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魔法の剣
閑話・ガディアの休日
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チチチ、チ、チチチチ・・・
小鳥のさえずりで、ガディアは目を覚ます。天然の目覚まし時計があれば彼には、十分なのだ。
「げっ、また農作税が値上がりじゃわい」
宅配されたビン牛乳を片手に、同じく配達された朝刊に目を通す。
近ごろは深刻な農業ブーム。人手がありすぎて、税金を引き上げでもしないと競争が過熱してしまうという社会現象が起きていた。
「みんながやるからカネになる、とて行き過ぎればウソじゃのにな」
辛酸を舐めてきた過去を持つガディアは、農家を回り歩いて片っ端から説教してやりたい気持ちになった。
自分が悪くなくてもこんな風に、とばっちりはあるのだ。そして、とばっちりでは済まなくなった事だってガディアには何度もあった。
しかし昔と違い、便利に慣れた若者たち。
バカサの子どもたちですら、昔とは変わった。
素朴なのはダサいという価値観が当たり前になり、洗練された環境が普通であってほしいという欲求は、バカサのような田舎の学校には強い風当たりとなっている。
それはガディアのような年寄りの説教に耳を貸す、純朴な若者が減った事をも意味していた。
「この浮わついた空気、戦争の始まりでないと良いんじゃがな」
ガディアはガスコンロに大きな鍋と小さな鍋をかけ、大鍋で米を炊き始めながら、そんなひとり言を言った。
しかしガディアひとりが杞憂したところで無意味なのも事実。隠れた十三傑ではあっても、隠れているゆえに発言力はそこらの田舎のおじいさんに等しいのだ。
「ふう、さてと。朝飯、朝飯」
それからガディアは近所の養鶏場に分けてもらっている鶏卵を、小さな鍋で茹でた。そう、ただの茹で卵だ。
「米も1人分なら、すぐ炊けてしまうのう」
テックが冒険学校に転入し、ノジアで生活を始めてから久しい。2人分の米を炊くのが、それまではずっと当たり前だったのだ。
「やあ。いつも通りの、うまい卵だ」
テックがノジアに出てから、いつの間にか、ガディアはひとり言が増えた。人は1人でいると、心のバランスを取るためにひとり言を言うようになるものなのかもな、とガディアは思った。
ただ、ガディアもやることがなくなった暇人ではない。茹で卵を平らげ、ご飯をかきこみ、水を1杯、飲み干したら畑仕事の始まりだ。
毎日、種を蒔くわけではないからする事なんてそんなにあるのか。そう思うなら、あまり畑仕事に詳しくないのだろう。
土や作物に害虫が付いていないか、とか水やりとか、やる事はそこそこある。バカサでは昔から畑は、男の生きる理由と言われているほどだ。
「よいしょっと。やれやれ水くみも、ひと苦労じゃ」
ガディアの家では、井戸から水を汲む。飲み水はコンロで煮沸するために前もって汲み置きした分があるが、畑にやる水はその日の畑仕事で汲むのがガディアの方法だ。
チィ、チチィチ。
「お、鳥ちゃんも腹がすくよな」
一羽の小鳥が畑の周りをうろうろしていたので、ガディアはおなかをすかせていると考えたのだ。
地面からミミズを掘り当て、鳥のそばに置いた。
ピーチ、ピチチチ。
「お、やっぱり元気になったのじゃ」
満足した様子で、小鳥は飛び立っていった。
「ガディアの親父ぃ。卵のとれたて、とれたて卵だよォ」
養鶏場の長男だ。まだ20歳だが、三兄弟の中で彼が養鶏場を継ぐということで既にほぼ決定しているらしい。
「坊っちゃん、いつもありがとな」
「うん。親父も野菜、助かってるよォ、めちゃくちゃ美味しいって近所でも評判だァ」
「はっはっは。嬉しいぜ、そんな褒められたらますます頑張るしかないのじゃな」
「俺も俺も。じゃあまたな、長生きしてくれよォ」
そして養鶏場の長男は、養鶏場に向かっていった。長男は仕事始めのついでに、いつも近所に卵を配っているのだ。
「挨拶もしっかり出来て、偉いのォ。テックにもその律儀さを半分でも、―――おっと、いかんいかん。テックにもテックの良さがあるじゃよ」
