10 / 32
変わり者の迷宮核編
8
しおりを挟む吸収した盗賊達は、概ね半数ほどから記憶情報を入手できた。
有用そうな情報はさらに半分まで減り、内容も大体被っているので同じ情報内容の正確さを測る目安くらいにしか使えなかった。
だが、使える情報自体には中々面白い内容があった。
アーチ門を作った先にある街だが、名を『スクール』。一通り施設が揃っているがどうやら小規模な街らしく、あそこから二日分ほど離れた場所にもっと大きな街があるようだ。
そして、スクールの街から半日ほど離れた場所にダンジョンがあるらしい。
スクールの街は、この地方の中心となる大きな街から来た冒険者達が、そのダンジョンに向かう為の中継地点だという事が分かった。
街づくり好きな迷宮核は、ならばそっちのダンジョンに挑戦する冒険者達の為に道を作ろうかと考える。
「そのダンジョンの近くに街はないのかな」
盗賊達の記憶情報からは、そちらのダンジョンに関する詳細は得られなかった。
吸収した盗賊の一人に『元冒険者』の肩書を持つ者が居たので記憶内容を注視すれば、その男がどんな人物で、どのように生きて来たかが示される。
酒癖、手癖が悪く、信用を失って仲間ができず、冒険者を挫折した。なので、ダンジョンに挑んだ事はないらしい。
この辺りに潜伏していたのは、ダンジョンに挑みに来たまだ力の弱い新人冒険者や、冒険者達と現地で取引する単独の商人を狙っていたようだ。
鳥の地理情報にも街らしき形は見当たらない。ただ、ダンジョンの位置は分かった。
スクールから伸びる街道らしき太めの道がそこそこ離れた場所にある山の麓に続いており、その一帯は切り開かれてぽつぽつとテントっぽい物が並んでいる感じ。
鳥の視点から見た記憶の情報故に、どこまで正確に把握できているかは測れないが、居住用のしっかりした建物は見当たらない。
ここ数日の記憶情報なので、建物の配置は今現在も大きく変わらないだろう。
「ダンジョンの周りに街がないなら、こっちで作らせてもらおう」
人が集まる場所にこそ快適な居住環境を用意すれば、規模もどんどん膨らむ筈。そんな計画を立てる街づくり好きな迷宮核に、魔核から警告が下される。
『他所のダンジョンとかち合えば、喰い合いになる』と。
『現状では戦力不足。接触は避けるべき』
「喰い合いって具体的にどうなるんだ?」
魔核は、他所の魔核と戦う準備ができていないので、近づかない方が良いと訴えている。
ダンジョン同士が接触すると互いに侵食が始まり、喰われたダンジョンの魔核は喰った方にそのダンジョンごと取り込まれるらしい。喰われた方の迷宮核は大量の魔素として吸収される。
多くの喰い合いを勝ち残ってきた巨大なダンジョンは、喰った数だけ魔核を有しており、それらはダミー魔核に使われたり、ダンジョンの一部エリアを管理させるなど従わせられるそうだ。
「それは便利そうだな」
巨大な街や拠点、いくつもの施設を造ったとして、一人で全て管理するのは大変なので、方針に従って運営してくれるサポーターができるのは助かる。
「いずれ都市レベルの街ができたら、分野毎に役割振り分けるのもいいな」
などと、自分が喰われるかもしれない事など微塵も憂慮していない迷宮核に、魔核は頼もしいと喜べば良いのか、危機感が足りないと嘆けばいいのか迷った。
「さて、他所のダンジョンまで道を敷くのはまたそれ用の武器を作ってからとして――」
盗賊達から得た知識にはもう一つ、活用できそうなものがあった。
それは賞金首制度で、冒険者達の中でも賞金稼ぎを生業にする武闘派が居るくらいには浸透している。社会秩序機構の一つとして機能しているようだ。
そして、吸収した盗賊達の中には賞金首が居た。
何人かはもう跡形もなく吸収してしまっているが、この情報を得てから首だけ残すように調整した。盗賊の持ち物なども保管している。
「記憶情報によると、賞金首の討伐は冒険者じゃなくても有効らしい」
『……』
この迷宮核が今度は何をしようとしているのかを察した魔核は、流石に閉口するしかなかった。
※ ※
スクールの街から辺境方面に出て少し進んだ先には、異界化した街道とその入り口を示しているかの如く、凝った彫刻を施されたアーチ門が鎮座しており、今も調査が続いている。
異界化の侵食が止まった為、街の住人の避難も一時取りやめとなっているが、まだ予断は許されない状況。
領主の正規軍が到着次第、イレギュラーダンジョンの討伐は再開される見通しだ。
一方で、ダンジョン研究者たちの中には、このイレギュラーダンジョンの討伐に異議を唱える者が現れ始めた。
異界化の侵食防衛戦であれほどの侵食速度と攻撃力を見せつけながらも、一人の負傷者すら出していない事や、こちらの意思を汲むようなタイミングで侵食を止めた事。
そして、異界に呑まれたと思われていた件の村。
現在の状況を確認に行った斥候調査隊の報告によると、村は完全に姿を変えていたが、村人達は全員健在で、異形化もしていなければ不死者にもなっていないという。
村の見てくれと生活環境だけはやたら高品質になっていたが、村人たちはその快適な環境下で平穏な暮らしを続けているというのだ。
それらの報告を聞いたダンジョンの研究者は、このイレギュラーダンジョンには人類に敵対する意思が無いのでは? という仮説を提唱している。
「何を馬鹿な――と言いたいところだが……」
「まあ、アレを見てるとなぁ」
ベテランの冒険者達が仲間同士で集まり、調査中のアーチ門脇で少し離れた場所にある広場を眺める。
噴水のある憩いの場と化している異界化街道上の広場には、若い冒険者やダンジョンの研究者が屯しては、談笑したり寛いだりしていた。
よくダンジョンに挑んでいるらしい高ランク冒険者パーティーメンバーの話では、この異界化街道の空気はダンジョン内にある休憩ポイント――安全地帯のような加護が働いているのだとか。
つまり、この街道には危険な動物や魔物の類が寄って来れないようになっているのだ。
「本当にそんなダンジョンがあり得るのか?」
「いや、そもそもこれをダンジョンって言っていいのか。そこからだな」
そんな掛け合いをしていると、アーチ門の付近で騒ぎが起きた。
「うわっ!」
「なんだこりゃっ!」
周囲にいたベテラン冒険者たちは一斉に臨戦態勢を取り、何があったのかと騒ぎの方向に注視する。
アーチ門の傍に、先程までは無かった石の台座が現れており、その上に生首が並んでいた。
「っ!」
「こいつあ……」
「誰かやられたか!?」
被害を受けた研究者グループや冒険者パーティーは居ないか。この首に見覚えのある者は居るかと、迅速に状況確認が行われる。
その時、冒険者の一人が首を見て気づく。
「んん? こいつ、悪手のカースじゃねえか?」
「何? あ、マジだ」
「知り合いか?」
「いや、賞金首だよ。最近盗賊共と徒党を組むようになったらしいとは聞いていたが……」
元々は大きい街の周辺で長年採取や害獣狩りを続けてきた熟練冒険者だったが、手癖が悪く度々仲間の持ち物を盗んで金に換えたり、新人に絡んで装備を巻き上げたりと評判が悪かった。
組んでいた仲間も大概悪辣な輩だったが、ある時、その仲間から盗人野郎と詰られたカースは、酒に酔った勢いで剣を振るい、相手に重傷を負わせて逃げた。
