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2章 学園生活
133話 とある侍女の思い出
しおりを挟むここがチェルビース公爵様のお屋敷……。今まではずっと遠くに見てきたお屋敷の大きさに、思わず固まってしまう。
でも、やっと。やっと認めてもらったのだ。ずっとこのお屋敷で働くお母さんやお父さんにあこがれてきた。でも、まだ幼くてお仕事なんてとてもできないからと、私はずっと家でお留守番だったのだ。
家のお嬢様のご年齢が私と近ければ、遊び相手としてお屋敷に通っていたかもしれないけれど、唯一のお嬢様であるアリストリア様はもうご成人しているから大分年上なのだ。
「ルナベーク、早くこちらへいらっしゃい」
「は、はい!」
まだ真新しい侍女服を握りしめると、私はお母さんの背中を追いかけた。
「あら、あなたがルーゼリアの娘?」
連れてこられた先はアリストリア様のお部屋。お母さんはアリストリア様の専属侍女をしているのだ。
「る、ルナベレーク、と申します。
よろしくお願いいたします」
教えられたとおりに何とか礼をする。いわれて顔を上げると、アリストリア様はとても柔らかい笑みを浮かべて私を見ていた。
「ええ、よろしくね。
私が嫁ぐまでの短い間にはなってしまうけれど……」
そういってアリストリア様は少し顔を曇らせる。今回のご結婚は相手側の強い要望の元、成立したと聞いていたけれど、やっぱり乗り気ではないのだろうか。
表情が少し気になったけれど、聞けるはずもなかった。
「ルーゼリア、お茶を入れてくれないかしら。
ルナベレークの分も」
「お嬢様!
娘は侍女見習いとしてこちらに来たのです。
ともにお茶を、なんて……」
「いいじゃない。
私、妹が欲しいなって思っていたのよ」
あ、アリストリア様とお茶⁉ なんて恐れ多いことを。
「アリストリア様!
あの、私何か仕事を……」
「あなたの仕事は私とお茶を飲むことよ」
ね? と言い切るアリストリア様に私もお母さんもそれ以上は強く言えない。結果、なぜか主と席とともにしてしまった。
お茶を飲み、お菓子を食べる。その間も私はずっと緊張しっぱなしだった。だって、まさか初めてお屋敷に来て、こんなことになるなんて思うはずがない。どうしてこうなった??
結局その日は侍女としての仕事は何もせず、一日アリストリア様の話し相手としてかわいがってもらっただけで終わってしまった。
次の日もお母さんとお父さんと一緒にお屋敷に行く。もう一人置いて行かれないで済むのは正直とても嬉しいのだ。でも、今日はどういう風に過ごすのだろう。
「ねえ、ルナベレーク。
昨日一日、私と一緒に過ごしてみてどうだった?」
「どう、ですか?
その、アリストリア様とともに過ごせてとても幸せでした」
なんと答えるのが正解かわからなくて、とりあえずぱっと思い浮かんだことを口にする。すると、アリストリア様は想定外のことを言われたかのように、きょとんとしてしまった。これは間違えたか。
失敗した、と謝ろうとする直前。驚いたことに聞こえてきたのはアリストリア様の控えめな笑い声だったのだ。
「ふ、ふふ。
あなたってとても面白いわ。
そんなことを言われるなんて思ってもいなかったもの。
でも、ありがとう」
今までもアリストリア様はおしとやかに微笑んでいた。でも、今は。周りの目なんて気にしていないように、アリストリア様はただ楽しそうに笑っていらしている?
「あのね、昨日は体験してもらおうと思ったのよ。
あなたがこれから仕える『お嬢様』という存在がどんな日常を送っているかを。
本当は私の専属として徐々に教えていければよかったのだけれど。
私はもうすぐ嫁いで行ってしまうでしょう?」
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でも、私のほうが大切なものをもらってしまったわね」
にこやかに笑いながら、そういうアリストリア様はとても美しかったのだ。
「私、誠心誠意アリストリア様にお仕えいたします」
それがたとえ限られた時間だったとしても。
その日から一年もしないよく晴れた日。アリストリア様は嫁いで行かれた。そしてそれ以来二度と会うことはなかったが、アリストリア様に誓った思いは今だに胸の中にある。
そして今、私の目の前にはアリストリア様によく似たお嬢様がいる。バーセリク侯爵への思いはきっと一生消えないけれど。もう二度とアリストリア様にお仕えできないのならば、その分もきっとこの方にお仕えしましょう。だから安心してください、アリストリア様。
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