている。
直ぐにスマホを取り出し、撮影を始めた。
部屋に乱入していたのは、宗近と彼を囲むスーツ姿の男三人に、取り巻きが二人。
若い取り巻きとは雰囲気の違う成人男性に、違和感を覚えたコウが彼等の記憶情報を読み取ったところ、宗近の祖父から派遣されているボディーガード兼お目付け役でもある事が分かった。
潟辺に気付いた彼等は、まだ興奮している宗近を諫めながら取り繕うように潟辺に声を掛ける。
「あー、君がこの子らのリーダーか?」
しかし、潟辺は彼等の呼び掛けを無視して自分のグループメンバーに声を掛けた。床に座ったりソファーの裏に立っていたりするメンバーに、ここでの出来事を確認する。
「撮った?」
「撮った」
「撮ってる」
「録音は?」
「した」
「進行中」
「通報も完了」
「よし、じゃあ病院で診断書もらおう」
「こっちで?」
「麓の町でもいいし、ここにあるならそっちで」
鼻血が出ているメンバーや、顔に痣ができているメンバーのアップ写真を撮ったりして、法的な反撃準備を進めていく。
(へ~、こういう時は凄く噛み合うんだなぁ)
コウは、潟辺のグループは非常時にこそグループとしての本領が発揮されるタイプのメンバー達なのだなと理解した。
通常時は何でも他者に任せて自分で決めない流された生き方をする怠惰なメンバーだが、本当の非常事態に陥るとスイッチが入るらしい。
万常次の庭での出来事など、自分達に非がある意識を持っている時は怠惰モードのまま、仲間の誰かが片付けてくれる事を期待してのらりくらりが基本のようだ。
普段は潟辺がその尻拭いをしている。
そして今回、どうやらその『のらりくらりの態度』が、宗近にとっては天然の煽り行動になっており、切れさせた原因らしい。
さておき、潟辺に無視された宗近達がまたぞろ吠え始める。
「おいゴラァ! なに無視しとんじゃガキコラォオ!?」
恫喝担当のスーツ男性が凄むが、非常時モード且つ被害者サイド確定で腹を括った潟辺達は、変な部分で強気に動いた。
「警察は呼んでるし、後で被害届けも出すんで、とりあえず部屋から出ていって?」
「ぁあ”!? なんじゃコラ! 舐めたくちきい――」
「あんた等を部屋に招いた覚えはないし、早く出ていって? あ、今も録音と録画してるんで。あんたのその恫喝もマイナスになるぞ?」
「……お前わかってんのか」
「早く出ていって?」
「分かってんのかお前、オイ」
「はいはい、何の事だか。早く出ていってくださーい」
「……」
大声で怒鳴る事に効果が無いので、睨み付けながら静かな脅し方に切り替えた恫喝役だったが、潟辺は全く動じず挑発気味に退室を促した。
恫喝役は、感情の赴くまま暴れる宗近と違い、脅したり威嚇しても「脅迫」や「恐喝」、「強要」にあたるような発言をしないよう気を付けているところが手慣れている。
手慣れているので態度には出していないが、彼等は内心で『かなり不味い状況だ』という認識を強めているのが分かった。
(ムネチカがもう手出しちゃってるからなぁ)
彼等もただ闇雲に怒鳴り込んで来たわけではなく、二周目の時間軸でコウ達に仕掛けようとした『都合の良い契約書』のような小物の用意はできていなかったが、それなりに作戦を考えていた。
撮影のベストポジション横取りの件で、潟辺に殴り負けてからすこぶる機嫌が悪い宗近を宥めるべく、出来るだけ優位な条件で示談なりの要求を突き付け、呑ませようという算段だった。
が、宗近の暴走と、潟辺達の思いのほか周到な対応で立場が悪くなった。
お目付け役の三人組は、潟辺達の事を社会的立場から見ても取るに足らない相手ではあるが、下手に構うと面倒な輩だと認識したようだ。
