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第五章
第五章 第五話
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俺は高樹にぶつかって一瞬動きの止まった化生めがけて矢を放った。
化生が軽く避ける。
高樹が頭を振りながら立ち上がった。
手には繊月丸を持っている。
高樹は再度、走ってくる化生の正面に立った。
刀を振り下ろす。
繊月丸の刃が化生の右肩を切り付けた。
化生はそのまま走り続け、高樹ごと前に押し進んだ。
化生は足を止めると高樹に向かって前足を振り上げた。
俺が矢を放つ。
矢が化生の右の後ろ足を掠める。
化生の右の後ろ足の膝から下が消えた。
足の一本を失った化生がよろめく。
高樹が素早く化生に繊月丸を突き立てようとした。
が、化生は翼を広げると飛び上がった。
空を飛ばれてはこちらが不利になる。
飛び道具は俺の弓だけなのだ。
なんとかして地上に……。
と思った時、
「逃がすか!」
高樹の背から翼が生え、化生を追って飛び上がった。
「嘘っ!?」
秀が叫んだ。
俺はあまりのことに声が出なかった。
服の上から翼が生える!
……いや、そこじゃない。
あいつ、空を飛んでる!
高樹は化生を追うことに集中していて、自分が空を飛んでることに気付いてないようだ。
「祖母ちゃん! あれ、どうなってるんだよ!?」
「どうって?」
「高樹のヤツ、空飛んでんだぞ!?」
「半分天狗だから」
「半分だけだろ!」
「半分も、よ」
九オンス入りの水差し……。
そんなやりとりをしている間にも、高樹と化生は空中でやり合っていた。
俺が矢をつがえる。
だが、高樹は空中で化生と取っ組み合っていて矢を放てない。
「高樹! 離れろ!」
俺の声に高樹が離れると同時に矢を放つ。
矢は化生に掠りもせずに明後日の方向へ飛んでいく。
化生はこちらを向くと、俺に向かって飛んできた。
高樹が追い縋るが間に合わない。
やられる!
そう思った瞬間、黒い影が飛び出してきて化生の左腕に飛び付いた。
黒い影に見えたのは巨大な猫だった。
この模様は……。
「ミケ!」
化生がミケを振り払う。
ミケが後方に跳ぶ。
『何やってんのよ!』
ミケは俺にそう言うと、身体を低くして化生に飛び掛かった。
ミケと化生が転がる。
化生の頭がこちらを向いた。
「ミケ! どけ!」
ミケが飛び退くと同時に矢を放つ。
化生の頭に矢が突き立った。
声もなく化生は塵となって消える。
「終わった……」
俺は溜息を吐いた。
高樹は肩で息をしていた。
「うわ! なんだ!」
声が聞こえた方を振り返ると妖奇征討軍の二人がこちら――正確にはミケ――を見ていた。
ミケが元の大きさに戻る。
「化猫だ!」
ミケは妖奇征討軍を一瞥しただけで歩き出す。
「待て!」
妖奇征討軍がミケに向かっていく。
ミケは走って逃げていった。
「どうやらミケは見えても高樹は見えなかったみたいだな」
俺はほっとした。
高城の事を『化生だから退治する』などと言って付け狙うようになったら迷惑この上ない。
「羽が出てる間は見えないんだね。スマホにも写ってないし」
秀がそう言ってスマホに目を落とす。
「羽? あっ!」
今になって自分の背中に生えてる翼に気付いた高樹が目を剥く。
「こっ、これ……!? どうしたらいいんだ!? こんなの生えてたら……」
高樹が自分の翼を見て慌てて言った。
「自然に出たんだから自然に戻るでしょ」
「そんなの待ってられるか!」
「なら戻るように念じてみたら?」
祖母ちゃんが言った。
高樹は目を閉じると、
「戻れ、戻れ、戻れ……」
