迷宮遊戯

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穢れ山ダンジョン編

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 穢れ山ダンジョンの魔核は、最近の魔素の増え方に違和感を覚えていた。単純にここを訪れる冒険者が増えたのか、今までの倍近い量の魔素が常時流れ込んでくる。

 下層域で活動している冒険者の数は変わらないので、上層付近を出入りする冒険者の回転率が上がっていると思われた。

『活きの良いのが多い。近くに拠点を作られたか』

 魔素の糧にする冒険者は生かさず殺さず、常に疲労を抱えさせるくらいが丁度よい。あまり元気な状態で活動されると、冒険者が持ち帰る迷宮産の素材が魔素の吸収量を超えてしまう。

 ダンジョン内に発生させる魔物は勿論、特有の鉱石や薬草もタダではないのだ。相応の魔素を支払って生み出しているので、吸収量を超える素材を回収されては赤字になる。

『おい、迷宮核。上の眼を使って外の様子を調べろ』
「――」

 命令を受けた迷宮核が、このダンジョンのにある旧迷宮跡に魔素を注ぎ、随分前に閉じた中腹の入り口にを作り出した。

 通常、地下深くに潜んでいる迷宮核や魔核が外界の様子を探る場合、ダンジョンの出入り口に視点を置き、そこから見える範囲しか調べる事が出来ない。
 例外として、ダンジョン周辺の瘴気濃度が一定量に達すると魔物をダンジョンの外まで放てるようになり、その魔物の視点で外界を見る事が可能だ。

 穢れ山ダンジョンは少し構造が変わっており、現在の安定した状態になるまでに一度喰い合いをしている。

 この山に最初に魔核が生まれたのは中腹の瘴気に満ちた洞穴で、そこにダンジョンが発生した。

 元々はこの辺りに住む原住民たちの土着信仰に関連した祭壇が祭られていたのだが、呪術的な生け贄の儀式が瘴気を生み出していたようだ。

 中腹のダンジョンは、原住民たちに修練と恵みをもたらす信仰の象徴として崇められていた。

 この地が大国の侵略を受けて原住民が居なくなると、大国が管理する資源採掘用ダンジョンの一つとして開放され、一攫千金を夢見る冒険者たちが押し寄せるようになった。

 そしてある時期、族滅の憂いにあった原住民の生き残りが、最期の儀式で侵略者の大国に一矢を報いようと強力な呪術を放ち、大量の瘴気を発生させた。
 結果、穢れ山の麓に新たな魔核が生まれる事となった。

 裾野が広い分、麓の方が環境的にも多くの魔素を得られる。

 中腹のダンジョンはあまり大きくはない山の中に迷宮を設けていたので拡張性に乏しく、多くの冒険者が訪れては大量の資源を採掘していく為、慢性的に魔素が不足する事態に陥っていた。

 そんな中、新たな出入り口を開いた麓のダンジョンは、中腹のダンジョンの瘴気に引き寄せられてくる魔獣を取り込む横取りなどして力を蓄えていった。

 迷宮も山の麓から地下へと伸ばす本命は暫く通路を繋がず隠しつつ、上の中腹のダンジョンに繋いで侵食を開始。

 冒険者たちは登るのが大変な中腹の入り口よりも麓の入り口から入り、麓のダンジョンに魔素を落としながら中腹のダンジョンから資源を採掘していった。

 そうして、数年も経たないうちに力を逆転させた麓のダンジョンは、疲弊した中腹のダンジョンを呑み込んだのだ。

 元原住民の魂が入っていたらしい迷宮核を吸収し、中腹の魔核を支配下に置いた麓の魔核は、中腹のダンジョンを封鎖して麓から地下へと広がる自分のダンジョンを開通させた。

 ただ、封鎖してもダンジョンはそのままになっているので、魔素を通せば今でも使える。
 中腹の出入り口は閉じたままだが、何でもよいので視点の元になるダンジョン産の物体を置いて意識を向ければ、そこから山の麓全域を見下ろせるのだ。

 前回、麓の出入り口周辺を見下ろしてから何年経っただろうか。
 また魔素の元人間たちらが性懲りもなく拠点を作ったのなら、少し強めに瘴気を発して魔獣を呼び寄せ、動物を狂暴化させ、麓周辺の瘴気濃度だけを上げてダンジョンの魔物を放つ。