熟練冒険者だけあって、なまじ腕が立ったのが災いしたらしい。
その後は、ダンジョンに挑むべく中継街のスクールを目指す年若い新人冒険者や、ダンジョンとスクールの間を行き来する単独の行商人を襲って追い剥ぎをしていたようだ。
ある時、行商人に化けた騎士に襲撃を仕掛けて返り討ちに遭い、その場は逃げ遂せたものの、顔が割れて賞金首となった。
そんな経緯を持つ元冒険者の盗賊の首が晒されている。
「しかし……どういう事だ、これは」
「とにかく一旦ギルドに報告しよう」
このまま触らず首検めの役人が呼ばれて、間違いなく『賞金首:悪手のカース』だと確認された。だが、なぜこの賞金首がここに晒されたのかは謎のままであった。
ダンジョン研究者も集められて、今回の出来事の推察が行われようとしていたその時、首が並んでいた台座の前にもう一つ、台座が生えた。
「っ!」
「今度はなんだ!?」
身構える冒険者達。その台座の上には、お皿のような容器が乗っている。
「……?」
「皿?」
「何も入ってないようだが……」
しばらく様子を見ていると、容器の乗った台座が、首検めの役人の前にズイッと移動した。
「ひぇっ!」
「動いたぞ!」
「何なんだ、一体」
さらに、賞金首が並んでいる台座が少し揺れた事で、生首も揺れた。意味が分からない現象に困惑する冒険者達だったが、誰かがふと思い至った事を口にする。
「なあ、もしかして……賞金寄越せって言ってるんじゃねえ?」
「「「……」」」
しんと静まり返る一帯。誰も何も言わなかったが、誰もが『多分、それだ』と思っていた。
50
あなたにおすすめの小説
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)
緋色牡丹
ファンタジー
生きる意味を見出せない三十二歳の男・山田緋色。
夏の夜、光の渦に呑まれ、彼が目を覚ましたのは――幻想の森だった。
壊れた愛車、知らない空、そして湖に浮かぶ青髪の少女。
異世界での出会いが、“止まった人生”を再び動かしていく。
異世界叙情ファンタジー、開幕──
※この小説は、小説家になろう、カクヨムにも同時掲載しています。
挿絵はAIイラストを使ったイメージ画像です。
異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件
おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。
最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する!
しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。
最弱弓術士、全距離支配で最強へ
Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」
剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。
若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。
リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。
風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。
弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。
そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。
「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」
孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。
しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。
最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~
ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。
その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。
その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。
近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。
更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?
何でもできるけど何度も失敗する。
成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。
様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?
誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!
2024/05/02改題しました。旧タイトル
『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』
2023/07/22改題しました。旧々タイトル
『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』
この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。
『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』
『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』
『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』
『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』
ダンジョン作成から始まる最強クラン
山椒
ファンタジー
ダンジョンが出現して数十年が経ち、ダンジョンがあることが日常となっていた。
そんな世界で五年前に起きた大規模魔物侵攻により心に傷を受けた青年がいた。
極力誰とも関わりを持たずにいた彼の住んでいる部屋に寝ている間にダンジョンが出現し、彼はそこに落ちた。
そのダンジョンは他に確認されていない自作するダンジョンであった。
ダンジョンとモンスターにトラウマを抱えつつもダンジョン作成を始めていく。
ただそのダンジョンは特別性であった。
ダンジョンが彼を、彼の大事な人を強くするダンジョンであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる