迷宮遊戯

ヘロー天気

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変わり者の迷宮核編

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 森の近くに見つけた小さな村の傍に、『迷宮の泉』を素にした水場を作ってから数日が経過した。村人達は便利な水場施設を利用するようになり、魔素も大量に貯まっている。

 途中、村の外から来たらしき人がダンジョンの領域内に入ったのだが、魔素の増え方が村人達の比ではなく、しばらく静かだった魔核が『冒険者が来た』と騒いでいた。

 街づくり好きな迷宮核にとっては大量の魔素をくれるボーナス人間という認識である。
 彼等は小川を辿って森の中まで踏み込んで来たものの、魔核と迷宮核のある奥の泉のところまでは来ず、オブジェクトサンプルを置いてある広場でウロウロしたあと、引き返して行った。

「もうちょっと森に滞在して欲しかったなぁ。宿泊小屋でも作っておくべきだったか」

 魔核から『やめてっ!』と訴えているような圧を感じるが、いつも通り気にしない。
 さておき、十分な量の魔素が貯まったので、予定していた村の中まで進出するダンジョン領域の大幅拡張計画を実行に移す。

 水場からじわじわ侵食して拡げた領域は、村を囲う柵の内側まで到達している。丁度いい目印になるので、柵に沿って広く等間隔に基礎の石ブロックを設置していく。

 綺麗な円形にはならなかったが、村をぐるりと囲むように石の台座が並んだ。ここから各台座に魔素より生成した石材を継ぎ足しながら、アーチ状の柱を伸ばし始める。
 やがて、村全体を覆う鳥籠のような、格子状の円蓋ドームが現れた。

「ここで水の生成だ」

 格子の円蓋に生成された迷宮の水が、雨のように村の敷地内へと降り注ぐ。
 地面に染み込んだ迷宮の水と、柵の内側まで進んでいたダンジョンの領域化した部分との結合により、ものの数分で村全体をダンジョンの一部として取り込めた。

「よし、狙い通りだ。ドームは撤去して村の整備からだな」

 村全体を覆っていた格子状の円蓋が消えて、迷宮の水の雨も止む。
 この村も最初の森と同じく、ほぼ地面の表層部分を取り込んでいる状態なので、建物を移動させるなどの大きな地形操作をするには、もう少し侵食が進むのを待たねばならない。

 なのでとりあえず、村の中に石畳を敷いて足元を整え、中央付近に皆が使える石造りの円形な水場を用意して尽きる事のない水を生成――迷宮の泉を設置した。

「結構魔素使ったから、建物用意するのは次の機会だな」

 街づくり好きな迷宮核は、村民の家屋と宿泊施設のどちらを優先すべきか考える。魔素の貯まり具合は中々の速度で増している。

 ここまで迷宮核がやっている事の意味が分からなかった魔核も、この成長速度は流石に異常だと感じ始めた。

 初めはとんでもないハズレ魂を引いてしまったと嘆いたが、もしかしたら稀に見るアタリを引いたのではないかと、俄かに期待が沸いて来る。

『有機系魔素の吸収には、生命の奪取が最も効率的。魔素と瘴気より生み出せし尖兵を――』
「いま集中してるから静かに頼む。つか育てて増やそうとしてるのに刈り取ってどうすんだ」

 魔物とかの出番はしばらく必要ないからと、村から街への規模拡大計画に没頭する迷宮核。

『……』

 期待を込めてダンジョンマスターとしての活動アドバイスを出したら、速攻でダメ出しされてモヤる魔核なのであった。



 ※ ※


 街の教会に森の異変を報せた老いた猟師は、調査に派遣される神官と、冒険者ギルドから護衛の冒険者二人を伴って村に帰って来た。

「な、なんじゃこれは……」

 そこで目に飛び込んで来たのは、辺境の小さな寒村には似付かわしくない立派な石造りの水堀だった。水汲み場や沐浴用の施設まで併設されている。

 村人達に迎えられ、村長宅に直行しがてら何があったのか説明を受けるも、ほぼほぼ何も分からないという内容だった。


 ある朝、村の周りに水堀が出現していた。周囲を調べていると、突然石畳が敷かれて水場施設が現れた。危険は無さそうなので今は便利に使っている、との事。

 村長宅の広間にて。村長と老いた猟師。調査員の神官。護衛の冒険者二人。それに説明役の村人が数人、テーブルで向かい合う。調査員の神官は、村人達の話をメモに取っていた。

「とりあえず、問題の森を調べてみましょう」

 一晩で巨大な水堀を作ったり、村人達がその場にいる状態で石造りの施設を作り出すなど、土を操る系統の相当な腕利き魔術士が複数人居ても難しいと思われる。
 調査員の神官と護衛の冒険者曰く、おおよそ人の仕業とは思えないとの見解だった。

「悪戯好きの妖精でも住み着いたか」
「森の奥にあるという清浄な空気に包まれた泉も気になりますね」
「猟師の爺さんが言う『気配』ってのが少し引っかかるぜ」

 彼等は話し合い、明日にも西の森まで調査に向かう事となった。道しるべに森から真っ直ぐ伸びている不自然な小川を辿っていこうと予定を立てる。


 翌日、小川を辿って森に入った調査隊一行は、開けた一画に奇妙なオブジェが立っている空間を見つけた。

「なんだこりゃ……」

 それは建物の壁や床の一部だったり、柱だったり。なにかの台座っぽい物もある。いずれも石材で作られており、適当な間隔で地面から生えたようにポツポツと立っているのだ。

 何故このような物が置いてあるのか意図が分からず、薄暗く謎の気配も感じる森の中に居る事も相まって、より不気味に感じさせた。

 それら謎のオブジェを調べていた冒険者の一人が、少し顔を強張らせながら立ち上がる。

「なにか、分かりましたか?」
「……こいつは多分、ダンジョンに関係してる」
「ダンジョンだって!?」

 調査員の神官の問いに、そのベテラン冒険者は神妙な雰囲気で答えた。もう一人の若い冒険者が驚いたように声を上げる。

 このまま進むのは危険と判断したベテラン冒険者の提言を受け、誠実な神官は調査を中止して引き返す事を選んだ。

「奥にあるという泉を調べたかったのですが、仕方ありませんね」
「賢明な神官殿で助かったよ」

 もしダンジョンが関わっているなら、どんな危険が潜んでいるか分からない。いきなり地下迷宮に落とされるような罠がないとも限らないので、早急に森を離れて専門家の応援を呼ぶべきだ。
 ベテラン冒険者はそう忠告する。

「村の連中にも森には近付かないように言っておいた方がいい」

 場合によっては村を棄てて避難する事も視野にいれておくようにと、村長には注意喚起を促して、調査員の神官と護衛の冒険者は去っていった。

 村がダンジョンの領域に呑み込まれたのは、それから直ぐの事であった。


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