迷宮遊戯

ヘロー天気

文字の大きさ
24 / 32
大舞踏会編

22

しおりを挟む




 テラコーヤ王国中から集まる領主達を迎えるべく、ハイスーク領の隣の領地近くまで領域化街道を延ばした街づくり好きな迷宮核。

 先日の夜、ハイスーク領に一番乗りした比較的少数の貴族家一行は、なかなかに魔素の吸収量が多かった。

 小さな領を治める中堅貴族だったようだが、王都の周辺に領地を構えていられるだけあってか、実は結構高貴な血筋なのかもしれない。

 その後も何組かの少数編成の領主一行が到着したので、それぞれ休憩屋敷を提供した。彼らの魔素吸収量は、一般的な貴族のそれと大差なかった。

「お、今日はかなりの大所帯が上がって来てるな。流石に入り口付近のサービスエリアはスルーするか」

 領域化街道の効果で移動速度が上がるので、一日の移動距離も伸びる。
 朝早くに出発した先行組がハイスークの旧領都に到着する頃には、十数台編成の大馬車隊が領域化街道に入って来た。

 ハイスークの領主が正規軍を連れて来た時のような勢いで魔素が増えていく。野営前提の編成で来ている彼らは、街道入り口の近くに設けてあるサービスエリアには寄らずに進んだ。

「隣の領地の街で休めたグループは一気に中頃まで来そうだな」

 おおよその移動距離を予測して大所帯向けの臨時サービスエリアを新たに設けておく。続々と列を成して領域化街道に上がって来る馬車隊集団のお陰で、魔素は十分に足りていた。


『――』
「ん? ああ、そこはこのギミックで切り替えるんだ。基本は幻影だから環境は弄らなくていいよ」

 ハイスークの新領都、穢れ山城塞街を管理している中腹の魔核から、城内の一角に設けられた大舞踏会場の装置について尋ねられた街づくり好きな迷宮核は、動作の説明をして指示を出す。

 城塞街の管理にも慣れて余裕が出て来たようなので、大舞踏会の運営も一部手伝ってもらうのだ。

 大舞踏会はハイスークの領主と運営スタッフが中心になって進めるので、街づくり好きな迷宮核は彼らとの連携をはかりながら、その舞台作りとイベント進行を集中的に補佐する。
 中腹の魔核は街と城の一括管理業務を担いながらそれらを手伝う感じである。

「来訪者達が街に居る間は地下施設の利用者も増えるだろうから、そっちの調整も頼むぞ」

『――』
『まあ、よかろう』

 中腹の魔核と麓の魔核が揃って了承で応える。
 現在、元穢れ山の地下迷宮は、街づくり好きな迷宮核による大改装魔改造が終わり、冒険者育成センターとして生まれ変わった。

 『穢れ山迷宮ランド』

 初心者から熟練者まで、幅広く利用できる総合訓練施設。
 ありとあらゆる環境とシチュエーションを再現し、実戦さながらの戦闘訓練のほか、罠の設置や解除、仕掛けの謎解き、仲間との連携、閉じ込められた部屋からの脱出など、様々なニーズに応えられる。

 そしてこの訓練施設の運営を管理するのが、麓の魔核である。城塞街とは繋がっているものの、完全に独立した別区画という扱いで運用される。あくまで便宜上だが。

 施設は各フロア毎に複数の区画が用意され、それぞれ戦闘区画、走破区画など、訓練内容によって分かれる。

 例えば罠専門の区画は、罠の発見や解除、回避方法の訓練を目的とした部屋が連なる。
 最初はノッペリした床にこれ見よがしに設置されている罠の解除という簡単な部屋から始まり、徐々に見つけにくく、解除しにくくなる。

 解除不可な罠をどうやり過ごすか。安全に発動させて無効化したり、発動しないように回避したり、いかに突破するかはスカウト役の腕とセンスが問われる。

 戦闘訓練の区画は、お馴染みの案山子が置いてあるだけの部屋から始まって、案山子が動く、防御する、反撃して来る等の段階を経て、本物の魔物との戦闘にまで挑める。

 最初のフロアを攻略すれば、一段階難易度が上がる下層のフロアに行けるようになる。
 各部屋を突破するたびに、攻略証明書代わりの『クリアメダル』が個人ごとに発行され、このメダルがあれば、攻略したフロアまでの直通転移陣を使える仕組みになっている。


 この『クリアメダル』は発行する際、受け取った人物に『本人登録』の紐づけがされるので、他人のメダルで直通転移陣を使う事はできない仕様にしてある。
 ――ちなみに、本人登録の仕組みだが、ダンジョン産の武具や装飾品にもよく使われる『呪い』のトラップを使用している。

 手放しても勝手に戻って来るくらいで、特に何のデバフもない無害な呪いに攻略状況を書き込む事で、持ち主の個人情報を管理できるように組み上げた。
 単純な呪いなのでうっかり浄化系の魔法で祓われないよう、超強力な呪力が込められている。


