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変わり者の迷宮核編
プロローグ
しおりを挟むリソースが足りない。
スペックが足りない。
もっとたくさん作りたいのに。
彼が現代世界で生きていた頃に、心を占めていた不満と願いがそれだった。
子供時代、初めて遊んだ街づくりのゲームに魅せられ、クラスメイトのゲーム友達が格闘ゲームやRPGで盛り上がっている時も、彼はひたすら街づくりゲームに勤しんだ。
成長し、自分でお金を稼げる年代になると、ゲーム機の街づくりソフトでは物足りず、パソコンで遊べる自由度の高い箱庭ゲームにのめり込んだ。
パーツを組み合わせて自らデザインしたオブジェクトを駆使し、世界に自分だけの完全オリジナルな街を作れる要素は彼を夢中にさせた。
ゲームのシナリオなどそっちのけで、とにかく街づくりに没頭。時折オンラインで公開される彼の街はあまりにも広大で、プレイヤーの間でもよく話題になっていた。
しかし、リソースを気にせず思うがままに作れば作るほど、膨らんでいく街の規模にパソコンのスペックも追い付かなくなって、処理落ちが始まり、最後はフリーズしてしまう。
自分の街を造りたい。もっと拡げたい。その強烈な渇望と欲求の心理が、彼を異界に引き寄せた。
常に拡大と成長を望む『魔核』と呼ばれる瘴気の塊。
ある程度の濃さを得た瘴気の塊が、多少でも知性を持つ生物の意思が混じった魔力溜まりに触れる事で稀に発生する魔核は、自らを成長させてくれる存在を次元の狭間から呼び寄せる。
『何処かの世界より招かれし先導者よ。あなたはダンジョンマスターに選ばれた』
「ダンジョン? 地下迷宮なんて興味ない。俺は街が作りたいんだ」
そんな拒絶の意思とは関係無く、彼にダンジョン育成の知識が流れ込んでくる。異界より呼び寄せられて『迷宮核』となった彼は、自らを中心に拡大、成長していく事を望まれていた。
「だから、迷宮なんて興味ないんだって」
『迷宮核の維持に必要なのは有機系魔素と無機系魔素。有機系魔素は迷宮核の影響下にある空間に生物が存在する事で得る事ができる』
無機系魔素はダンジョンの拡大によって組み込まれた新たな土地から吸収できる。良質の鉱床を含んでいたり、緑豊かな土地であるほど多くの無機系魔素を得られる。
強い生命力と高い魔力を内在した生物を吸収すれば、より多くの有機系魔素を得られる。吸収した魔素の量が増えれば増えるほど魔核の力も強くなり、迷宮核の影響範囲も拡がっていく。
「……うん? それ、別に地下迷宮にしなくてもいいんじゃないか?」
彼の意志を無視して続けられる知識の流入を受けているうち、彼は魔核を成長させる為の魔素を得る収集法がダンジョンの運営である必要性に疑問を感じた。
すると、その疑問に答えるかのように、この世界における魔核の価値に関する情報が流れ込んで来る。
巨大な宝石を模した魔核は非常に強い力を有しており、人々の暮らしを支える魔導製品全般を稼働させるエネルギー源として重宝される。
人間の手に堕ちた魔核は、内在する魔力が枯渇して空っぽの巨大宝石となり果てるまで、その力を吸われ続ける。
拡大と成長こそが自らの存在意義である魔核にとって、それは恐ろしい地獄。
故に自らを隠し、護ってくれる深い迷宮と、その迷宮を通じて大量の魔素を収集する事が出来る迷宮核によるダンジョンの運営は、魔核にとって必然の生存戦略であった。
迷宮核に呼び込まれる思考の素。人格や本能、精神といった『考える機能』は、引き寄せられた魂それぞれで、戦いを生業にしていた者や、政治を生業にしていた者など様々。
当たりを引けば巨大ダンジョンに育つし、ハズレを引けば早々に攻略されて人の手に堕ちる事に。
『迷宮核を置く空間を指定せよ』
魔核の案内らしき知識の流入が終わり、最後にダンジョンの起点を求められる。彼の意識に魔核周辺の地形が浮かび上がった。
彼を呼び寄せた魔核は、森に囲まれた空き地のような開けた空間の中心付近。枯れた泉の底に渦巻いていた。
ここにダンジョンの入り口を発生させようとしている魔核は、彼に対してまず地下深くに迷宮核を置く事で、安全に周囲から魔素を吸収して最初の成長の足掛かりにする事を推奨している。
どのダンジョンの迷宮核も、最初は皆そうして十数年ほど地下に潜り、無機系魔素を中心に微量の有機系魔素も吸収しながら力を蓄えるのだと。
ある程度の形が整ってから地上と接続し、生物を誘い込むダンジョンとして稼働し始める。
――しかし、彼はセオリーを無視するタイプだった。
「んなちんたらやってられるか、スタートダッシュが肝心だ!」
流れ込んだ知識の中に、迷宮構築の手順と必要な魔素量の項目を認めた彼は、これらを組み合わせる事で街づくりゲームと同じ事ができると気付いた。
凝った建物や施設を造るには相応の魔素が必要になるが、迷宮核の影響範囲を広げれば無機系魔素の吸収効率も上がるし、魅力的な街ができれば人も集まる。
有機系魔素は住人から摂取すれば良い。
彼は迷宮核を地上に置いた。枯れた泉の底に渦巻く魔核の、直ぐ傍に現れる迷宮核。
魔核が最初にその身を隠すべく造られる筈の地下空間は無く、困惑に揺らめく魔核と剥き出しの迷宮核が、すり鉢状の乾いた地面の上に並んで鎮座していた。
生まれたばかりの迷宮核を導こうとしていた魔核は、とんでもないハズレ魂を引いてしまったと、己が命運を悲観するのだった。
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