迷宮遊戯

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変わり者の迷宮核編

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 森近くの小さな村をダンジョンの領域に加えた街づくり好きな迷宮核は、この村を起点に大規模な街を起こすべく活動を始めた。

「まずは生活環境の向上だな。畑も半分くらい領域に取り込めてるし、移動させるのは後だ」

 ダンジョンの領域上に造る街には、通常の土地に比べて幾つか無くてはならない施設を省略できる。

 まず、水は魔素の続く限り無限に沸く。そして排水などゴミ処理の問題は、ダンジョンに吸収して魔素に変換――リサイクルできるのだ。
 人や動物の出した排泄物の類も吸収できるので、常に清潔な状態を保てる。

 環境設定次第でカビも生えないし、迷宮核自身が微生物の存在や特性を認識しているので、生物に悪影響を与える病原菌の発生も抑制できる。
 街に居るだけで身体の調子も自然と良くなるという寸法だ。

 次々と浮かぶアイデアを纏めながら、それらを街に組み込むべくダンジョン内の環境を整えていく街づくり好きな迷宮核。

「気温は触らず自然に任せるか。四季はあるのかな? 春と冬くらいはありそうだけど」

 暑い時期と寒い時期があれば、住人もそれに応じた装いをする筈。衣類の発展を期待して綿花や麻など布の材料になる草花を充実させておく。

「いずれ冷暖房に水道、トイレ、風呂付きの戸建てでも用意するとして、今は村の中の整備だ」

 村全体の主な通り道に石畳を敷き終えると、準備しておいた街灯を等間隔に立てていく。これは木と石で組み上げた柱の先端に光を灯すオブジェを取り付けた物だ。
 蓄光の性質を持つ植物と鉱石を交ぜた物を使っているので、昼間に光を蓄えて夜の間に光る。一応、補助的に魔素も使って光度や時間調整はしてある。


「よし、最初はこんなもんだな」

 村の環境をある程度整えた迷宮核は、再び魔素が貯まるのを待ちながらダンジョンの領域外に向けて斜めに傾いた柱を立てては、その先端に水を生成。
 水撒き方式で領域を拡げていった。

「うーん、水撒き用の柱をちょっと改良しようかな」

 領域が拡がるにつれて、魔素の貯まり具合も徐々にだが増えていく。領域内に新しく生命体が入った時ほどのような大きな増え方はしないが、ダンジョンの領域は広ければ広いほど良いようだ。

 街づくり好きな迷宮核は、水撒きによる領域拡大の効率を上げるべく、放水装置を組み上げた。
 仕組みは単純で、まず柱の中を空洞にしてその中に水を生成。柱の先端には放水用のノズル。そして、トラップ用の単純な動きを繰り返すギミックを柱の中に仕込む事で水圧を操作する。

 この装置により、結構な距離まで水が飛ぶようになったので、いい感じに散水できるようノズルを調整して水撒き効率を上げた。

「これ、畑の水やりにも使えるな。あとは消防設備とかにも転用できそうだ」

 水道関連や他の設備を作るのにも良い練習になりそうだと、トラップギミックを使った便利な生活用品全般の下地作りも並行して進める。


 水撒きの効率が上がった事で、ダンジョンの領域化もかなりの速度で進むようになった。が、ここで一つ問題が浮かぶ。

「結構広くなったけど、村の人口が全然増えてないなこれ」

 街づくり好きな迷宮核は、ダンジョンの領域はこのままじっくり拡げていくとして、とりあえず住人を呼び込むべく優先的に道を整備しようと方針を定める。

「この前の冒険者は、こっちの道から来たんだったな」

 その道に沿って領域を伸ばしつつ辿っていけば、冒険者達が居るどこかの街に繋がる筈。
 既に在る街を取り込んで弄るのも悪く無いが、街づくり好きな迷宮核としては、やはりオリジナルの街を造りたいので、何とか新しい住人を村に呼び込みたい。