 挑んだ部屋に見合った報酬がもらえるようになっているので、一獲千金を目指す冒険者も、名声を求める冒険者も、小遣い稼ぎ目的の一般民さえ相応の収入が得られる。

 娯楽と労働を融合させたような施設。これから来訪する大舞踏会の参加者達を含め、その護衛や使用人など、多くの人間が地下施設を訪れるはず。
 そして、その大多数が荒事とは無縁の人達であろうと、街づくり好きな迷宮核は予測していた。

「大舞踏会の関係者が利用する時は、多少の便宜を図ってやってくれな」
『我に手を抜けと?』

 ぬるい訓練だからとて、特定の相手をわざと勝たせるような真似に意義を見出せない麓の魔核が険しい反応を見せるが、街づくり好きな迷宮核は『接待も戦略のひとつだ』と説得する。

「最初に成功体験を覚えれば、リピーターになりやすいだろ」
『……ほぅ、そうやってここに通わざるを得ない身体にするわけか』

 麓の魔核は感心した。確かにそれなら、通常のダンジョン運営で行われる、魔素から生み出した素材――迷宮産の品々で獲物を釣るのと同じ効果が得られる。
 しかも相手に渡す素材の量はこちら側で管理できるのだ。吸収する魔素量を超える素材を持ち出されて赤字になる事もない。

『なるほど。西のあやつから聞いていたが、なかなかに腹黒いではないか』
「えー……これ腹黒いか?」

 西の森の魔核に続いて、麓の魔核からも『実は腹黒い迷宮核』認定されて、地味にダメージを受けている街づくり好きな迷宮核なのであった。



 ※ ※


 ハイスークの新領都には、大舞踏会が開催される十日前頃から続々と各地の領主一行が到着し始めた。

 馬車が六台は並んで通れそうなほど広い正面の大通り。中央には分離帯があり、背の高い街灯が並んでいる。
 この道は片側三車線の左側通行のルールが設けられていた。

「こ、ここがハイスークの新しい領都……」
「なんて大きさだ、まるで王都カンソン――いや、それ以上だ」
「それにあの城、まるで要塞の中に建っているみたいじゃないか」

 穢れ山ダンジョンの入り口があった南側には、異様に発展した活気ある城下街が広がっていた。
 街道を進んでいる時に、街の高い防壁越しでも山の上に立つ城の姿は見えていたが、街の中に入るとその全貌が明らかになる。
 城の周囲を何重にも覆う側防塔付きの重厚な防壁は、まさに難攻不落の城塞を印象付けた。

 そんな防壁を見上げながら長い蛇行道を登りきると、美しい城壁に囲まれた巨大な城にたどり着く。芸術品のような城門は開かれており、門番の騎士からはそのまま中に進むよう促された。

「ようこそハイスーク領へ。長い道中、お疲れ様でした。皆様には部屋をご用意しておりますので、こちらへどうぞ」

 出迎えた執事紳士と使用人達に案内され、領主一行は客間のある棟へと移動した。
 大舞踏会の参加者は、領主一家の関係者であれば、全員城の客室に宿泊できるようハイスークの領主が取り計らっていた。

「転移陣で移動するのなんて初めてだ」
「この城、そこら中に転移陣がありますよ」
「流石はダンジョン卿の城……」
「おいっ、その俗称は失礼にあたるかもしれないから、ここでは控えろ!」

 城の中に入るのに巨大転移陣を使う事にも驚いたが、エントランスから客間がある棟への移動にも城内転移陣が使われている。

 同じテラコーヤ王国内の一領地とは思えない、あまりに隔絶された世界に、客人の領主一行は動揺を隠せないでいた。


「こちらがお部屋になります。舞踏会の当日まで、どうぞごゆっくりお過ごしください」

 城に宿泊したいずれの領主一行も、あてがわれた部屋には大変満足したそうな。




しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)

緋色牡丹
ファンタジー
生きる意味を見出せない三十二歳の男・山田緋色。 夏の夜、光の渦に呑まれ、彼が目を覚ましたのは――幻想の森だった。 壊れた愛車、知らない空、そして湖に浮かぶ青髪の少女。 異世界での出会いが、“止まった人生”を再び動かしていく。 異世界叙情ファンタジー、開幕── ※この小説は、小説家になろう、カクヨムにも同時掲載しています。 挿絵はAIイラストを使ったイメージ画像です。

異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件

おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。 最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する! しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。 その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。   その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。    近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。 更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?   何でもできるけど何度も失敗する。 成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。 様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?   誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!   2024/05/02改題しました。旧タイトル 『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』 2023/07/22改題しました。旧々タイトル 『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』 この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。  『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』  『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』  『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』  『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』

ダンジョン作成から始まる最強クラン

山椒
ファンタジー
ダンジョンが出現して数十年が経ち、ダンジョンがあることが日常となっていた。 そんな世界で五年前に起きた大規模魔物侵攻により心に傷を受けた青年がいた。 極力誰とも関わりを持たずにいた彼の住んでいる部屋に寝ている間にダンジョンが出現し、彼はそこに落ちた。 そのダンジョンは他に確認されていない自作するダンジョンであった。 ダンジョンとモンスターにトラウマを抱えつつもダンジョン作成を始めていく。 ただそのダンジョンは特別性であった。 ダンジョンが彼を、彼の大事な人を強くするダンジョンであった。

処理中です...