SNSなどを駆使されると、ただの一般人でも情報の拡散力は侮れない。
「……退くぞ」
このままでは、自分達の雇い主である北条代議士にまで飛び火して瑕疵になり兼ねないと判断したらしい。まだ荒れ狂っている宗近を宥めすかしながら部屋を出て行った。
宗近達が引き揚げてから、潟辺達はホテルの従業員や駆け付けた駐在さんとも少し話して騒動のあらましを説明した。
潟辺達の事情聴取を終えた駐在さんは、一応宗近達の話も聞きに上の階へと上がっていった。被害届云々はまた後日考える事にしたようだ。
「大丈夫か?」
「いや~、やべぇわアレ。マジで頭おかしいって」
「なー。にしてもトモちゃん、よくこのタイミングで来たね?」
「ああ、スマホが無いと思ったら、こっちで充電しっ放しだったの思い出してな」
潟辺はそう言って、部屋の隅に仕掛けたコンセント型盗聴器と共に、カムフラージュで置いていた充電中のスマホを回収した。
少し怪我人も出たが、乱暴者集団を追い返せた事で仲間意識が強まったのか、メンバーからの潟辺に対する不満が和らいでいる。
潟辺の上着のフード裏に潜むコウは、そんな彼等の様子を観察していた。
(なるほどー。こうやってギリギリ仲間の結束を繋いでたのかー)
潟辺のグループは、打算と欺瞞と偶然のイベントで空中分解せずに存続している。中々危うい綱渡り気味な関係である事は変わりないようだった。
その後、本当に診断書を貰いに行ったり被害届を出すのかという議題で少し打ち合わせをして、潟辺は万常次に戻った。
コウはホテルに残ろうか一緒に戻ろうか迷ったが、潟辺のグループメンバーは一度襲撃された事で宗近達への警戒感を強めている。
ホテル側も客同士の諍いで暴力沙汰など勘弁してほしいと、セキュリティーの意識レベルを上げているようなので、こっちは安全だと思えた。
宗近に関しては、彼を抑えているお目付け役がいるとはいえ、このまま大人しく引き下がっているかどうか怪しい。
なのでコウは、潟辺の上着のフード裏に潜んだまま万常次まで一緒に戻る事にした。
帰りの道中、潟辺の内心に浮かぶ思考を読み取ってみると。
盗聴がバレなかった事に安堵していたり、メンバーが自分を中傷する様子はついぞ聞けなかった事にモヤついたり。宗近達をやり込められた事に達成感や優越感を膨らませたりしていた。
特に、部屋の前に陣取っていた宗近の取り巻きをラバーナイフを構えての突進で脅かして逃走させたシーンは、繰り返し思い出しては興奮している。
そんな潟辺を生暖かく見守りながら万常次まで運ばれて来た甲虫なコウは、玄関を潜るところで潟辺の上着のフードから離れ、一階のトイレまで飛んで少年型に乗り換えた。
時刻は深夜0時を回ろうかという頃。しれっとトイレから出て部屋に戻ったコウは、周囲の思念を拾って何か変化はなかったか確認する。
(美鈴もケイも眠ってるみたいだ。カタベは盗聴器を片付けてから就寝かな)
民宿内で起きて活動している者の思念は見当たらない。周囲のほぼ全てが寝静まっている。
夜明けまでにはまだ少し時間があるので、コウはこの空いた時間で持ち物の整理でもしようと、精神体になって異次元倉庫内に入った。
この時の荷物整理は、概ね二周目の時間軸と同じ流れになった。一周目ではエイネリアを出していなかったので、レクティマと並んで待機用の椅子に座っている。
そうして小一時間ほど異次元倉庫内の整理を進めていたコウは、何やら攻撃的な思念が近付いて来るのを感じて作業を中断した。
(これは……ムネチカかな?)
