迷宮遊戯

ヘロー天気

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大舞踏会編

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 テラコーヤ王国で数年に一度開催される『王国功労賞』と、そこで序列1位をとった領地が担う、大規模な催し。国王一家も招いた、王国中の領主達が集う大舞踏会。

 前年までは、大領地派閥の領主達が寄与品を操作して常に上位を独占し、三大領地が持ち回りで大舞踏会を開いていた。

 その大領地の領主達から目の敵にされているハイスークの領主は、毎回アウェーとなる舞台でしょーもない嫌がらせを受けてきた。

 宿泊施設で不備のある部屋を当てがわれたり、間違った集合時間や場所を伝えられたりといった程度の低いものから、ちょっとシャレにならない下手をすれば領地間の戦争に至りそうな事まで。
 具体的には、ハイスーク領のテーブルにだけ『特別メニュー』と称して調理されていない魔物の生肉や血の盃が用意されていたりという、明確に侮辱している喧嘩を売る行為があった。

 この時は「何かの余興ですかやんのかこら?」というハイスーク領主の問いに、「ハイスークの領主殿は魔物の肉や血がお好きだとお聞きしていたので、コックが頑張りました」などとぼけた返答をしていた。

 が、元高ランク冒険者であったハイスーク領主の本気の威圧殺気は凄まじく、近くに居た貴婦人や令嬢、令息達から何人か気絶する者がでたほど。
 流石にまずいと思ったのか、この件については主催者の大領地領主から直接謝罪がなされた。

 それ以降、明確に喧嘩を売るような嫌がらせは無くなったが、代わりにしょーもない嫌がらせは続いていたのだ。

 今回はハイスーク領での開催となり、大領地派閥の領主達は内心恐々としているかもしれない。


 そんな大舞踏会の舞台となる城内の大ホール会場の入り口前にて、ハイスークの領主と側近は最後の打ち合わせを行っていた。

「さて、いよいよか」
「準備は全て整っています。例の件に関しても、声を掛ける予定の領地を選定しましたが……」

「ああ、そっちは舞踏会の最中に様子を見ながら進めよう」
「畏まりました」

 側近が大舞踏会の進行表と、とある計画に関する資料を整理しながら「そろそろ時間ですね」と開催時刻を告げる。


 変わり者のダンジョンと相談しつつ、城内に用意してもらった特別会場。今宵はテラコーヤ王国の歴史上、規模も質も類を見ない大舞踏会にするつもりだ。

 大ホールの扉が開かれ、ハイスークの領主は客人を歓迎するべく扉付近で側近と共に待機。各領地から集まった参加者達の会場入りを待つ事となった。



 基本的に、貴族達は見栄張りである。大きな催しともなれば、より趣向を凝らしたものが好まれる。
 これまで、大領地派閥の領主達が手掛けてきた大舞踏会の中でも、特に名高い珍しい趣向の演出は、タイナンゴ領の森を切り拓いて造られた、ジャングルに見立てた森林舞台。
 フナトバ領の海岸を大量の浮橋で埋めて造られた、巨大な船上に見立てた海上舞台。レイフィールド領の広大な生花農園に設けられた、花畑舞台などがある。

 いずれも結構な費用が掛かっており、インパクトもあって舞踏会参加者達には好評だった。


 今回、初めてハイスーク領が主催する大舞踏会だが、舞台は至ってシンプルな大ホール。調度品は殆ど置かれていない、ドーム状の白い空間が広がっていた。

 既に多くの参加者が会場入りしており、開催宣言前のこの時間、各々が親交のある家と雑談に興じたりしている。

 演奏を担当する楽団の席は随分遠いが、音はしっかり全体に響き渡っていて、細かいところにもダンジョンの技術が使われている事が分かった。

 ダンスを踊る中央のエリアを囲むように、雑談や食事を楽しむエリアが半円状に設けられ、壁際には休憩用のベンチもある。

 王族が座る席は少し高くなった壇上にあり、その斜め上後方には巨大な垂れ幕か横断幕のようなものが三つ、天井からつり下がっているのだが、そこには何も描かれていない真っ白な無地。
 これが装飾の類なのか、音響や空調の仕掛けなのか、参加者の中に分かる者はいなかった。

「飾り気のない会場はちと大人しい地味だが、まあ初めてなら伝統的なダンスホールに倣うのが無難なところか」
「いやいやぁ、ハイスークの領主殿は派手好きと聞きますぞ? 何か演出があるに違いない」

「それよりもこのテーブルとカップを見たまえよ、これらも迷宮産の家具なのだろうか」
「少なくとも、私はこのような魔道具は聞いたことがない。ハイスークの迷宮特産品として売りに出されるなら、ぜひとも手に入れたいですな」

 白のテーブルクロスに包まれた丸いパーティーテーブルの上には、軽食や飲み物、果物などが添えられているのだが、それらの上に光の文字が浮かんでいる。
 内容は、その食べ物の原料、産地、調理者の名前、味の傾向、栄養価と安全性などが表記されていた。

