迷宮遊戯

ヘロー天気

文字の大きさ
1 / 32
変わり者の迷宮核編

プロローグ

しおりを挟む



 リソースが足りない。
 スペックが足りない。
 もっとたくさん作りたいのに。


 彼が現代世界で生きていた頃に、心を占めていた不満と願いがそれだった。
 子供時代、初めて遊んだ街づくりのゲームに魅せられ、クラスメイトのゲーム友達が格闘ゲームやRPGで盛り上がっている時も、彼はひたすら街づくりゲームに勤しんだ。

 成長し、自分でお金を稼げる年代になると、ゲーム機の街づくりソフトでは物足りず、パソコンで遊べる自由度の高い箱庭ゲームにのめり込んだ。

 パーツを組み合わせて自らデザインしたオブジェクトを駆使し、世界に自分だけの完全オリジナルな街を作れる要素は彼を夢中にさせた。
 ゲームのシナリオなどそっちのけで、とにかく街づくりに没頭。時折オンラインで公開される彼の街はあまりにも広大で、プレイヤーの間でもよく話題になっていた。

 しかし、リソースを気にせず思うがままに作れば作るほど、膨らんでいく街の規模データにパソコンのスペックも追い付かなくなって、処理落ちが始まり、最後はフリーズしてしまう。

 自分の街を造りたい。もっと拡げたい。その強烈な渇望と欲求の心理が、彼を異界に引き寄せた。


 常に拡大と成長を望む『魔核』と呼ばれる瘴気の塊。
 ある程度の濃さを得た瘴気の塊が、多少でも知性を持つ生物の意思が混じった魔力溜まりに触れる事で稀に発生する魔核は、自らを成長させてくれる存在を次元の狭間から呼び寄せる。

『何処かの世界より招かれし先導者よ。あなたはダンジョンマスターに選ばれた』
「ダンジョン? 地下迷宮なんて興味ない。俺は街が作りたいんだ」

 そんな拒絶の意思とは関係無く、彼にダンジョン育成の知識が流れ込んでくる。異界より呼び寄せられて『迷宮核』となった彼は、自らを中心に拡大、成長していく事を望まれていた。

「だから、迷宮なんて興味ないんだって」
『迷宮核の維持に必要なのは有機系魔素と無機系魔素。有機系魔素は迷宮核の影響下にある空間に生物が存在する事で得る事ができる』

 無機系魔素はダンジョンの拡大によって組み込まれた新たな土地から吸収できる。良質の鉱床を含んでいたり、緑豊かな土地であるほど多くの無機系魔素を得られる。

 強い生命力と高い魔力を内在した生物を吸収すれば、より多くの有機系魔素を得られる。吸収した魔素の量が増えれば増えるほど魔核の力も強くなり、迷宮核の影響範囲も拡がっていく。

「……うん? それ、別に地下迷宮にしなくてもいいんじゃないか?」

 彼の意志を無視して続けられる知識の流入を受けているうち、彼は魔核を成長させる為の魔素を得る収集法がダンジョンの運営である必要性に疑問を感じた。

 すると、その疑問に答えるかのように、この世界における魔核の価値に関する情報が流れ込んで来る。

 巨大な宝石を模した魔核は非常に強い力を有しており、人々の暮らしを支える魔導製品全般を稼働させるエネルギー源として重宝される。

 人間の手に堕ちた魔核は、内在する魔力が枯渇して空っぽの巨大宝石となり果てるまで、その力を吸われ続ける。
 拡大と成長こそが自らの存在意義である魔核にとって、それは恐ろしい地獄。

 故に自らを隠し、護ってくれる深い迷宮と、その迷宮を通じて大量の魔素を収集する事が出来る迷宮核によるダンジョンの運営は、魔核にとって必然の生存戦略であった。

 迷宮核に呼び込まれる思考の素。人格や本能、精神といった『考える機能』は、引き寄せられた魂それぞれで、戦いを生業にしていた者や、政治を生業にしていた者など様々。
 当たりを引けば巨大ダンジョンに育つし、ハズレを引けば早々に攻略されて人の手に堕ちる事に。

迷宮核その身を置く空間を指定せよ』

 魔核の案内らしき知識の流入が終わり、最後にダンジョンの起点を求められる。彼の意識に魔核周辺の地形が浮かび上がった。

 彼を呼び寄せた魔核は、森に囲まれた空き地のような開けた空間の中心付近。枯れた泉の底に渦巻いていた。

 ここにダンジョンの入り口を発生させようとしている魔核は、彼に対してまず地下深くに迷宮核その身を置く事で、安全に周囲から魔素を吸収して最初の成長の足掛かりにする事を推奨している。

 どのダンジョンの迷宮核も、最初は皆そうして十数年ほど地下に潜り、無機系魔素を中心に微量の有機系魔素も吸収しながら力を蓄えるのだと。
 ある程度の形が整ってから地上と接続し、生物を誘い込むダンジョンとして稼働し始める。

 ――しかし、彼はセオリーを無視するタイプだった。

「んなちんたらやってられるか、スタートダッシュが肝心だ!」

 流れ込んだ知識の中に、迷宮構築の手順と必要な魔素量の項目を認めた彼は、これらを組み合わせる事で街づくりゲームと同じ事ができると気付いた。

 凝った建物や施設を造るには相応の魔素が必要になるが、迷宮核自分の影響範囲を広げれば無機系魔素の吸収効率も上がるし、魅力的な街ができれば人も集まる。
 有機系魔素は住人から摂取すれば良い。

 彼は迷宮核己が身を地上に置いた。枯れた泉の底に渦巻く魔核の、直ぐ傍に現れる迷宮核。
 魔核が最初にその身を隠すべく造られる筈の地下空間は無く、困惑に揺らめく魔核と剥き出しの迷宮核が、すり鉢状の乾いた地面の上に並んで鎮座していた。


 生まれたばかりの迷宮核を導こうとしていた魔核は、とんでもないハズレ魂を引いてしまったと、己が命運を悲観するのだった。



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)

緋色牡丹
ファンタジー
生きる意味を見出せない三十二歳の男・山田緋色。 夏の夜、光の渦に呑まれ、彼が目を覚ましたのは――幻想の森だった。 壊れた愛車、知らない空、そして湖に浮かぶ青髪の少女。 異世界での出会いが、“止まった人生”を再び動かしていく。 異世界叙情ファンタジー、開幕── ※この小説は、小説家になろう、カクヨムにも同時掲載しています。 挿絵はAIイラストを使ったイメージ画像です。

異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件

おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。 最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する! しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。 その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。   その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。    近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。 更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?   何でもできるけど何度も失敗する。 成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。 様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?   誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!   2024/05/02改題しました。旧タイトル 『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』 2023/07/22改題しました。旧々タイトル 『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』 この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。  『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』  『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』  『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』  『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』

ダンジョン作成から始まる最強クラン

山椒
ファンタジー
ダンジョンが出現して数十年が経ち、ダンジョンがあることが日常となっていた。 そんな世界で五年前に起きた大規模魔物侵攻により心に傷を受けた青年がいた。 極力誰とも関わりを持たずにいた彼の住んでいる部屋に寝ている間にダンジョンが出現し、彼はそこに落ちた。 そのダンジョンは他に確認されていない自作するダンジョンであった。 ダンジョンとモンスターにトラウマを抱えつつもダンジョン作成を始めていく。 ただそのダンジョンは特別性であった。 ダンジョンが彼を、彼の大事な人を強くするダンジョンであった。

処理中です...