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穢れ山ダンジョン編
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しおりを挟むスクールの街から徒歩で半日ほど離れた場所にある小山。『穢れ山』と呼ばれていたその山の麓にダンジョンが発生したのは、五十年以上前と謂われている。
「――ってな情報が聞けたのは幸いだったな」
現在、街づくり好きな迷宮核は、件のダンジョンに向かって領域化街道を伸ばしていた。
賞金首を提出してからというもの、スクールの街の冒険者――主に研究者寄りの者たちだが、率先してこちらとのコミュニケーションを図ろうとする動きが目立ち始めた。
街道の石畳や街灯、あるいは広場の噴水に向かって語り掛けてくる者が増えたのだ。
アーチ門に向かって何やら熱心に喋り続けている人を見掛けた街づくり好きな迷宮核は、最初、酔っ払いが居るのかと思ったが、内容を聞いてみたら自分に話し掛けているものだった。
盗賊たちから吸収した記憶情報によって、人間文明の言葉や文字などの知識も学習できていた。お陰で意思疎通の手段も得られた。
これには街づくり好きな迷宮核も、なるほど人間を呑み込んだ方が効率が良いという魔核の勧めにも頷けると納得した。
勿論、今後も善良な民や友好的な冒険者を糧にするつもりは無い。
そんなわけで、街づくり好きな迷宮核は交流が図れるなら話は早いとばかりに、アーチ門と噴水広場の間に適当な屋根と囲いだけの待合施設のような建物を作ると、カウンターと掲示板を設置。
掲示板には今、迷宮核が知りたい事を書き記して、その下に粘土板と石筆を置いた。口頭なり粘土板に書き出すなりしてくれれば、情報料を支払うというシステム。
情報料のお金は賞金首の代金(ちゃんと支払ってもらった)から出す。
突然生えた建物に研究者たちが真っ先に群がり、若い冒険者たちも「なんだなんだ」と集まって来る。熟練冒険者は一応警戒しながら様子を見ている。
「近くのダンジョンについて知りたい?」
「これって、穢れ山ダンジョンの事か?」
カウンターに肘を乗せながら掲示板の内容を読み取った若い冒険者が、仲間と相談するように呟く。
それを聞いた街づくり好きな迷宮核は、掲示板上の『近くのダンジョン』を『穢れ山ダンジョン』に書き換えると、最初にその名称を口にした若い冒険者の手元に金貨を出現させた。即金払い。
この領域化街道上に立つ建造物は全てダンジョンの一部なので、迷宮核の任意で狙った場所にお宝でも魔物でも出せるのだ。魔物の出番はしばらく無いが。
今の一連の流れでこの建物の役割とイレギュラーダンジョンの意図を理解した冒険者たち、とりわけ研究者たちは、こぞって掲示板に記された『知りたい事』の情報を語ったり書き綴ったりした。
賞金首で儲けたお金の四分の一ほどを使って知りたい情報を十分に得た街づくり好きな迷宮核は、閉店を報せるように臨時の情報依頼掲示板と建物とカウンターを撤去した。
そして、噴水広場の付近から穢れ山ダンジョンに向かって道をつくり始める。
「うわっ でた! 水噴き柱だ!」
「あっちは穢れ山の方角だな。もしかして、向こうのダンジョンに行く気なのか?」
放水する石柱が生えては、石畳で舗装された街道が一定間隔で敷かれていく。
その様子を眺めながら、冒険者たちはそろそろスクールの街に到着するであろう領主の正規軍に対して、討伐再開に待ったを掛けるべきか、真剣に悩む者が出始めるのだった。
そして今現在、順調に領域化街道を伸ばしている街づくり好きな迷宮核は、スクールの街から新たにやって来た者たち――おそらく領主の正規軍と思われる集団が領域化街道に足を踏み入れた事を感知した。
瞬間、魔素の吸収量が跳ね上がる。
「おお? なんか一気に来たな」
『っ~~~~‼』
余程生命力に溢れているのだろう。その凄まじい魔素の増えっぷりに感嘆する。魔核からは声にならない悲鳴のような思念が漏れているが、そっとしておく。
街づくり好きな迷宮核は、この魔素の増え方なら領域化街道が目的地に届いてからもそのまま直ぐ動けそうだと、同時進行で現地に設置する予定のオブジェクト制作も進めていった。
水撒き用の石柱からの放水で迷宮産の水が染み込んだ街道が均され、拡げられ、舗装される。ちなみに、最初の村からスクールの街まで敷いた街道とは少し石畳の色合いを変えてある。
そして、舗装された領域化街道上には既に、穢れ山ダンジョンに向かう冒険者たちが列を成して歩いていた。
パーティーを組んでいる者。ソロで挑む者。ダンジョンに潜るのが目的ではなく、出入口で屯している滞在組と商売をする為に向かう商隊も交じっている。
道の途中、穢れ山とスクールの街との丁度中間地点の辺りには、休憩用らしき空き地があった。焚き木の跡や、そこらの石を集めて組み上げられたと思しき簡単な竈もある。
テントなどは張られていないが、ぽつぽつと一塊になって休憩しているグループも見られた。
「はいはい、ちょっくらごめんなさいよ」
街づくり好きな迷宮核は、領域化街道を敷く作業も続けながら、この一帯を休憩用スペースとして整備しに掛かる。
まずは地面を均して石畳で覆う部分と土のままにしておく部分とを分け、休憩広場の外周を丈夫な壁で囲う。
次に水場の用意。馬車を停めるスペース。厩舎。調理をする為のスペースも屋根付きで広めに取り、一度に大勢の人が作業できる石竈を並べて環境を整えた。
「熱源を常時用意するにはまだまだ魔素の規模が足りないから、しばらくは薪を使ってもらおう」
外周の壁には等間隔に出入口を設けて、外の林から木材を拾って来られるようにした。
後は適当な広さの屋根と囲いだけのスペースを複数箇所用意。パーティー単位で集まって寛げる空間を提供する。
休憩していたところを謎の石柱からの放水で追い立てられた冒険者グループは、唖然としながらその様子を眺めていた。
やがて、スクールの街からここまでやって来た穢れ山ダンジョン行きの冒険者たちにこの現象の事情を説明され、やっぱり唖然となっていた。
「お、そろそろ領域化した道が目的地に到着するぞ」
『他所の魔核と戦う武器は……』
「その為の街だよ」
街づくり好きな迷宮核は、他所のダンジョンの近くに攻略用の冒険者の街を作る事で、冒険者たちに武器そのものとなってもらう構想を挙げた。
『……』
「もちろん、直接攻撃用の武器も作ってるよ」
冒険者たちが正面からダンジョンに挑んでいる裏で、地の底からは侵食用の根を這い寄らせる。相手ダンジョンの魔核は今後のサポート要員に確保したいので、本命はしっかり頂くのだと。
天敵である冒険者を尖兵に使うなどという戦略に胡乱な意識を向けていた魔核は、この迷宮核の意外な腹黒さを垣間見た気がして、少し気を取り直したのだった。
「別に腹黒くはないと思うけどなぁ」
ちょっと気にする街づくり好きな迷宮核であった。
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