と呟いた。
翼は出てきたときと同様、唐突に消えた。
「戻ったぞ」
「ホントか!? ホントにもう出てないか?」
高樹はしきりに背中を気にしながら念を押すように聞いてきた。
「もう大丈夫だよ」
秀が安心させるように声を掛けた。
「飛べるなら大分有利だな」
俺が言った。
日本刀で近接戦をする高樹より弓で遠くから狙う俺が飛べた方がいいのだが世の中上手くいかないものだ。
「けど、いきなり出ても困るし、思い通りに消せないのも困るんだが」
「なら天狗に聞いてみたら?」
「十六夜や無月のいる山に行ったりしたら殺されるだろ」
「そんなところまで行かなくても根岸にいるじゃない」
そう言えば祖母ちゃんは東京の天狗の事を『根岸の』と言っていた。
俺達は、俺が放った破魔矢を探して暗い公園の中を歩き回った。
「向こうに飛んでいったヤツは無理じゃない?」
秀が言った。
「そうだな……」
俺はそう答えたものの一本千円もした矢である。
そうぽんぽん買えるものではない。
「どっちにしろ大分邪気を払える力が弱まってたから後一回使えたかどうかだったわよ」
祖母ちゃんの言葉に俺は肩を落とした。
つまり少ない小遣いからまた千円か二千円出さないといけないのか……。
「僕も破魔矢のお金出すよ」
「俺も」
「高校生三人のお小遣いじゃそのうち間に合わなくなるわよ。白狐に聞いてみなさい」
祖母ちゃんの言葉に少し安心した。
金を払わずに化生退治が出来るようになるならその方がいい。
何しろ退治したところで俺達は一円ももらえないのだ。
「じゃあ、明日、根岸に行きましょ。白狐には根岸に来るように言っておくわ」
教えを請うのに呼び付けるのもどうかと思うが仕方ない。
根岸まで片道九キロを歩いていくわけにはいかないから電車賃が掛かる。
途中で早稲田の辺りに寄り道するとなると乗り換えなどで更に余計な出費が掛かってしまう。
破魔矢で小遣いの大半がなくなった俺としては最低限の出費で済ませたい。
化生が軽く避ける。
高樹が頭を振りながら立ち上がった。
手には繊月丸を持っている。
高樹は再度、走ってくる化生の正面に立った。
刀を振り下ろす。
繊月丸の刃が化生の右肩を切り付けた。
化生はそのまま走り続け、高樹ごと前に押し進んだ。
化生は足を止めると高樹に向かって前足を振り上げた。
俺が矢を放つ。
矢が化生の右の後ろ足を掠める。
化生の右の後ろ足の膝から下が消えた。
足の一本を失った化生がよろめく。
高樹が素早く化生に繊月丸を突き立てようとした。
が、化生は翼を広げると飛び上がった。
空を飛ばれてはこちらが不利になる。
飛び道具は俺の弓だけなのだ。
なんとかして地上に……。
と思った時、
「逃がすか!」
高樹の背から翼が生え、化生を追って飛び上がった。
「嘘っ!?」
秀が叫んだ。
俺はあまりのことに声が出なかった。
服の上から翼が生える!
……いや、そこじゃない。
あいつ、空を飛んでる!
高樹は化生を追うことに集中していて、自分が空を飛んでることに気付いてないようだ。
「祖母ちゃん! あれ、どうなってるんだよ!?」
「どうって?」
「高樹のヤツ、空飛んでんだぞ!?」
「半分天狗だから」
「半分だけだろ!」
「半分も、よ」
九オンス入りの水差し……。
そんなやりとりをしている間にも、高樹と化生は空中でやり合っていた。
俺が矢をつがえる。
だが、高樹は空中で化生と取っ組み合っていて矢を放てない。
「高樹! 離れろ!」
俺の声に高樹が離れると同時に矢を放つ。
矢は化生に掠りもせずに明後日の方向へ飛んでいく。
化生はこちらを向くと、俺に向かって飛んできた。
高樹が追い縋るが間に合わない。
やられる!