「できれば魔素の増え方が半端ない冒険者を呼び込みたいところだけど――」

 魔核からは『やめとけ』という圧を感じるが、既にいつもの事なので流す。住人が快適に暮らせる環境は整えたものの、この村には今のところ売りになる物が無い。

「先に何か特産品を作って商人が来るようにしようか」

 道を領域化しながら辿る作業も進めつつ、森の方で村の特産品になりそうなものが作れないか、迷宮構築の知識を掘り下げる。

「ん~~、薬草に果物か。元から森にあった恵みにダンジョン特有の要素を足して、ここでしか採れない特別な採取物とか作れそうだな」

 栄養価が高く、腐り難く長持ちで、短期間で大量に生る果実の木なんてどうだろうかと、街づくり好きな迷宮核はダンジョン内に魔素から作り出す植物を設計する。

 ダンジョンでしか採れない貴重な薬草などは、本来は迷宮に獲物を呼び込む為の餌として使われるものなのだが、街づくり好きな迷宮核は村おこしの一環として用意する。

「うん、食える物から作るのは、村の食糧事情も地味に支えられて悪くない」

 中々良いアイデアだと自賛する街づくり好きな迷宮核は、早速森の浅い場所に果樹園を構築。設計した果実の生る木を並べていく。

 この果樹園と実を最初に発見したのは、やはり村の子供達であった。



 ※ ※


 老いた猟師が呼んで来た冒険者と神官の調査員が、森にダンジョン発生の兆しがあると危険性を訴え、専門家の応援を呼びに街へ発ってから数日。
 村の景色は一変していた。

 長閑な寒村の田舎道に悉く石畳が敷かれ、立派な街灯まで等間隔に並んでいる。まるでどこか大きな街の一画を切り取って来たかのような光景があった。

「こ、これ本当に大丈夫なのか?」
「神官様達が危ないって言ってたけど……」
「でもすんごい歩きやすいな、これ」
「夜でも明るくて安心する」

 村の周囲には時折斜めに傾いた柱が生えて水を吐き出すという謎の現象が続いている。
 その柱は日を追うごとに遠くに離れて行き、水をダバダバ垂れ流しては離れた位置に生えるというのを繰り返していたが、ある地点から凄い勢いで放水するようになっていた。

 水を吹き出す謎の柱が、村から目視出来ないほど遠くまで離れた頃には、村人達は今の環境にすっかり馴染んでいた。何せ快適。とにかく快適。
 あまりにも快適なので、危機感などすっかり消え失せていた。

 最近は各家の中に水が湧き出る槽が生えており、水汲みの労力がなくなった上に、洗濯や沐浴も家の中でできる。
 そして、この尽きる事なく湧き出る水を飲むと、身体の調子も良くなるのだ。


 そんなある日、村に行商人がやって来た。

 辺境の村にダンジョン発生の脅威が迫っているらしいという街の噂を聞きつけたその行商人は、儲けるチャンスとばかりに直ぐに動いた。

 村から避難するにせよ、その土地に住み続けるにせよ、何かと入り用になる筈だと食糧や衣類、日用品も準備して意気揚々と稼ぎに出たのだが、道中でかなり困惑する事になる。

 街からその村までは寂れた一本道の筈だったのが、途中から道幅は広くなり、明らかに整備された街道が敷かれていたのだ。
 確かに一本道だったので、道を間違えた訳ではない。

(もしや、結構な資金が投入されてる大貴族きもいりの開拓村か?)

 もしそうなら物資は潤沢にある筈なので、自分が用意した程度の商品では大して売れないかもしれない。そもそも商売の許可が下りないかもしれない。

 そんな不安を抱えつつも、今さら戻れないので村を目指して進み続けた行商人は、そこから色々と不可解な光景を目にする事となった。

 まず、この辺りはかなりの辺境の地である筈なのだが、広い街道に石畳が敷かれていた。

 行商人は年に一度、この国の王都に向かう機会があり、王都に近しい大きな街との間に、石畳が敷かれた短い街道を見た事がある。

 が、ここの石畳の道は更に両側に街灯まで並んでいた。それも、油や蝋燭を使った灯りではなく、王都の上流区でしか見る事の出来ないような、魔鉱石の光を放つ街灯だった。

 そんな豪奢な仕様の道が長い距離まで続き、その先に魔鉱石の光に照らされた立派な街のようながあった。

 ゴミ一つ落ちていない清潔で立派な石畳の通りを行くと、村の中央には大きな石造りの水場がある。村全体が妙に清浄な空気に包まれ、夜でも街灯の明かりにあふれている。

 が、そんな貴族街のような空間に立つ家々は実に素朴な――というか、率直にボロ小屋と言って差し障りない寒村仕様な建物ばかり。
 行商人を見て珍しそうに寄って来た住人達も、出で立ちは辺境に住む村人そのものだった。

 あまりにアンバランスな村の様子に戸惑いながらも、行商人は営業を始める。持って来た商品は、普通に良く売れた。

「いや~、アンタが来てくれて助かったよ」
「しばらく買い出しにも行けなかったからねぇ」

 歓迎する村人達の話によると、少し以前から村に異変が起きており、その関係で街に出掛ける事もできなかったという。
 定期的に行われていた村を代表しての買い出しが滞っていた為、街でしか手に入らない日用品が不足していたそうな。

「街では、村の近くにダンジョンが発生しそうになってるって噂を聞いたんだが……」

「ああ、この前それを調べに神官さんと冒険者の人が来てたよ」
「森が危ないって話だったけどねぇ。今じゃ村もこんな感じだし、どうなんだろうねぇ」

 最初に村の周りに水堀ができる大きな異変があった後、定期的に村の彼方此方で道が整備されたり水が通ったり、灯りが付いたり。
 便利な設備が家の中に追加されたりと色々起きているが、特に危険は感じていない。

 村人達はこの異変を受け入れて快適に暮らしているのだという。行商人は、この奇妙な村に興味を抱いた。
 何かこの村特有の、他所で売れそうな珍しいものは無いだろうかと思考を巡らせる。

 その時、両手で籠を抱えた村の子供達が、危なげない足取りで駆け寄って来ると、行商人に取り引きを持ち掛けた。

「おっちゃん、これ買ってくれない?」
「森で採れたの。おいしいよっ」

 子供達は、籠いっぱいに詰まった薄紅色の果実を差し出して笑った。



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