怒りの感情を撒き散らしながら復讐心を募らせている思念と、愉悦の感情を伴いそれに付き従う思念が複数、こちらに近付いている。
夢幻甲虫に憑依して部屋の窓から外に出たコウは、思念が発せられている方向を注視した。
宗近が取り巻き達と共に現れた場所は、二周目の時間軸の時とほぼ同じ通りを挟んだ向かい側。建物の隙間を通る路地で、ずた袋から棒状の物体を取り出して取り巻きに渡している。
この時、一周目のコウが宗近から読み取ったのは、『大量の煙でびびらせてやる』という、脅かし目的による意趣返し的なイメージだった。
次々に点火しては投げ込んで来る宗近達。
どうやら複数台ある会社の車に常備している発炎筒から、期限切れで交換予定に纏められていた物を持ち出してきたらしい。
古くなっているせいか上手く点火しなかったり、投げた途中で消えたりする物もあった。
それらを一通り投擲し終えた宗近達は、万常次の塀の向こうから大量の白い煙が昇るのを見てその場を立ち去った。
コウは投げ込まれた筒を回収しようか迷ったが、宗近のイメージにあった通り煙しか出ないのであればあまり危険はなく、犯罪の証拠品なので無闇に触れない方が良いと判断。
このまま宗近達の後を追う事にした。
(――そうか、ここで間違えたんだな)
二周目のコウは最初から防衛の構えに入っていたし、発炎筒の知識も既に得ている。
が、一周目のこの時のコウは、投げ込んだ張本人である宗近のイメージを参照にした為、それらの危険性に気付かなかった。
そもそもが、宗近は『発煙筒』を投げたつもりだったのだ。
夢幻甲虫で宗近達の後を追い、彼等が泊まっている商店街のホテルの最上階部屋までついて来たコウは、そこでお目付け役達に叱られる宗近と、窓からの光景を見て判断ミスを悟った。
ホテルの部屋に戻って来て早々、宗近はお目付け役であるスーツ姿の三人に御小言を貰った。彼等の目を盗んで部屋を抜け出していたので、どこで何をしていたのかと執拗に問い質される。
それにうんざりした宗近は、代議士の祖父に何か言い付けられても面倒だからと、ちょっとした報復の悪戯を仕掛けて来ただけだと明かした。
宗近の『報復の悪戯』の内容を聞いたスーツ姿の三人は青褪めた。
「放火はヤバいでしょ! 何やってんですかあんたはっ!」
「ほ、放火なんかしてねぇ! ちょっと多目に煙焚いたダケだろ!」
普段から諫言は多いが、自分の事を『社長』と呼んで付き従っていた祖父の部下から、本気の怒声を浴びせられて面食らった宗近は、動揺しながら反論する。
「社長が持ち出したのは破棄予定の『発炎筒』です。車に常備してるのは『発煙筒』じゃない」
「はぁ? だから発煙筒だろ?」
「炎を発する筒の発炎筒です。社長が言ってるのは煙を発する筒のほうです」
「は……、え?」
使用期限で処分予定のモノを数台分、纏めて袋に詰めてあった。お目付け役が乗って来た車の中に置いていたそれを、宗近が見つけた。
潟辺に何か報復をしたいと考えていた宗近は、取り巻き達が潟辺の宿泊先を突き止めて来たので、お目付け役の目を盗んで袋を持ち出し、中身を不法投棄して来たのだ。
どうやら本気で間違えていたらしいと確信したお目付け役達は、揃って頭を抱えたり溜め息を吐いたりして悩み始めるが、窓から夜景を見下ろしていた一人が呻くように呟いた。
「ああ……不味い――」
この部屋の窓からは仙洞谷町の全体が一望できる。駅に近い閑静な住宅街の一画から火の手が上がっている。
天井付近に張り付いてそれを見ていたコウは、急いで部屋を抜け出し、万常次へと引き返した。
民宿・万常次は古い木造の屋敷に増築を重ねた建物だった為か、火の回りは早く倒壊もあっという間だったらしい。
まだ消防車も到着しておらず、青年団のおじさん達を中心に近所の住人総出のバケツリレーで消火に当たっていた。
近くの路地裏で少年型に乗り換えたコウは、野次馬と消火活動中の人々でごった返す通りから、少し離れた空き地に設けられている避難所を目指す。
そこに避難していたのは、民宿・万常次の従業員や美奈子の家族達だった。
コウが美鈴やケイの姿を探していると、人混みの向こうに美鈴の思念を捉えられたのでそちらへ足を向ける。
「美鈴ー」
「あっ、コウ君!」
駐在さんと何か話していた美鈴に声を掛けた瞬間、美鈴の記憶情報から彼女が強く意識を向けている内容が流れ込んで来た。