 原料:葉物野菜・植物油・川魚切り身
 産地:サイカヤツ領南部農園
 調理者:城内専属料理長キルエガ・イッサ|副料理長ドコンド・ダウッソ
 味:甘辛
 栄養価:軽
 安全性:良

 こんな感じの文字が、その料理の上に浮かんでいるのだ。カップは中に液体を注ぐと、ふちにその液体の情報が浮かび上がる。鑑定機能付きカップは、毒の混入防止にも強そうだ。
 ちなみに、少量の毒素なら浄化する機能も付いている。

 参加者達が会場の備品に関心を向けている間に開催時間となり、国王の入場が告げられた。

「国王陛下、ご入場!」

 その瞬間、会場の風景が一変する。それまでただ白く広く、そしてなぜか明るい殺風景な空間だった大ホールが、突然どこかの宮殿内のような荘厳な景色に変わった。

 黒曜石のような艶のある石質の床や柱に、金の装飾が映える重厚な輝き。国王の座る壇上の席には、どこからか差し込んだ光がベールのように降り注ぎ、神聖な雰囲気を醸し出している。

「おお……」
「これは、なんという……」
「あの陛下が、凛々しく見えますわ。あの陛下が」

 突然の舞台の変化には皆一様に驚きつつ、この城の事だからまたどこか別の会場に転移したのでは? と考える者も居たが、会場自体は元の大ホールである事がすぐに分かった。

 見た目の風景は完全に別の場所だが、王族が着く壇の形や、楽団の居る位置、テーブルの並ぶ場所などが変わっていない事に気が付いたのだ。

 この不可思議な演出に感心している間に、国王の挨拶と開催宣言が行われる。

「皆の者、よく集まってくれた。今宵の大舞踏会も素晴らしいものになりそうで、喜ばしい限りだ」

 そんな国王の挨拶に、会場中の視線が釘付けになった。
 と言っても、それは国王の挨拶に対してではなく、国王の頭上、斜め上後方に下がる巨大横断幕ないし垂れ幕に視線が注がれていた。

 そこには、挨拶する国王の姿が大きく映し出されていたのだ。
 中央の巨大横断幕にはバストアップアングルの国王陛下。左右に並ぶ垂れ幕の片方には、王妃に王太子、王女といった王族一家の様子が。
 もう片方には、壇上の国王を見上げている会場の貴族達の様子が流れていく。

 今自分が映った! と思わず反応している様子も映し出され、初めて見るライブ映像に貴族達は興味津々であった。

「それでは、これより大舞踏会の開催を宣言する! 皆楽しもうではないか!」

 ほとんど聞き流されていた国王の挨拶が終わり、大舞踏会の開催が告げられた。ライブ映像のお陰で誰一人遅れることなく拍手を送り、会場は喝采に包まれた。満足そうな国王陛下。

 そうしてまずは国王と王妃のファーストダンスが披露されるのだが、会場全体の明かりが絞られ、ダンスフロアに下りた国王と王妃はスポットライトに照らされた。

 演奏が流れ、二人が踊り始めると、フロアに光の粒が浮かび上がる。二人がステップを踏むたびに光の粒が舞う光景は、実に幻想的であった。

 この様子も巨大横断幕中央スクリーンに映し出されており、飛び交う光の粒の中で優雅な笑みを浮かべて踊る二人のクローズアップという、通常ならまず見る事の出来ないアングルに、令嬢達がうっとりしていた。



 ※ ※


「よしよし、掴みはバッチリだな」

 大舞踏会場の演出とイベント進行の補佐を担当している街づくり好きな迷宮核は、会場に居る参加者のほとんどが『興味』『憧憬』『喜楽』の感情を浮かべているのを確認して成功を確信した。

 一部、城内を隠密の技能を使って歩き回っている者もいるが、こちらはハイスーク領主の想定内なので、場所を連絡すれば彼らが対処する事になっている。

 あまりに悪質な悪戯工作をするようであれば、そちらで処理して欲しいとも頼まれていたが、今のところ目くじらを立てるほどの動きをする諜報員は見られない。

「プロジェクションマッピングを参考にした会場の瞬間模様替え演出もうまく行ってるし、これならこの後のプログラムも問題ないだろう」

『人の催しの事はともかくとして、この大量に作った管状のゴーレムはどうするのだ?』
「それの出番はまだ先だよ。領主さんの交渉次第だな」

『例の策か。本当にそのような回りくどいやり方が必要なのか?』

 西の森の魔核は、街づくり好きな迷宮核がハイスークの領主に持ち掛けた提案について疑問を呈した。今まで通りのやり方で領域化を拡げて行くのではダメなのか? と。
 真っ当なダンジョンを作らせる事は既に諦めた。

「面倒でも信頼を得る為には、ちゃんと手順を踏まなきゃね」
『人の信頼など――』

 魔素の足しにもならないと懐疑的な西の森の魔核だったが、街づくり好きな迷宮核のやる事ならきっとうまく行くのだろうと、これまでの実績を鑑みてそれ以上の不満は覚えなかった。

『――?』
「うん? どうした?」

『いや、問題ない』
「?」

 当人魔核はそれが無意識に信頼を寄せているが故に至った結論だとは、気付いていなかったが。



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