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2章 学園生活
189話 命の灯
しおりを挟む「お、お姉様は⁉」
息が整わない。でも、そんなの関係ない。お姉様に一体何があったの。部屋の前に立っていたヴァークに思わず縋り付いていた。
「ウェルカ⁉
もう大丈夫なのか?」
「ねえ、お姉様は⁉」
「ひとまず、落ち着いて」
でも、と言い募ると水を差し出される。喉が渇いていたのでありがたく飲むことにした。最近ろくに歩いてなかったからこれだけでも結構きつい。
「それで、お姉様は?」
「今は……」
ちらりと視線を向けたのはお姉様の部屋。止めようとするヴァークを無視して部屋へと入っていく。そこではいろいろな声がいきかっていた。
「早くお湯を!」
「ああ、それはこちらに」
「アゼリア様!」
すぐにお姉様のベッドの方に向かう。そこではばたばたと人が動いている。声も音もする。それでもなぜか私の耳にはお姉様の浅い息がはっきりと聞こえてきた。
「お姉様!」
ばっとベッドの横に走り、お姉様の手を握る。額にびっしりと汗をかきながら、はっ、はっと息を繰り返している。とても苦しそうな中、うっすらと目を開けた。
「うぇる、か?」
「はい!
お姉様、頑張って」
もう何がどうなっているのかはわからない。でも、とにかく必死に治癒魔法をかけていく。一体何があってこうなったの? ただ出産ってこういうものではないよね。
「うぇるか……。
このこを、おねがい。
おねがい……」
「何を言っているんですか!
お姉様が育てるのでしょう?
お姉様!」
「ちょっと、すみません!
アゼリア様こちらを」
「治癒魔法をかけていくのでいらないです」
薬なんて飲ませてもいつ効き始めるのかわからない。だったら魔法を使ってしまう方が楽だ。
「治癒魔法?
あなたは一体」
この人、ここまで近づいていて私はだれかわかってないの⁉
「妹です。
私には出産はわかりませんのでお願いします」
とにかくどうしたらいいのか必死に考える。疑問に答えるのももう惜しい。
お姉様に話しかけながら、魔法をかけていく。さすがに病み上がりだから、頭が少しくらくらしてくるけれど、そんなことはどうでもいい。今はとにかくお姉様だ。
そこからはもう必死だった。もう子を産むしかない状況だったらしく、準備が進められていった。そしてそのまま出産が始まる。
その間もずっと治癒魔法をかけているから、どんどんと魔力がなくなっていくのを感じる。それでももう安心していいのでは、というほどの回復は一向にしてくれない。どうして?
「お姉様、頑張って!
もう少し、だから」
なんの根拠もない。でもそうして勇気づけるしかできない。そうしているうちに一人の人が大きな声を上げた。
「赤子が、泣かない!」
「うぇる、か。
あのこのほうを」
お願い、という言葉は聞こえない。でも、お姉様の気持ちだけは痛いほどに伝わってきた。私はどうしてもお姉様を救いたい。でも、もしもそれでこの子が生きられなかったらお姉様は一生苦しむ。
「おねがい」
「でも……」
「おねがい……」
お姉様にあてていた手をお姉様に捕まれる。想像以上に強い手でギュッとつかまれて痛いくらいだった。それがきっとお姉様の意思の強さ。なら、私は。
生まれたばかりの子の治癒なんてしたことがない。下手に力を入れすぎると逆効果なのはわかる。でも、正しい力の量なんてわからない。やるしかないこの状況が怖い。頭もぼうっとしてくるし。
「お姉様をお願いします」
赤ちゃんを見ていた人にそれだけを言うと、周りの状況はシャットアウトする。とにかく目の前の赤ちゃんに集中しないと。
泣かないのはなんでだろう。出産の本なんて読んだことない。でもやるしかない。とにかく泣いて、元気になって、そう願いながら治癒をかけていく。ゆっくり、少しずつ、決してこれが傷つける力にならないように。とにかく願うしかない。
「っ、あああああ!
うああああああああああ!」
「ない、た。
たすかった?」
「アゼリア!」
へなへなと力が抜けていく。そのタイミングでベルク殿下が部屋に入ってきた。そっか、殿下いなかったのか。
「赤子はこちらに」
ずっと子のそばにいた人が赤ちゃんを請け負ってくれる。この後どうすればいいかわからなかったからよかった。そしてその人がしっかりと赤ちゃんを抱くのを確認すると、すぐにお姉様の方に向かった。
「お姉様!」
「ありが、とう、うぇるか」
「アゼリア様!
とてもお可愛らしい子ですよ」
赤ちゃんの顔を見ると、少しだけほほ笑む。よかった、かすれた声でそうつぶやくとそのまま目を閉じた。
「お姉様!」
「アゼリア!」
治さないと、そう思ってまた手を当てる。魔法を使おうとすると、いきなり目の前がくらくなった。これはまずい……。
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