畑の水やりが終わった。まだまだ午前中で、日が高くなるには早そうだ。
「そろそろ、しょう油とケチャップが切れるかよ。ほんじゃあ、最低限だけ買うとして、後は、えーと」
在庫を見て、買い物の段取りを組む。こういう所がしっかりしていないと、テック1人とはいえ男手ひとつでは育てられなかったのだ。
「さて、ぼちぼち行きますかの」
誰にでもなく、そう告げてガディアは1人、買い出しに向かった。
買ったのは肉、パン、そして切らしていたしょう油とケチャップだ。 パンと言ってもパン・ボードの石ではなく、もちろん食べ物だ。
「ガディアさん、こんにちは」
ミーマが話しかけてきた。行きつけのスーパーはバカサにはひとつしかないスーパーなので、休日は顔見知りにはよく会うのだ。
テックの幼なじみであるミーマを、ガディアはそれなりに知っている。
「ミーマちゃん、ご両親は元気かい?」
「ええ、元気すぎてうんざりしちゃうの」
「はっは、相変わらずおてんばじゃな」
「アタシが?えー、なんでなんで」
「ほほっ」
ミーマと世間話を楽しんで、ガディアは帰宅した。
「さて、と」
昼食はチャーハンだ。ご飯を炒めながら野菜をみじん切りにし、肉を和え、最後に野菜を和えてしょう油で味付けをするガディア流チャーハンである。
「うーん、シンプル・イズ・ベスト」
そしてチャーハンを味わっていると、伝書鳩が飛んできた。
「うんうん、げえ。チッ、まあ畑仕事は一段落したし、まあ良いじゃろう」
鳩に結わえられた手紙を読み、ガディアは自転車を自宅の倉庫から運び出した。
「テックらにゃ乗れないと言っている手前、毎回面倒じゃわい」
ガディアは人目がないかを確かめながら畑の裏手、人気のいない獣道から自転車を漕ぎ出した。
ガディアは音速を少し超えるほどの早さで自転車を漕ぐ事が出来る。
「ほひひ。風が気持ちええのお」
どんどん自転車を漕いで辿り着いたのは、ハザ山だ。そして自転車を降りると、切り立った崖をするすると登り始めた。
「はあ、なんでジジイがジジイに会わねばならんのじゃ。いやいや、まあ、ミルキーちゅわんがおるからな」
標高72600メートルを30分で登るのはガディアくらいだろう。
「ミルキーちゅわあああばぶれっ」
盛大にハグしようとしたガディアを先読みし、ミルキーが渾身の裏拳を炸裂させたのだ。
「ぼほっ、ぐっ、はー、そんなミルキーちゅわんも好きッ」
素朴な人ばかりの町にいる素朴なガディアしか、テックは知らない。本来、ガディアは無類のスケベジジイなのだ。
ミルキーは半ば呆れ、半ばひきながらガディアを庵の中に通した。
「同志、どうした?」
「ぷっ~くっく。同志とどうしで、ぷーう、ははは、めっちゃおもろ、めっちゃおもろいやんけ今日のガディアくん」
実は、ムデュマはガディアの弟子だ。ガディアがムデュマに教わったのではなく、ムデュマがガディアに武術から魔法まで叩き込んだのだ。
ムデュマがわざわざ高い山に住むのは、ガディアがあまりに恐ろしい修行を容赦しないため、簡単にはガディアを来られないようにしたのである。つまり、他の修行希望者や弟子にはテキトーな理由を言っているのだ。
「リンキタイムだから。今、ワシゃリンキタイムだから。リンキタイムタイム!なんつって。ぷぷーっ」
「・・・して、何用かな」
「お前が呼んだんだろが、あちょー」
ふざけているとしか思えないこの会話から唐突に、ほぼ本気の空手チョップを脳天に直撃させてくるのがガディア本来のノリだ。それも、テックは知らないことである。
テックは、まだそれを出来るほどには強くないから、というのが理由らしい。
「ぎ、ギリギリで受け止めましたよガディアくん」
「おお、ようやくか。よし。じゃあ、また」
「待て待て待てーい。待て待て」
「なんじゃ、ワシゃ畑で忙しいのっ」
「手紙読んだ?ねえねえ、リンキなんとかくん、手紙読んだ?」
ムデュマはガディアの養子がテックだと知っているので、彼に与えた試練について念のためにガディアに報告しようと呼んだのだ。
「ああ、あー、え、テックが?」
ガディアはテックが魔法剣を使え、ハザ山のてっぺんにワープも出来るスーパーマンだとは知らないのである。
「え、し、知らんかったのか?」
「魂の剣って何」
「はー、そこは勝った。完全にボクちゃんの大勝利。見えるもんね。ボクちゃん、人が持ってる隠しウェポン透視し放題だもん」
「意味わからんけど超ムカつくな、このおっさん」
もっとも、テックの強さは主に魔法剣による補正があるため、純粋な実力しか分からないガディアが見抜けないのは無理もないのだ。
「テックが魔物退治、ねえ。ワシにゃとても信じられんよ」
「冒険者まで目指させといて、それはかわいそうだ」
「えー、そ、そうかな」
「一匹くらい倒しといてあげなよ」
「えー、そ、そうしようかな」
ガディアは親バカな所があるので、テックの事となると劇的に甘くなるのだ。
「まあ、テックがそんな強いなら大丈夫だと思うけども」
「ワシもそう思う」
「な、なんじゃそれ。じゃあなんで呼んだんじゃアホ」
「はぁ、拳骨白刃取り」
ガディアが放った正拳付きは、ムデュマに易々と受けられてしまった。弟子が師匠を越える日は近いのかもしれない。
ガディアがバカサに戻ったのは夕方になってからだ。
「よし、誰もいない」
「きゃー、誰か助けてください」
ガディアは自転車を運ぶ姿勢のまま、辺りを見渡した。すると、シマーが墓地の入り口で3人の不良に囲まれていたのだ。
「な、何しとるんじゃ、お前たち」
「あぁん?うっせえな、金持ちに金をくれってお願いしてただけなんですけどォ」
「ガディアさん、助けて。この人たち、金をくれないと殴るぞって」
ガディアは、しかし本気を出すわけにはいかなかった。強い事を知られるのは、ガディアの本意ではないのだ。
そこで、弱いけどたまたま倒せたという感じを装った。
「わあー、なんでなんでワシ?なんでなんで」
「ぐわあ」「なんつー腕力だ」「痛い痛い、どこ蹴ってんだ」
不良たちは逃げていった。
「あ、ありがとう、ガディアさん」
「へっ?いや、本当に必死。よう分からんよ、じゃあの」
シマーは呆気に取られ、ガディアと不良を代わる代わる見ていたのだった。
小鳥のさえずりで、ガディアは目を覚ます。天然の目覚まし時計があれば彼には、十分なのだ。
「げっ、また農作税が値上がりじゃわい」
宅配されたビン牛乳を片手に、同じく配達された朝刊に目を通す。
近ごろは深刻な農業ブーム。人手がありすぎて、税金を引き上げでもしないと競争が過熱してしまうという社会現象が起きていた。
「みんながやるからカネになる、とて行き過ぎればウソじゃのにな」
辛酸を舐めてきた過去を持つガディアは、農家を回り歩いて片っ端から説教してやりたい気持ちになった。
自分が悪くなくてもこんな風に、とばっちりはあるのだ。そして、とばっちりでは済まなくなった事だってガディアには何度もあった。
しかし昔と違い、便利に慣れた若者たち。
バカサの子どもたちですら、昔とは変わった。
素朴なのはダサいという価値観が当たり前になり、洗練された環境が普通であってほしいという欲求は、バカサのような田舎の学校には強い風当たりとなっている。
それはガディアのような年寄りの説教に耳を貸す、純朴な若者が減った事をも意味していた。
「この浮わついた空気、戦争の始まりでないと良いんじゃがな」
ガディアはガスコンロに大きな鍋と小さな鍋をかけ、大鍋で米を炊き始めながら、そんなひとり言を言った。
しかしガディアひとりが杞憂したところで無意味なのも事実。隠れた十三傑ではあっても、隠れているゆえに発言力はそこらの田舎のおじいさんに等しいのだ。
「ふう、さてと。朝飯、朝飯」
それからガディアは近所の養鶏場に分けてもらっている鶏卵を、小さな鍋で茹でた。そう、ただの茹で卵だ。
「米も1人分なら、すぐ炊けてしまうのう」
テックが冒険学校に転入し、ノジアで生活を始めてから久しい。2人分の米を炊くのが、それまではずっと当たり前だったのだ。
「やあ。いつも通りの、うまい卵だ」
テックがノジアに出てから、いつの間にか、ガディアはひとり言が増えた。人は1人でいると、心のバランスを取るためにひとり言を言うようになるものなのかもな、とガディアは思った。
ただ、ガディアもやることがなくなった暇人ではない。茹で卵を平らげ、ご飯をかきこみ、水を1杯、飲み干したら畑仕事の始まりだ。
毎日、種を蒔くわけではないからする事なんてそんなにあるのか。そう思うなら、あまり畑仕事に詳しくないのだろう。
土や作物に害虫が付いていないか、とか水やりとか、やる事はそこそこある。バカサでは昔から畑は、男の生きる理由と言われているほどだ。
「よいしょっと。やれやれ水くみも、ひと苦労じゃ」
ガディアの家では、井戸から水を汲む。飲み水はコンロで煮沸するために前もって汲み置きした分があるが、畑にやる水はその日の畑仕事で汲むのがガディアの方法だ。
チィ、チチィチ。
「お、鳥ちゃんも腹がすくよな」
一羽の小鳥が畑の周りをうろうろしていたので、ガディアはおなかをすかせていると考えたのだ。
地面からミミズを掘り当て、鳥のそばに置いた。
ピーチ、ピチチチ。
「お、やっぱり元気になったのじゃ」
満足した様子で、小鳥は飛び立っていった。
「ガディアの親父ぃ。卵のとれたて、とれたて卵だよォ」
養鶏場の長男だ。まだ20歳だが、三兄弟の中で彼が養鶏場を継ぐということで既にほぼ決定しているらしい。
「坊っちゃん、いつもありがとな」
「うん。親父も野菜、助かってるよォ、めちゃくちゃ美味しいって近所でも評判だァ」
「はっはっは。嬉しいぜ、そんな褒められたらますます頑張るしかないのじゃな」
「俺も俺も。じゃあまたな、長生きしてくれよォ」
そして養鶏場の長男は、養鶏場に向かっていった。長男は仕事始めのついでに、いつも近所に卵を配っているのだ。
「挨拶もしっかり出来て、偉いのォ。テックにもその律儀さを半分でも、―――おっと、いかんいかん。テックにもテックの良さがあるじゃよ」
畑の水やりが終わった。まだまだ午前中で、日が高くなるには早そうだ。
「そろそろ、しょう油とケチャップが切れるかよ。ほんじゃあ、最低限だけ買うとして、後は、えーと」
在庫を見て、買い物の段取りを組む。こういう所がしっかりしていないと、テック1人とはいえ男手ひとつでは育てられなかったのだ。
「さて、ぼちぼち行きますかの」
誰にでもなく、そう告げてガディアは1人、買い出しに向かった。
買ったのは肉、パン、そして切らしていたしょう油とケチャップだ。 パンと言ってもパン・ボードの石ではなく、もちろん食べ物だ。
「ガディアさん、こんにちは」
ミーマが話しかけてきた。行きつけのスーパーはバカサにはひとつしかないスーパーなので、休日は顔見知りにはよく会うのだ。
テックの幼なじみであるミーマを、ガディアはそれなりに知っている。
「ミーマちゃん、ご両親は元気かい?」
「ええ、元気すぎてうんざりしちゃうの」
「はっは、相変わらずおてんばじゃな」
「アタシが?えー、なんでなんで」
「ほほっ」
ミーマと世間話を楽しんで、ガディアは帰宅した。
「さて、と」
昼食はチャーハンだ。ご飯を炒めながら野菜をみじん切りにし、肉を和え、最後に野菜を和えてしょう油で味付けをするガディア流チャーハンである。
「うーん、シンプル・イズ・ベスト」
そしてチャーハンを味わっていると、伝書鳩が飛んできた。
「うんうん、げえ。チッ、まあ畑仕事は一段落したし、まあ良いじゃろう」
鳩に結わえられた手紙を読み、ガディアは自転車を自宅の倉庫から運び出した。
「テックらにゃ乗れないと言っている手前、毎回面倒じゃわい」
ガディアは人目がないかを確かめながら畑の裏手、人気のいない獣道から自転車を漕ぎ出した。
ガディアは音速を少し超えるほどの早さで自転車を漕ぐ事が出来る。
「ほひひ。風が気持ちええのお」
どんどん自転車を漕いで辿り着いたのは、ハザ山だ。そして自転車を降りると、切り立った崖をするすると登り始めた。
「はあ、なんでジジイがジジイに会わねばならんのじゃ。いやいや、まあ、ミルキーちゅわんがおるからな」
標高72600メートルを30分で登るのはガディアくらいだろう。
「ミルキーちゅわあああばぶれっ」
盛大にハグしようとしたガディアを先読みし、ミルキーが渾身の裏拳を炸裂させたのだ。
「ぼほっ、ぐっ、はー、そんなミルキーちゅわんも好きッ」
素朴な人ばかりの町にいる素朴なガディアしか、テックは知らない。本来、ガディアは無類のスケベジジイなのだ。
ミルキーは半ば呆れ、半ばひきながらガディアを庵の中に通した。
「同志、どうした?」
「ぷっ~くっく。同志とどうしで、ぷーう、ははは、めっちゃおもろ、めっちゃおもろいやんけ今日のガディアくん」
実は、ムデュマはガディアの弟子だ。ガディアがムデュマに教わったのではなく、ムデュマがガディアに武術から魔法まで叩き込んだのだ。
ムデュマがわざわざ高い山に住むのは、ガディアがあまりに恐ろしい修行を容赦しないため、簡単にはガディアを来られないようにしたのである。つまり、他の修行希望者や弟子にはテキトーな理由を言っているのだ。
「リンキタイムだから。今、ワシゃリンキタイムだから。リンキタイムタイム!なんつって。ぷぷーっ」
「・・・して、何用かな」
「お前が呼んだんだろが、あちょー」
ふざけているとしか思えないこの会話から唐突に、ほぼ本気の空手チョップを脳天に直撃させてくるのがガディア本来のノリだ。それも、テックは知らないことである。
テックは、まだそれを出来るほどには強くないから、というのが理由らしい。
「ぎ、ギリギリで受け止めましたよガディアくん」
「おお、ようやくか。よし。じゃあ、また」
「待て待て待てーい。待て待て」
「なんじゃ、ワシゃ畑で忙しいのっ」
「手紙読んだ?ねえねえ、リンキなんとかくん、手紙読んだ?」
ムデュマはガディアの養子がテックだと知っているので、彼に与えた試練について念のためにガディアに報告しようと呼んだのだ。
「ああ、あー、え、テックが?」
ガディアはテックが魔法剣を使え、ハザ山のてっぺんにワープも出来るスーパーマンだとは知らないのである。
「え、し、知らんかったのか?」
「魂の剣って何」
「はー、そこは勝った。完全にボクちゃんの大勝利。見えるもんね。ボクちゃん、人が持ってる隠しウェポン透視し放題だもん」
「意味わからんけど超ムカつくな、このおっさん」
もっとも、テックの強さは主に魔法剣による補正があるため、純粋な実力しか分からないガディアが見抜けないのは無理もないのだ。
「テックが魔物退治、ねえ。ワシにゃとても信じられんよ」
「冒険者まで目指させといて、それはかわいそうだ」
「えー、そ、そうかな」
「一匹くらい倒しといてあげなよ」
「えー、そ、そうしようかな」
ガディアは親バカな所があるので、テックの事となると劇的に甘くなるのだ。
「まあ、テックがそんな強いなら大丈夫だと思うけども」
「ワシもそう思う」
「な、なんじゃそれ。じゃあなんで呼んだんじゃアホ」
「はぁ、拳骨白刃取り」
ガディアが放った正拳付きは、ムデュマに易々と受けられてしまった。弟子が師匠を越える日は近いのかもしれない。
ガディアがバカサに戻ったのは夕方になってからだ。
「よし、誰もいない」
「きゃー、誰か助けてください」
ガディアは自転車を運ぶ姿勢のまま、辺りを見渡した。すると、シマーが墓地の入り口で3人の不良に囲まれていたのだ。
「な、何しとるんじゃ、お前たち」
「あぁん?うっせえな、金持ちに金をくれってお願いしてただけなんですけどォ」
「ガディアさん、助けて。この人たち、金をくれないと殴るぞって」
ガディアは、しかし本気を出すわけにはいかなかった。強い事を知られるのは、ガディアの本意ではないのだ。
そこで、弱いけどたまたま倒せたという感じを装った。
「わあー、なんでなんでワシ?なんでなんで」
「ぐわあ」「なんつー腕力だ」「痛い痛い、どこ蹴ってんだ」
不良たちは逃げていった。
「あ、ありがとう、ガディアさん」
「へっ?いや、本当に必死。よう分からんよ、じゃあの」
シマーは呆気に取られ、ガディアと不良を代わる代わる見ていたのだった。
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