5 / 32
変わり者の迷宮核編
4
しおりを挟む森の近くに見つけた小さな村の傍に、『迷宮の泉』を素にした水場を作ってから数日が経過した。村人達は便利な水場施設を利用するようになり、魔素も大量に貯まっている。
途中、村の外から来たらしき人がダンジョンの領域内に入ったのだが、魔素の増え方が村人達の比ではなく、しばらく静かだった魔核が『冒険者が来た』と騒いでいた。
街づくり好きな迷宮核にとっては大量の魔素をくれるボーナス人間という認識である。
彼等は小川を辿って森の中まで踏み込んで来たものの、魔核と迷宮核のある奥の泉のところまでは来ず、オブジェクトサンプルを置いてある広場でウロウロしたあと、引き返して行った。
「もうちょっと森に滞在して欲しかったなぁ。宿泊小屋でも作っておくべきだったか」
魔核から『やめてっ!』と訴えているような圧を感じるが、いつも通り気にしない。
さておき、十分な量の魔素が貯まったので、予定していた村の中まで進出するダンジョン領域の大幅拡張計画を実行に移す。
水場からじわじわ侵食して拡げた領域は、村を囲う柵の内側まで到達している。丁度いい目印になるので、柵に沿って広く等間隔に基礎の石ブロックを設置していく。
綺麗な円形にはならなかったが、村をぐるりと囲むように石の台座が並んだ。ここから各台座に魔素より生成した石材を継ぎ足しながら、アーチ状の柱を伸ばし始める。
やがて、村全体を覆う鳥籠のような、格子状の円蓋が現れた。
「ここで水の生成だ」
格子の円蓋に生成された迷宮の水が、雨のように村の敷地内へと降り注ぐ。
地面に染み込んだ迷宮の水と、柵の内側まで進んでいたダンジョンの領域化した部分との結合により、ものの数分で村全体をダンジョンの一部として取り込めた。
「よし、狙い通りだ。ドームは撤去して村の整備からだな」
村全体を覆っていた格子状の円蓋が消えて、迷宮の水の雨も止む。
この村も最初の森と同じく、ほぼ地面の表層部分を取り込んでいる状態なので、建物を移動させるなどの大きな地形操作をするには、もう少し侵食が進むのを待たねばならない。
なのでとりあえず、村の中に石畳を敷いて足元を整え、中央付近に皆が使える石造りの円形な水場を用意して尽きる事のない水を生成――迷宮の泉を設置した。
「結構魔素使ったから、建物用意するのは次の機会だな」
街づくり好きな迷宮核は、村民の家屋と宿泊施設のどちらを優先すべきか考える。魔素の貯まり具合は中々の速度で増している。
ここまで迷宮核がやっている事の意味が分からなかった魔核も、この成長速度は流石に異常だと感じ始めた。
初めはとんでもないハズレ魂を引いてしまったと嘆いたが、もしかしたら稀に見るアタリを引いたのではないかと、俄かに期待が沸いて来る。
『有機系魔素の吸収には、生命の奪取が最も効率的。魔素と瘴気より生み出せし尖兵を――』
「いま集中してるから静かに頼む。つか育てて増やそうとしてるのに刈り取ってどうすんだ」
魔物とかの出番はしばらく必要ないからと、村から街への規模拡大計画に没頭する迷宮核。
『……』
期待を込めてダンジョンマスターとしての活動アドバイスを出したら、速攻でダメ出しされてモヤる魔核なのであった。
※ ※
街の教会に森の異変を報せた老いた猟師は、調査に派遣される神官と、冒険者ギルドから護衛の冒険者二人を伴って村に帰って来た。
「な、なんじゃこれは……」
そこで目に飛び込んで来たのは、辺境の小さな寒村には似付かわしくない立派な石造りの水堀だった。水汲み場や沐浴用の施設まで併設されている。
村人達に迎えられ、村長宅に直行しがてら何があったのか説明を受けるも、ほぼほぼ何も分からないという内容だった。
ある朝、村の周りに水堀が出現していた。周囲を調べていると、突然石畳が敷かれて水場施設が現れた。危険は無さそうなので今は便利に使っている、との事。
村長宅の広間にて。村長と老いた猟師。調査員の神官。護衛の冒険者二人。それに説明役の村人が数人、テーブルで向かい合う。調査員の神官は、村人達の話をメモに取っていた。
「とりあえず、問題の森を調べてみましょう」
一晩で巨大な水堀を作ったり、村人達がその場にいる状態で石造りの施設を作り出すなど、土を操る系統の相当な腕利き魔術士が複数人居ても難しいと思われる。
調査員の神官と護衛の冒険者曰く、おおよそ人の仕業とは思えないとの見解だった。
「悪戯好きの妖精でも住み着いたか」
「森の奥にあるという清浄な空気に包まれた泉も気になりますね」
「猟師の爺さんが言う『気配』ってのが少し引っかかるぜ」
彼等は話し合い、明日にも西の森まで調査に向かう事となった。道しるべに森から真っ直ぐ伸びている不自然な小川を辿っていこうと予定を立てる。
翌日、小川を辿って森に入った調査隊一行は、開けた一画に奇妙なオブジェが立っている空間を見つけた。
「なんだこりゃ……」
それは建物の壁や床の一部だったり、柱だったり。なにかの台座っぽい物もある。いずれも石材で作られており、適当な間隔で地面から生えたようにポツポツと立っているのだ。
何故このような物が置いてあるのか意図が分からず、薄暗く謎の気配も感じる森の中に居る事も相まって、より不気味に感じさせた。
それら謎のオブジェを調べていた冒険者の一人が、少し顔を強張らせながら立ち上がる。
「なにか、分かりましたか?」
「……こいつは多分、ダンジョンに関係してる」
「ダンジョンだって!?」
調査員の神官の問いに、そのベテラン冒険者は神妙な雰囲気で答えた。もう一人の若い冒険者が驚いたように声を上げる。
このまま進むのは危険と判断したベテラン冒険者の提言を受け、誠実な神官は調査を中止して引き返す事を選んだ。
「奥にあるという泉を調べたかったのですが、仕方ありませんね」
「賢明な神官殿で助かったよ」
もしダンジョンが関わっているなら、どんな危険が潜んでいるか分からない。いきなり地下迷宮に落とされるような罠がないとも限らないので、早急に森を離れて専門家の応援を呼ぶべきだ。
