それは、キラキラ光る宝箱

花町 シュガー

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美しい君

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『そこに誰かいるのか?』

『っ!』

 それは、家に帰ってすぐのことだった。

 私の身の世話をしてくれるメイドは3人。
 両目に包帯を巻いているため、歩く音や声等でなんとなくどの者なのかを把握している。
 だが、私の女癖が悪いのを噂されてか3人とも話しかけてはこなかった。
 こちらから聞けば答えてくれるが、他愛ない話などできるような気配ではない。

 目が見えないため本を読むこともできず、仕事もすることもできず、毎日が暇で暇で仕方がなくて……

 そんなとき、開けていた窓の外から物音がした。

 手探りで近づき声をかけると、人の気配。

『いるのはわかっている。どこなんだ?』

 (……返事がない?)

 無視か? そんなまさか。
 私はそこまで使用人に嫌われていたのか?
 ──あぁ、なんだか腹が立つな。

 (少しからかってやるか)


『おい、聞いているのか ──っ、』


『!!』


 わざと窓から身を乗り出しすぎて落ちそうになる体。
 それを、慌てるように草を踏んだ足音が支えてくれた。

『はははっ、捕まえたぞ』

 その助けてくれた手首をガッチリ掴み、グイッと窓の近くまで引き寄せる。

 (細いな)

 もう少し強く握れば折れてしまいそうな手首と、引き寄せればよろけるように簡単に動く身体。

『お前、女か?』

『…………』

『……おい? ここまで来てもまだ無視なのか?』

 (なんだこいつは。両親は一体どんな教育をしている?)

 いくら嫌われていようが、私はこの家の者だ。
 使用人が主人を無視するなどあってはならない。

『いつまでだんまりを続ける。これ以上は私も父にお前の話をする──』

『っ!』

 グイッ!と突然私の手が強く引かれた。

『っ、貴様…!』


 〝私は、声が出ません〟


『…………な、に?』


 手の甲に走るように書かれた文字。
 驚いて力の抜けた私の手を裏返し、今度は手のひらに1文字ずつ言葉を書いていく。

 〝数々のご無礼をお許しください。安静に過ごさねばならない中、物音を立ててしまい申し訳ありませんでした〟

『……お前、声がでないのか?』

 〝はい。幼い頃に失くしております〟

『もっと強く私の手を握りなさい』

 恐る恐る触れられるそれに少し苛立つと、ビクリとその者が震えたのがわかった。
 それからすぐに、私の手の甲へもう片方の手が添えられる。

『私よりも小さい手だな。女か?』

 〝いいえ、男です〟

『男なのか。年は?』

 〝23になります〟

『23だと……? 身長は? ちゃんと食べてるのか?』

 〝身長はご主人様の胸ほどでございます。
 ちゃんと食べております。ご飯はとても美味しいです〟

『っ、はは、そうか美味いか』

 〝!!〟

『やってしまった!』と言うようにわたわた揺れる体に、どうしようもなく笑えてくる。

 私は28になるから5つ下か。
 背も胸ほどとは、小柄な身体なのか? それならこの手首の細さや手の小ささは納得がいく。
 そして、どうやらこの者は23のわりにはとても素直な性格のようだ。

『好きなメニューはなんなんだ? この屋敷のコックがお前たちの分も作っているのか?』

 〝はい。いつも3食出してくださいます。好きなメニューはミートソースのパスタです〟

『ミートソース? ……あぁ、そう言えば私も幼い頃はそれが好きだったな。確かミートソースを作るのが上手いコックがいたような…今もその者がいるのか?』

 〝はい、おそらく。絶品です〟

『くくく、そうかそうか』

 多分、今の〝絶品です〟にはビックリマークが付いていたと思う。絶対に。
 それくらい強く文字を書かれた。

 (面白い)

 こんなたわいもないことで笑えたのは、一体いつぶりなんだろう?
 もう……両目を怪我するずっと前から私は上手く笑えていなかったように思う。


 〝あの、ご主人様〟


『ん? なんだい?』


 〝私のこと、報告しないでいただけませんか……?〟


 震える指先で恐る恐る書かれるその文字。

『あぁそうだな……謝ってくれたし、報告はしないでおくよ』

 〝ありがとうございm〟

『──そのかわり』

 お礼を書く手をグッと私の手で包み込む。


『これから、私が窓から手を出したらこうやって話をしにきてくれないかい?』


 毎日がつまらなくて、退屈で、時間が経つのが長くて。
 そんな日々に少しの刺激が欲しくて、話し相手が欲しくて。

『私のことはご主人様じゃなく〝フェルナンド〟と書いていい。特別に許可しよう。
 君の名前はなんと言う?』

 〝……カエデと申します〟

『カエデか。珍しい名だな。
カエデ、私の手のひらにフェルナンドと書いて』

 〝フ、フェルナンド、様〟

『そう、そうだ。これからそうするように。
そして私の話し相手になってくれ。いいかい?』

 〝……かしこまりました〟


 正直、私の部屋が1階でよかったと思ったのは初めてかもしれない。

 こうして、私の退屈な日々は少しづつ形を変え始めたのだ──




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