 範囲を麓の出入り口周辺に絞った極小規模なスタンピードでも起こせば、それで元の開けた空き地に戻るだろう。
 この地に人の拠点が立つ度に、そうやって潰してきた。

 麓ダンジョンの魔核の視界に、外の様子が映される。

『…………なんだ、これは』

 ダンジョンの出入り口前に広がる空き地には、見慣れた粗末なテント群や、くたびれたあばら屋ではなく、石造りの建物が何棟も連なる立派な街が出現していた。


 暫し呆けていた麓の魔核は、我に返ると迷宮核に出入り口付近の瘴気濃度を上げるよう指示を出した。

 人間の文明は進化や変化が速い。工夫と適応力の塊のような生命体である事は、麓の迷宮核もこの何十年もの付き合い・・・・で理解している。

 短期間で拠点を構築できるほど運搬や建築技術が上がったのかもしれない。どこか他の地域で生まれた技術を、あっという間に全体まで広げるのが人間という生命体の特徴だ。

『とりあえずこの街を潰して人間の休息場所を消さなければ。おい、まだか!』

 魔物を外に放てるだけの瘴気が足りていない。周辺から呼び寄せる魔獣は街全体を囲う防壁に阻まれて近づいて来られない。

 ダンジョンの様子が変わった事に気づいた冒険者たちの動きが活発になった。
 上層で活動していた活きの良い未熟な冒険者たちが、危険を感じたらしく一斉に外へと移動を始めている。

 出入り口周辺に絞った極小規模なスタンピードを起こすために魔物の発生速度を上げているが、連鎖的な魔素吸収が起きていないので、上手く躱されているようだ。

『上層にも生命力反応の大きな冒険者が何人か居る。未熟な冒険者の引率か』

 浅い層に発生させられる低級な魔物では、下層まで降りてこられる熟練冒険者に太刀打ちできない。
 局地的スタンピード前に景気づけの未熟な冒険者大量狩りは、空振りに終わりそうだった。

『やはりダンジョンの近くに拠点を作られるのは良くないな』

 何十年と存在し続けている古いダンジョンは、吸収した冒険者から得た知識で外の世界の事にもある程度精通している。

 ダンジョンを囲って街の一部に据えた事で、恒久的に資源を採掘できる環境を得て、大きな国に発展した街の事なども知っている。

 魔核にとっては、魔道具の動力源として魔力を吸い出し続けられるのとそう大差ない、人間に飼われているような在り方だ。

『我はそうはならない。搾取するのは我の側だ』

 とはいえ、少し目を離している間にあれほど大きな街が作られていた事には危機感を覚える。
 あの街に関する知識が自分の中に無いという事は、街が作られ始めてから現在までに、吸収できた冒険者が居ないか、極端に少ないという事。

 流石にあの規模の街が数年も経たずに作られるとは思えない。今ダンジョン内に居る冒険者を十数人も吸収できれば、街の詳しい知識が得られる筈。

『下層の魔物を上層に差し向ける。専用通路を開け。瘴気濃度を上げ続けろ』

 迷宮核に指示を出して中層のフロアボス級の魔物を下層エリアに発生させると、普段は瘴気漏れを起こさないように遮断している上層階への直通路を繋いで、冒険者狩りに向かわせた。

「――」
『何? 外の瘴気が増えないだと?』

 迷宮核からの報告によると、出入り口前の街全体に放った瘴気が、ことごとく吸収されてしまうのだとか。

『吸収? 神聖力による浄化ではないのか?』
「――」

 魔の源である瘴気とは真逆の特性を持つ、神聖力を使って瘴気を祓う人間が居る事は知っているが、吸収されているとはどういう事かと困惑する麓ダンジョンの魔核。

 人間がまた新しい魔導技術を作ったのかもしれない。新技術に対策を講じるにも知識が必要だ。現在の最新の知識を得るべく、とにかく新しい冒険者を吸収しなければならない。

 上層の未熟な冒険者たちは全て外に出てしまった。熟練冒険者が何人か残っているが、今向かわせている冒険者狩りに太刀打ちできるほどの生命力ではないようだ。

『よし、こいつらを逃がさないように入り口を塞ぐぞ』

 麓ダンジョンの魔核は、一度戦略を決めて作戦を立てれば、余程の想定外でも起きない限りその作戦を推し進める方針でこれまで上手くやって来た。

 ダンジョンの構造は一度固めた部分はあまり弄りたくないので、新たにトラップを設置するなどの間接・直接攻撃は選ばない。
 が、想定外の事態に対応するべく予め用意しておいた仕掛けを使う事に躊躇は無い。

 獲物を逃がさない為に出入り口を閉じるやり方は、ハッキリ言って悪手である。そのダンジョンに対する危険意識が高くなり、手頃な生命力の獲物が入って来なくなるからだ。

 しかし、今回に限っては知識を得る事を優先した。

 閉じ込められた熟練冒険者たちが、封鎖された出入り口前に集合している。それぞれ『焦燥』『畏怖』『諦観』といった心情が感じられた。

 下層で活動中の冒険者に大きな動きは見られない。今は休憩エリアの泉で休んでいるようだ。上層の異変には気付いていないようだった。

『こっちは定量の魔素供給源としてそのまま下層を徘徊させておくとして……――なんだ?』

 麓ダンジョンの魔核が、一向に瘴気濃度が上がらない街の様子に意識を向けたその時。封鎖された出入り口をこじ開けようと集まっていた冒険者たちが、道をあけるように脇へと寄った。

 そんな彼らが向ける視線の先に、太い石柱らしき物体が生えた。




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