火事が起きた時、ケイが報せに来た事。避難誘導に来た美奈子が、潟辺に突き飛ばされて怪我を負った事。その美奈子に付き添ったケイが、屋敷の倒壊に巻き込まれた事など。
「私が出て直ぐ建物が傾き始めて……ケイ君が美奈子さんに肩を貸してて――」
「美鈴、おちついて」
親しくなった人が突然の災禍に見舞われた事で感情が昂っている美鈴は、全て伝えたい気持ちと伝えるべき内容の選別で心に渋滞を起こしている。
「事情は分かったから。美鈴に怪我が無くて良かった」
「――私、私も一緒に手を貸してれば……」
美鈴は、ケイから先に避難して応援を呼んで来るよう言われて従った事に、判断を間違えたのではないかと責任を感じているようだ。
「今回はボクのミスだ。美鈴は何も悪くないよ」
「……コウ君?」
動揺している美鈴を落ち着かせたコウは、万常次の避難民達を見渡して美奈子とケイの情報を探るが、目撃した者は居ないようだ。安否はもはや絶望的。
ケイが何かまだコウも把握していないような特殊能力を持っていて、それでどうにかして二人とも生き延びているかもしれないという希望的観測は、期待できそうになかった。
明け方。麓の町から駆け付けた応援の消防車の力もあり、民宿・万常次の火災はようやく鎮まった。ほぼ全焼しており、未だ煙の燻る敷地内には焼け残った屋敷の残骸が散乱している。
消防の火災調査が入る前に、コウは夢幻甲虫で鎮火後の敷地に入って飛び回り、ケイや美奈子の手掛かりを探す。
そうして玄関の辺りから少し奥まで入ったところ――丁度階段があったであろう場所に、人の形をした霊体らしき半透明の存在を見つけた。
読み取れた記憶情報から、美奈子の魂の残照である事が分かった。
(……)
どうやらこの場所で死んだらしい。焦げきっていない木片の散らばり具合から、恐らくこの残骸の下には遺体が焼け残っているのだろう。
美鈴から聞いていた話と、美奈子の霊体から得た情報を合わせると、屋敷が焼け落ちる直前まで彼女がケイに背負われていた事が分かった。
(なら、ケイもここに埋まってる筈だけど……)
ケイの霊体は見当たらないし、周囲に気配も感じない。彼の持つ能力は、死亡した際に発動する時間遡行だ。
(もしかして……初めて会った日にもどった?)
駅と町を繋ぐ小道の分岐点のところにある道祖神が、ケイの能力の発動起点である『石神様』と呼ばれる力場を形成しているという事も、ケイの記憶情報から推察している。
コウは、石神様の力場を利用すれば、ケイの記憶に触れる事で同じ時間軸に遡行できるのではないかと考えた。
やり方はケイの記憶を参照すれば何とかなる。周囲の情報を集めつつ焼け跡から空に上がったコウは、道祖神のある分かれ道まで移動すると、少年型に乗り換えて石神様の発動を試みた。
特別な血筋に刻まれた複数条件発動型の巫術。石神様を受け継いできた『時詠みの一族』もしくは『時渡りの一族』という、ケイ当人も事情に詳しくない古い巫女一族の術を再現する。
特定の模様を象った魔力を石神様に送り込むと、鈴の音のような響きが木霊した。コウの魔力を宿した石神様は何らかの力場を展開しているらしく、不思議な雰囲気を醸し出している。
しかし、コウが期待した現象は起きなかった。
(何か、少し惜しい感じ。時間を遡るには、もう一つ要素が足りないみたいだ……)
どうやら発動は出来たものの、この時間軸でのコウの記憶を残せただけのようだ。
ここにケイの記憶は既に無く、恐らくはケイの魂が記憶を残した三日前に遡行した時点で、この時間軸とは別の世界線に分岐して、繋がりが絶たれたのだろう。
三日前のあの時に同じく記憶を残していれば、コウにも遡行のチャンスはあったかもしれない。
(多分、ケイはやり直して今回とは違う結果になるように動いてるはず)
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「絶対に逃がさない」
とりあえず、朔耶に連絡を取る事を検討するコウは、美鈴のケアもしなくてはいけないので、避難所に戻るべくこの場を離れた。
――ここまでが、石神様を通じてケイの記憶に上乗せされていた、一周目のコウの記憶から読み取れた詳細であった。
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