ベテラン冒険者はそう忠告する。
「村の連中にも森には近付かないように言っておいた方がいい」
場合によっては村を棄てて避難する事も視野にいれておくようにと、村長には注意喚起を促して、調査員の神官と護衛の冒険者は去っていった。
村がダンジョンの領域に呑み込まれたのは、それから直ぐの事であった。
50
あなたにおすすめの小説
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)
緋色牡丹
ファンタジー
生きる意味を見出せない三十二歳の男・山田緋色。
夏の夜、光の渦に呑まれ、彼が目を覚ましたのは――幻想の森だった。
壊れた愛車、知らない空、そして湖に浮かぶ青髪の少女。
異世界での出会いが、“止まった人生”を再び動かしていく。
異世界叙情ファンタジー、開幕──
※この小説は、小説家になろう、カクヨムにも同時掲載しています。
挿絵はAIイラストを使ったイメージ画像です。
異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件
おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。
最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する!
しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。
最弱弓術士、全距離支配で最強へ
Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」
剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。
若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。
リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。
風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。
弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。
そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。
「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」
孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。
しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。
最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~
ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。
その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。
その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。
近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。
更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?
何でもできるけど何度も失敗する。
成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。
様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?
誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!
2024/05/02改題しました。旧タイトル
『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』
2023/07/22改題しました。旧々タイトル
『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』
この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。
『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』
『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』
『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』
『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』
ダンジョン作成から始まる最強クラン
山椒
ファンタジー
ダンジョンが出現して数十年が経ち、ダンジョンがあることが日常となっていた。
そんな世界で五年前に起きた大規模魔物侵攻により心に傷を受けた青年がいた。
極力誰とも関わりを持たずにいた彼の住んでいる部屋に寝ている間にダンジョンが出現し、彼はそこに落ちた。
そのダンジョンは他に確認されていない自作するダンジョンであった。
ダンジョンとモンスターにトラウマを抱えつつもダンジョン作成を始めていく。
ただそのダンジョンは特別性であった。
ダンジョンが彼を、彼の大事な人を強くするダンジョンであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる