異界の魔術士

ヘロー天気

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三界巡行編

第十二章:朔耶の日常と巡る運命2

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 アルシアを転移目標に狭間世界のポルヴァーティア大陸へ渡った朔耶。現れた場所はアルシアの為に用意され、改装も進んでさらに広くなった勇者食堂だった。
 転移して直ぐ、揚げ物の香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。

「なんか美味しそうな匂いがする」
「おお、サクヤか。いい時に来たな」

 今日は魚料理以外の新しいメニューを試していたらしい。無料体験コーナーで皆に振る舞う前に試食を頼まれ、快諾する朔耶。

「あ、もしかしてコロッケ?」
「ああ、以前食べさせてもらったコロッケの素晴らしさを、どうにか再現できないかと思ってな」

 色々試行錯誤しているそうな。

「クリームコロッケ作るなら乳製品も必要ね。カルツィオの家畜のモーフから摂れるかな――て、料理の話してる場合じゃなかったわ」

 今日ここにきた目的を思い出した朔耶は、アルシアにカルツィオ聖堂であった出来事を話すと、地下組織『栄耀同盟』への対策に協力を求めた。なお、試食任務は継続中である。モシャモシャ。

「ふむ、連中の噂は私達にも聞こえて来ているな」
「本拠地が分かれば直接殴り込んで潰せると思うんだけど、怪しい場所とか心当たり無い?」
「殴り込み……まあ、サクヤなら問題無いのか」

 短絡的だが確かに効果は望めるだろうとするアルシアはしかし、栄耀同盟のアジトを割り出すには手掛かりが無さ過ぎると首を振る。

「今現在、このポルヴァーティア人自治区には、大小多数の組織がひしめき合っている状態でな」

 アルシアの所属する『暁の風』のような幾つかの有力組織と大神官の『真聖光徒機関』を組織群の上澄み的な頂点とすると、他は有象無象が寄り集まって出来た小規模集団。
 組織とは名ばかりのグループが乱立している。しかも複数のグループに渡って掛け持ちしている者も多数だという。

「何か、学生のクラブ活動みたいね」

 アルシアは朔耶の言う『クラブ活動』が何かは分からなかったが、言葉と雰囲気で何となくどういうものか理解して頷いた。

「そういった底辺集団には、情報収集や隠れ蓑的に別部署を設ける目的で、有力組織からも人員が送り込まれている。もちろん、秘密裏にな」
「ふむふむ、じゃあ手掛かりになる情報をいくつか提供するね」

 朔耶はここで、コウがあの潜入工作員達から読み取った情報を披露した。『特爆』の士官だったらしいとか、旧執聖機関でも身分の高い者だったらしい、等々。

「特爆って何か分かる?」
「ああ、特殊爆撃機部隊といって、旧神聖軍の中でも別格の超エリート部隊だ」

 設立以来、一度の敗北も無く、撃墜される事も無かった最強部隊と謳われていた。
 ちなみに、前回のポルヴァーティアによるカルツィオ侵攻の最中で、朔耶に全機撃墜されている。機器に異常を起こして強制着陸させる優しい撃墜だが。

「元エリート士官が地下組織を作ったって事? 実は大神官と裏で繋がってたりはしてないでしょうね?」
「真聖光徒機関の裏組織という線か? うーん、多分それは無いだろう」

 アルシアの見立てでは、恐らくは真聖光徒機関から爪弾きにされた人間。かつてのエリート層も含めて、そういう者達が寄り集まって出来た組織では無いかと推察しているようだ。

「最近は見なくなったが、うちの組織にちょっかいを出して来る連中が居たのを覚えているか?」
「アルシアちゃんが投石を打ち返して撃退してた人達ね?」
「ただの暴徒みたいになっていた彼等も、元は優秀な神聖軍士官や執聖機関の幹部だった者達だ。組織立って動くようになれば、それなりの実力を発揮するだろう」

 その者達が栄耀同盟を立ち上げたか、あるいは組織運営を担う中心的役割を果たしている可能性があるという。

「実際、ここまで裏で暗躍してカルツィオの大国に影響を与えているのだ。決して侮れない相手と考えて良いと思う」
「ふーむ、それなら今後はこっちも連携して動いた方がいいかもね」

 これからは朔耶を通じて、悠介とアルシア達『暁の風』がなるべく情報を共有して動けるよう、体制を整える方向で進める。
 一応、真聖光徒機関大神官達とも協力し合い、他の同盟関係にある有力組織にもその旨を周知しておく。
 これで、ポルヴァーティア内での栄耀同盟の動きを、多少は牽制出来るだろう。

「大神官はアユウカスさんと懇意だからガゼッタに協力してくれるだろうし、こっちで栄耀同盟の動きが抑えられれば、カルツィオで暗躍してる工作員にも影響が出るわよね」
「当面はその方針で良いと思うぞ」

 アルシアも頷く。とりあえず、今思い付く手は打っておいたと、朔耶も一息吐いた。
「また後でガゼッタの様子を見に行くとして、今日はこれで引き揚げるわ。コロッケご馳走さま。なかなか美味しかったよ」
「ああ、また試食を頼む」

 かなり深刻な話をしたはずなのに、最後は美味しいコロッケで締める朔耶達なのであった。


「たっだいま~」
「おかえりー、飯は?」

 自宅庭に帰還した朔耶が縁側から居間に上がると、弟の孝文がテレビの前でゴロゴロしていた。

「ん~、アルシアちゃんとこでコロッケ食べたからいいや」
「狭間世界に行ってたのか。最近多くない?」

 また何か問題でも起きているのかと問う孝文に、朔耶は前回の戦争の事後処理が続いているのだと答える。

「悠介君も言ってたけど、物理的に武力と切り離して強引に終わらせた棚上げの解決だから、まだ色々と影響が残ってるのよ」

 軍事力を奪われて分裂させられたポルヴァーティア側は今のところ落ち着いているが、カルツィオ側は今後の展望を見据えて自国を発展させる事に躍起になっている面もあり、少々混乱気味だ。

「つっても、方針で揉めて内戦の危機――みたいな事はないんだろ?」
「ん~、ガゼッタがちょっと危ない状況でね、元凶を何とかすれば一段落つくかなってとこ」

 厄介な組織が暗躍しているので、今はその大元を叩くべく情報収集で自身も飛び回っている事を説明する。

「栄耀同盟っていう、ポルヴァーティアの元エリートが集まった組織らしいんだけどね」

 旧執聖機関で高い地位に居た者達が、真聖光徒機関という新体制に馴染めず組織から弾き出され、寄り集まって出来た地下組織。ポルヴァーティアのどこかに本拠地があると思われる。

「それって、場所が割れたら朔姉が殴り込みに行ったりとかするんじゃないだろーな」
「もちろん」

 当然と言わんばかりに肯定する朔耶に、孝文は「やっぱりか」と溜め息を吐いた。

「朔姉の脳筋ぶりはかわらんな……」
「ちょっ、脳筋て」

 やれやれと肩を竦める孝文は「父ちゃん母ちゃんにあんま心配掛けるなよー」と促してテレビに視線を戻した。

「むー」

 最近はあまりクドクド言わなくなった理屈屋の弟孝文だが、その分一言が重くなった気がすると唸る自由奔放なお姉ちゃん朔耶なのであった。

『京矢君と沙耶華ちゃんの送り迎え時期はまだ先だし、今日はもう休もうかな』
ウム キュウソクハ ダイジナリ

 居間を後にした朔耶は、明日からの予定を確かめると、寝る前にお風呂に入るべく着替えを取りに自分の部屋へと戻るのだった。

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