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美しい君
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しおりを挟む「明日、包帯が取れるんだ」
〝本当ですか。よかったですね〟
「あぁ」
遂に明日、包帯が取られる。
医者の処置もあり、見事全治5ヶ月で治りきった。
〝5ヶ月間、本当によく頑張られましたね〟
「カエデがいてくれたからね。目が見えなくても退屈ではなかったよ」
あっという間の5ヶ月。
これまでのどの時間よりも楽しく、優しく、あたたかいものだった。
(メイドとの距離もやっとなくなったのにな……まぁしょうがない)
「そうだ、カエデ」
〝はい〟
「花束のお礼がしたいんだけど、なにか欲しいものはないかい?」
いつも貰っていた花束。
あれのおかげでメイドたちとも喋ることができるようになったし、恐らく私の部屋の雰囲気も変わったのだろう。
生活をよりよいものへ変えてくれたそのお礼を、私はまだしていない。
〝そんな、いいのです。花たちもフェルナンド様に触っていただいてきっと喜んでおりますし、だから〟
「いいや、私がしたいんだ。頼む」
〝……しかし〟
「駄目か……?」
〝…………〟
パタリと、カエデの手が私の手のひらの上で止まる。
それを根気強く待っていると、またゆっくりと指が動き出した。
〝フェルナンド様の瞳は、何色なのですか?〟
「私か? 黄色だ」
髪色は母親の淡い色を受け継いだが、瞳の色は父親の強い色を受け継いだ。
〝そうなのですね。それは、太陽のような?〟
「いや、レモンに近いな。よくレモン味の飴玉のようだと言われてきた」
〝レモン…それは……〟
不意に、ピクリとカエデの指が震える。
〝とても、綺麗なのでしょうね〟
「……カエデ?」
何故か
何故か、今
カエデがとても遠くにいる感覚がした。
(馬鹿な、いま手を握っているじゃないか)
どうしてそんなことを思うんだ?
〝フェルナンド様の目は、きっと〟
「っ、」
思考に意識を飛ばしている間も、カエデの指はどんどん文字を書いていく。
〝きっと宝石のようにキラキラしていて、太陽にかざすと透明に光るガラス玉のように美しく、凛々しくて。
そして笑うと、蜂蜜みたいに甘くとろけるような……そんな、優しい瞳なのでしょうね。
私も、その瞳に…………〟
「……?」
また、パタリと指が動かなくなった。
よくわからない焦燥と謎の不安に、心臓の音が変にうるさなってきて、胸が苦しい。
(なんなんだ、これは)
〝フェルナンド様〟
「っ、あぁ、どうした?」
〝花束のお礼、やはり今貰ってもよろしいでしょうか?〟
「……ん、今? 待て、まだなんの準備もしていない」
今日なにが欲しいかを聞いて、明日目が見えるようになってから自分の足で買いに行こうと思っていた。
自分の納得できる品を見つけて、それからその品と共に、想いを──
〝フェルナンド様〟
「なんだい? 今日はたくさん名を書いてくれるな」
今日はやけに1文字1文字を大切に書かれている感触がする。
〝私は、この5ヶ月間とても幸せでした。
初めて話しかけていただいたときには本当に驚きましたが、それから毎日が夢のような時間で……いつの間にか献立のミートソースよりも楽しみな時間になっていました〟
「ふはは、私はミートソースに勝てたか。そうか」
(……どうして)
何故、過去形なんだろう?
聞きたいけれど、それを聞いてしまったらどうしてだかカエデが消えてしまうような気がして……書いている手を、止めることができない。
〝初めてお送りした花束もあんなにも喜んでいただけて、これまで私が学んできたことは無駄ではなかったのだと思うことができました。
他愛ない話もたくさんしていただけて…私が文字を書くのにも合わせてくださって、私が書き終わるのを、いつもいつも…優しく笑って、待っていてくださって……〟
段々と、震えてくる細い指先。
〝私は、毎日ずっと、1階にあるこのお部屋の窓から手が出されるのを……心待ちにしていました。
フェルナンド様の手は…大きくて、暖かくて優しくて、私は……〟
「っ、」
〝私は、とても幸せ者でした〟
「カエ、デ……なにを」
〝だから〟
「わ、っ」
グイッと引かれる手。
突然のことにバランスを崩し、慌てる私の 唇に
「──、」
〝たくさんたくさん、ありがとうございました。
ごめんなさい〟
驚いて固まる私の手のひらに、走り書きの文字。
「っ、ぁ、おいカエデ!」
ハッと直ぐに我に返り捕まえようとしたが、スルリと腕を抜け立ち去られていく。
「カエ…デ……?」
(これは……一体なんなんだ?)
私は今、何をされた?
唇のこの感触は、口づけ?
何故カエデから口づけを? 花束のお礼のつもりで?
お礼で口づけを選ぶのか? それは──
「──っ!」
(待て、待て)
今すぐに追いかけたい衝動を、なんとか抑える。
カエデは私の瞳を見たがっていた。
ならば、明日私の目が復活してから会いにいったほうがいい。
その時にこの口づけの意味とその理由を聞いて、それから……
ドクリと嫌な音を立てる心臓をどうにか落ち着けながら、それでもなくならない漠然とした不安を、抱え
早く明日が来いと、ただ 祈った。
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