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限界領地改革編
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しおりを挟むハイスーク領と同盟関係を結び、イレギュラーダンジョンの異界化環境による領地改革を受け入れたゼイラーロフ領。
異界化による大地の異変が始まってまず、河川一帯が近隣の領地と比べて超越した水準の治水技術で整備された。
現在進行形で川周りの整備が続いている状況の中、集まった住民達は魔導艇や魔導運搬船を前に悲喜こもごもな反応を見せている。
若者達は新しい凄い船がたくさん並ぶ光景に興奮しているが、熟年者達はそもそも自分達がこれらの船に手を出していいのかと迷っている。
「なんでだよ? 俺らに使わせる為に用意されたんだろ?」
「その辺りは、ハッキリするまで勝手に触れない方がいい」
ここはゼイラーロフ領の川だぜと主張する若者達に、魔導艇の価値を知る熟年者は超高級品を前にした及び腰で慎重な行動を呼びかけた。
そこへ、領主の使いの者が現れた。
「あ、領主様のお屋敷の人だ」
「ほんとだ。おーい、領主様から何か発表があるらしいぞー!」
堤防や突堤、桟橋に散らばっていた住民達がわらわらと集まってくる。
「あー、皆さん揃っているようで丁度いいですね。これより、領主様からの告示を伝えます」
最近新しく建った領主の屋敷から来た、使いの者より伝えられた告示の内容は以下の通り。
ここにある魔導船は自由に使って構わないので、領民はしばらく漁をして食いつなぐように。
今後、両隣の領や川で繋がっている他領との交易を始める。それに伴い、中型運搬船を動かせる者と労働力の船員を雇うので、操船技術や参加の意思ある者は申し出るように。
他領との交渉は領主の屋敷に勤めている者から責任者と代表を出すので、その者達の指示に従って働いてほしい。
「まずは作物の種を輸入します。その際は屋敷の庭園で採れた果物も売りに行くので、積み込みの人員も雇います」
件の屋敷が建ってから、一晩で裏庭に果樹園ができたのだが、ハイスーク領の西端の森でしか採れないと言われていた果実が生っていた。
この果実は今、王都でも人気で、どこも品薄状態らしい。
「報酬は最初は遅れますが、すぐに利益が出るはずなので、そうお待たせする事はないでしょう」
「ひとつ聞いていいか?」
「どうぞ」
住民の一人が、告示の内容に引っ掛かる事があると言って質問する。
「種の輸入も果実の売り込みも、わざわざ船を使わなくても王都に行けばいいんじゃないのか?」
それを聞いた他の住民達も、言われてみれば確かにそうだという反応を示した。これに対して、使いの者は想定していた質問だったらしく、一つ頷いて答える。
「ダンジョンの環境を受け入れる条件の一つに、我が領はしばらく王都との交流を控えて欲しいと、ハイスークの領主様より要望がありました」
「交流を控えるって……?」
「なるべく王都には出入りして欲しくないという事です」
ハイスークの領主の意図は分からないが、王都カンソンにもダンジョンがある。ダンジョン同士が近付くと喰い合いが起こると言われているので、何かその辺りの事情があるのかもしれない。
「そういう訳ですので、種の輸入も果実の販売も、川を使って近隣の領地を頼る事になります」
「なるほどな。理解した」
その後も、使いの者と住民達との間でいくつかの質問と注意事項などのやり取りがなされ、ゼイラーロフ領のこれからの改革方針が周知、共有された。
「ああ、それから魔導艇や中型魔導運搬船に関わるトラブルの対処法についてですが――」
ゼイラーロフの領民は自由に使ってよい事になっているが、あれらは全てハイスークの領主からお借りしている事になっている。
「なのでもし、よその領地で魔導船について何か問われたなら、そのように答えてください。貴族が売却や譲渡を迫って来た場合も、そう言って断るように」
そうして、ゼイラーロフ領を立て直す改革事業が始まった。
領主の屋敷の裏庭に出現した果樹園で採れた迷宮産果実を輸出し、川沿いにある近隣の領地から作物の種や苗を輸入する。
領民の食事はダンジョンと接続してから急激に収穫量が増えた芋と、川で漁をして得た魚。同じく収穫量がおかしな事になっている領主の屋敷の庭の菜園から採れる野菜たちだ。
今なお街の異界化に伴う異変は続いており、轍と水たまりでぬかるんでいた道は均されて石畳が敷かれ、道脇には魔鉱石の街灯が並んでいる。
廃材の掘っ立て小屋と、廃墟を利用した粗末な家々は撤去され、代わりに立派な石造りの家が軒を連ねていた。
全ての家に空調や上下水道は当然ながら厠と浴槽まで完備されており、安全で快適な暮らしは人々を心身ともに健康体へと導く。
領主の屋敷も含めて、各家々や道に至るまで、ゼイラーロフ領の建造物はダンジョンの一部として存在しているので、基本的に汚れないし壊れない。
ゼイラーロフ領内で大きな異変が落ち着いた頃には、寂れた集落のようだった居住区が、領都と呼んで申し分ない規模の立派な街に生まれ変わっていた。
領主館にダンジョンが接続されて、僅か二十日あまりの間の出来事であった。
※ ※
「よし、下地はできたし、あとは住民の力で軌道に乗せるだけだな」
ゼイラーロフ領の環境をスピード改革で再構築した街づくり好きな迷宮核は、ひとまず敷設作業を終了して観察モードに入った。
組み上げた街が今後どう発展していくのか。住民達はどのように暮らしているのかを眺めるのも、街づくりの醍醐味である。
『この街に随分と魔素をつぎ込んだようだが、元はとれるのだろうな?』
「王都周辺で手を付けられる領地が今はここだけだからね。初期投資は大きくしといた」
現状、ゼイラーロフ領から得られる総魔素量の五倍近い魔素を使ってここまで整えたのだ。是非とも順調に発展していって欲しいところである。
『それにしても、船に霊体の魔物を憑ける発想には感心した』
「ゴーレムにしても良かったんだけどね。自律行動させる必要が無いからコスト優先にしたんだ」
小型魔導艇と中型魔導運搬船には、ダンジョンの領域から離れても様子を見る事ができるように、霊体系の魔物を埋め込んである。
通常なら悪霊憑き物件となるところだが、遠隔視の為だけに憑かせているので『クリアメダル』のような呪いの装備と同じく、一切の害はない。
霊感の強い人が近づくと、少しぞわぞわする程度だ。
小型魔導艇を乗り回して漁をする若者達。上流の領地で果実を売り、農作物の種や苗を買って帰って来る中型運搬魔導船。徐々に広がり始める農地と、元気に畑を耕す領民達。
「順調だな」
ゼイラーロフ領が発展する様子を眺めながら、他の同盟契約をした領地の様子も順次確認していく。
屋敷の敷地内のみ領域化して生活サポートを受けている領地は、今のところ特に大きな動きもなく、屋敷内の快適度が満たされる度に、少しずつ要望が増えているくらいである。
屋敷の中に新しい設備を生やすには、吸収できる魔素量を増やさなければならない。
庭園に新しく木を植えたり花を整えたり、高貴な血筋や生命力の高い人材を雇い入れて敷地内に滞在させる事で多少増やせるが、限られた範囲では効果も限定的。
彼らはいずれ、もっと快適な環境を求める為に、屋敷の敷地外までの領域化を解禁するだろう。
街づくり好きな迷宮核の計画を知る魔核達から、やっぱり腹黒いと称賛されながら観察の日々を送っていたある日、中型魔導運搬船の魔物からトラブルを伝える映像が送られて来た。
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