そう思った瞬間、黒い影が飛び出してきて化生の左腕に飛び付いた。
黒い影に見えたのは巨大な猫だった。
この模様は……。
「ミケ!」
化生がミケを振り払う。
ミケが後方に跳ぶ。
『何やってんのよ!』
ミケは俺にそう言うと、身体を低くして化生に飛び掛かった。
ミケと化生が転がる。
化生の頭がこちらを向いた。
「ミケ! どけ!」
ミケが飛び退くと同時に矢を放つ。
化生の頭に矢が突き立った。
声もなく化生は塵となって消える。
「終わった……」
俺は溜息を吐いた。
高樹は肩で息をしていた。
「うわ! なんだ!」
声が聞こえた方を振り返ると妖奇征討軍の二人がこちら――正確にはミケ――を見ていた。
ミケが元の大きさに戻る。
「化猫だ!」
ミケは妖奇征討軍を一瞥しただけで歩き出す。
「待て!」
妖奇征討軍がミケに向かっていく。
ミケは走って逃げていった。
「どうやらミケは見えても高樹は見えなかったみたいだな」
俺はほっとした。
高城の事を『化生だから退治する』などと言って付け狙うようになったら迷惑この上ない。
「羽が出てる間は見えないんだね。スマホにも写ってないし」
秀がそう言ってスマホに目を落とす。
「羽? あっ!」
今になって自分の背中に生えてる翼に気付いた高樹が目を剥く。
「こっ、これ……!? どうしたらいいんだ!? こんなの生えてたら……」
高樹が自分の翼を見て慌てて言った。
「自然に出たんだから自然に戻るでしょ」
「そんなの待ってられるか!」
「なら戻るように念じてみたら?」
祖母ちゃんが言った。
高樹は目を閉じると、
「戻れ、戻れ、戻れ……」
と呟いた。
翼は出てきたときと同様、唐突に消えた。
「戻ったぞ」
「ホントか!? ホントにもう出てないか?」
高樹はしきりに背中を気にしながら念を押すように聞いてきた。
「もう大丈夫だよ」
秀が安心させるように声を掛けた。
「飛べるなら大分有利だな」
俺が言った。
日本刀で近接戦をする高樹より弓で遠くから狙う俺が飛べた方がいいのだが世の中上手くいかないものだ。
「けど、いきなり出ても困るし、思い通りに消せないのも困るんだが」
「なら天狗に聞いてみたら?」
「十六夜や無月のいる山に行ったりしたら殺されるだろ」
「そんなところまで行かなくても根岸にいるじゃない」
そう言えば祖母ちゃんは東京の天狗の事を『根岸の』と言っていた。
俺達は、俺が放った破魔矢を探して暗い公園の中を歩き回った。
「向こうに飛んでいったヤツは無理じゃない?」
秀が言った。
「そうだな……」
俺はそう答えたものの一本千円もした矢である。
そうぽんぽん買えるものではない。
「どっちにしろ大分邪気を払える力が弱まってたから後一回使えたかどうかだったわよ」
祖母ちゃんの言葉に俺は肩を落とした。
つまり少ない小遣いからまた千円か二千円出さないといけないのか……。
「僕も破魔矢のお金出すよ」
「俺も」
「高校生三人のお小遣いじゃそのうち間に合わなくなるわよ。白狐に聞いてみなさい」
祖母ちゃんの言葉に少し安心した。
金を払わずに化生退治が出来るようになるならその方がいい。
何しろ退治したところで俺達は一円ももらえないのだ。
「じゃあ、明日、根岸に行きましょ。白狐には根岸に来るように言っておくわ」
教えを請うのに呼び付けるのもどうかと思うが仕方ない。
根岸まで片道九キロを歩いていくわけにはいかないから電車賃が掛かる。
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